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全能神  作者: 碾貽 恆晟
第四章 魔神に魅入られた男
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第12話 世界





「ここが、お前の世界だと……?」


 信じられない。いや、信じたくないと言った声色か。それとも、意味がわからないとでも言いたげな声か。マーヴァミネの瞳はかげりを見せている。それが、何を意味するのは圧倒的な差を知ったときのもの。


 絶望しているのだろうか。もしそうなら俺は腹を抱えて笑ってしまうのを堪えることができなかっただろう。


「……世界を作ったと言うのか?」


 ようやく言葉の意味を咀嚼し切ったのか、マーヴァミネは言葉を発した。だが、それは俺に向けられた言葉ではなく、自分の考えが思わず飛び出たといった様子である。


 そうとわかっていても、答えてあげよう。俺は今気分がいいからな。


「世界を作ったと言っても、地球と同じものを作っただけさ。この世界には月もなければ太陽もない。空にあるものは飾りで、本物ではない。ここは、そんな世界なんだよ」


 つまり、俺は生物がいないと言う以外全てが同じ地球を作り出したのだ。参考にしたのは今日の朝。そのとき、その場所にあった建物やもの、全て一切変わることない状態のまま作り出された世界だ。


「だけどな。ここは俺の作った世界だから、いくらでもいじれる」


 空を見上げる。空の色は移ろい、オレンジに染まる。そしてすぐ後に紺、黒と変化していく。


 自分の世界だとわかるように黒の空には星ひとつない。


「は、はは。お前は……なんなんだ?」


 もう、わかっているだろうに、わざわざ俺の口から答えを聞こうとしている。


 否定して欲しいのだろうな、と思う。だが、俺はマーヴァミネに気を使う必要などない。


「わかってるだろ?」


 たんたんと、事実を述べてやる。


「俺は、全能神だ。この世界で3番目に生まれた。全能の力を持つ神。お前と俺の間には超えられない壁があるんだよ」


 そう、俺とマーヴァミネはあまりにもかけ離れた力の差がある。それは、変えることのできないことわりだ。まぁ、俺の元来の能力も関係してるが、そんなのは匙だ。


 そして、この創られた世界で俺に勝てるのはいないと言っていい。それこそ、俺の先輩の神々でも負けない自信がある。まぁ、この世界に引き摺り込むことができる時点で、神々の中でも弱者か余程の余裕をかましている相手なのだが……。


 それはさておき、ここであれば、負ける可能性はほぼないとわかっているのだ。だが、とは言えだ。俺はいまだにこの世界の限界というか、スペックを知らないのだ。


 なにせ、初めて使う力だ。俺にはまだ何もわかっていない。たとえ、ここで俺が最強でもその力をきちんと使えなければ、宝の持ち腐れ。


 手始めに、と重力を100000000倍まで引き上げてみる。


 マーヴァミネは一切対応する暇もなくうつ伏せになる。まるで、地を這う生き物のようだ。


 だが、意地か何かがそうさせるのか、両手をついて、立ちあがろうとしている。もちろん、指ひとつ動かせちゃいない。


 そうしようとしているだけだ。とても、滑稽。これが、俺とこいつとの決して変わることはない差なのだ。


 もしも、マーヴァミネがワラオヌスに執着などしないで、自らの最も得意な力を選びとれば、俺を前にしても数秒程度はもったかもしれない。だが、それはたらればでしかない。それは、ありえない未来。けれど、あったかもしれな未来。考慮するだけ無駄かもしれない。そんなものなのに、どうしてもそう言った思考実験じみたものが脳裏を過ぎる。


 意味も何もないというのに。


「ぎ、きさま……」


 あぁ、あぁ、とても気分が良い。


「無様だな。とても、見るに堪えない」


「だ……ま、れ」


 必死で体を上げようとしているが、それはまったく意味のない努力。どれほど頑張ろうと、何も変わりはしない。


 魔神の力で肉体を強化しているから耐えられているのだろうが、それもあと10000倍すれば終わりだろうし、弾けて終わりだろう。と、そう思ったが、俺の勘が違うと否定した。


 脳に力を込めて、未来をのぞいていく。そこでは、弾けたマーヴァミネの肉体が再生していく光景があった。


「アハッ」


 これが、本当ならもっと嬲れる。もっと、痛みつけられる。躊躇する必要なんてなんもない。未来は見てたけど、細かいところは見てない弊害だ。なるほど……、この程度じゃ死なないわけだ。


 ゴゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾ…………


 大気が震え、大地が抉れた。


 重力の倍率が億を超える。そして、1兆倍。肉体の限界、魔法の限界を超えた。


   ボキッ     グチャ

グチャ    ボキッ

            ゴリッ

 ビチャッ   


 悍ましい音であり、不快な音。それが、あたりに鳴り響く。


 それに比例するようにして、見るに堪えなくなる姿。


 血と肉と骨と、それ以外のなにとも判別できないもの。それらが皮膚から突き出したり、その破れ目からこぼれ出たり。


 まるで地獄に落ちた罪人の有様。


 それが、とても──うれしかった。


「痛いか?」


 死ねない、死ぬことのできないマーヴァミネを見下ろしながら問うてみる。


「死にたいか?」


 怒りを煽るように、絶望するように、そう願って、声をかけ続ける。


 それは、終わらない。


 ふっ、と重力が軽くする。


 全身の骨が砕け、肉体もボロボロなマーヴァミネは、体を自由に動かすことなどできない。あるとしたら、瞬き。ただそれだけだ。だが、それを自由に動かせると言えるかは甚だ疑問だが。


 つまりは、そういう有様なのだ。


 ぬちゃり、べちゃり、と体が元の形に戻ろうとしているが、その動きは緩慢で、とてもすぐには戻りそうにない。本来なら、この程度の傷、数秒程度で治るはずなのに。


 おかしい。そうマーヴァミネは思っているようだ。


 だが、それは当たり前のこと。なにせ、俺がそうさせているのだから。


 ゆっくり、自分の無力さを、感じて欲しい。


 俺がマーヴァミネに一歩近づくごとに。彼ははやく体が元に戻れと願っている。


 だけどそうはならない。残念なことに、そうなることはない。


 あぁ、なんて哀れで、か弱い存在なのだろう。


 目の前でただただ俺の手のひらで踊る彼は、とてもうれしいおもちゃでしかないのだ。


 だけど、そろそろ飽きた。


 だから、もっと他のことをしようよ────ねぇ?



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