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全能神  作者: 碾貽 恆晟
第四章 魔神に魅入られた男
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第16話 夢





「ここは……」


 マーヴァミネが目を覚ますと、そこはかつてワラオヌスやミラオーネと一緒に暮らしていたあの村だった。


「また、またなのかっ!?」


 何千という時を繰り返しても、何度やっても、全てを奪われる。


 一度は、全てに逆らわずワラオヌスとミラオーネと一緒に生き続ける選択をしたこともあった。だがそれも全て、内乱などで敗れたマーヴァミネは再び5歳の時の時間に戻るのだ。


 何をやっても、どううまくやろうとしても、全て無かったことにされる。


 彼が自殺をしたこともあった。だが、それは時間の巻き戻しを早めるだけの行為でしかない。


 死は終わりなく、新たな生の始まりでしかない。


 地獄のようなその仕打ちが行われるその年月は、億を超えて、兆の桁に達しようとしている。


 精神はもはや取り返しのつかないほど疲弊している。時が戻ってすぐ絶望し、何を言われても反応せず、何もすることはない。


 生きた死骸、といった表現を使いたくなる有様だ。


 とは言え、まったく喋らないというわけでもない。


「あ……」


 と、小さな声──それも彼の近くで耳を澄ましていなければ聞こえないほど──を発する程度。


 それは言葉にはならず、ただ何かを訴えるかのような音でしかない。


 もはや、彼は己の殻に閉じこもって、ただ無意味な思考に身をまかすことしかできない存在となった。


 死ぬに死ねず、ただ同じような考えがループする。


 外界には反応せず、当然のことながら興味も持たない。だがそれは、一種の処世術であるかもしれない。


 何をやっても死から逃れることはできないのに、死ねば時は戻る。あぁ、なんて残酷な仕打ちであろう。


 マーヴァミネの精神は限界に達した。


 その時、それを待っていたかのようにその精神に侵入するものがあった。


 人のような精神形態を持つ存在の夢を通じてでしか世界に干渉できない数少ない存在。それは、もはや死んだと同義とも言えるマーヴァミネの魂を一瞬にして乗っ取り、己のものとした。そして、恐ろしいことに、その存在は今まさにこの“夢”から醒めようとしていた。


 だが、その夢は全能神の力で作られたもの。そう易々と破れるわけがない。


 それでも、マーヴァミネが永遠の時を繰り返していることを良いことに、何度も試行錯誤できる時間だけはあった。


 そして、あらゆる方法を試してなお解決できないことを知ると、その存在は博打に出ることにした。


 生まれるは、世界が最も憎く思っている存在。


 異界の化け物。


 《《ソレ》》が肉体を得たことで、その存在は世界の縛りを解かれ、自由となった。本来制限される力も自由に使える存在。


 間違いなく、神に届く存在として誕生する。



 ──だがしかし、そんなことを全能たる神が想定していないとことがあるだろうか?


 その存在がいたのは必然。むしろ、それを使えば、もっと面白いことになる。そのような打算があったからこそ、存在することを許されたのだ。


 そんなことを知る由もないその存在はと言うと、自由を謳歌していた。これまでマーヴァミネが歩んできた道とは明らかに違う生き方。そもそも人としての在り方を殴り捨てている。知識として知ってはいるが、その有用性が理解できない精神構造の違いがから生まれた違いであろう。


 そして、マーヴァミネにとってはあまりにむごい死を迎える。


 そして、その記憶を得た上で彼、マーヴァミネは復活した。異物である存在もそこに同居したことで、相手の精神構造の違いからくるすれ違いや、異物のしでかした記憶を見たことで、発狂寸前といった状態になっている。


 せっかく復活したのに、またすぐ生命活動しかしないような元の状態に戻り始めている。


 希望のないこの世界で生き続けるというのは苦痛でしかない。それが本来人が持つ寿命の何千倍以上の時間続くのだ。


 マーヴァミネはついに生まれた故郷を離れ、彷徨い歩いた。


 ただ黙りこくって、生きるためだけの活動を続けた。


 それは、現実への逃避なのかもしれない。これまで彼はワラオヌスとミラオーネと共に未来を変えようとしてきたが、全てことごとくうまくいかず失敗ばかり。


 そして、自死を選んでも元に戻るだけ。


 その現状から目を背け、彼は一人で生きる道を歩んでいると言える。


 全ては、鬼崎の思い描く通りに進んでいる。


 マーヴァミネは、旅先のとある村で数歳年下の少女と出会う(この時、彼は13歳だった)。


 その少女と出会いは彼を変えた。彼は彼女と共に生きて、成人を迎えた。そして、結婚。子供も生まれた。


 そして、子供が5歳の時、村は業火に包まれた。


 マーヴァミネはワラオヌスが“授与の根源”を得る前に故郷を離れたので、魔法は使えない。


 つまり、彼は何もできずに、盗賊に殺された。


 この世にあるありふれた死。ありふれた終わり。これまで、マーヴァミネが何度も何度も行った残虐非道な行い。それに比べたらかわいいものと言えるのに、彼は始めてそれを実感した。


 大切な人の死を、全てを壊される絶望を。決して、ワラオヌスとミラオーネと生きることでは得られなかった何かを、彼は得た。



 ──そして、マーヴァミネは目を覚ました。


「あぁ、起きたか」


 草原の上に横たわっていた身をゆっくりと起こして、彼は鬼崎を見つめた。




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