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全能神  作者: 碾貽 恆晟
第四章 魔神に魅入られた男
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第9話 真なる全能





「ここが貴様の墓場か」


 自分が負けることなど一切考慮していないのだろうか。マーヴァミネは傲岸不遜な言葉を吐き、更には


「いい場所だな」


 と、辺りを見まわし、鼻で笑った。嘲りを隠しもしないその態度、腹が立つ。


 光が当たり一体をよりいっそう強く照らし、木々の緑を際立たせる。


 ザァァァァァ……、と風が吹き、木の葉を揺らす。飛ばされた葉がいくつか宙を舞い、ゆっくり落ちていく。


 落ちた先には、雑草が地面を覆い隠すほど生えており、小さな花をいくつも咲かせた草が綺麗に見える。


 なんでもないこの田舎風景が、俺にとっては故郷の景色なのだろう。


 ここを選んだ理由は何だろうか?


 自分の心に問うても、答えは返ってこない。


 ハタと気づけば、マーヴァミネが怪訝な表情でこちらを見つめてきていた。


 俺が何も言わないのを不審に思っているのだろう。


「ここは、子供の頃によくきた場所だ」


 咄嗟にスルリと口から出た言葉に気付かされる。


 俺は決別しようとしているのかもしれない。


「小宮ばあちゃんと、たまに母親もいた」


 思い出すのは子供だった頃、ここにきていた記憶の断片。それらは、まるで泡のように現れては消える。小学生から中学生、高校生になっても、ここにきた記憶がある。


 俺がそうとは意識せずとも出向いてしまうような、思入れ深い場所だったのだ。


 そして、今まさに自分はそれから決別しようとしている。ここを決戦の場として選んだのは、もはや人ではないと、己に残った人としてのカケラを消し去るためか。そんなふうに思われた。


 自分のことでありながら、自分の本質はわからない。


 いや、分かりたくないのだ。


 自分は《《全能神》》になったのだ。人の要素を残らず、消すべきであると、力が騒いでいるのだ。


 力を得たからには、代償を払えと強要しているのだ。たかが道具の役割しか持たない力のくせに。


 いい度胸だ。ねじ伏せてやる。


「お前は道具で、俺が主人だ」


 それは、意思表示。俺が俺であるための最後の手綱。これを離すわけにはいけない。


 時間を止める。マーヴァミネが思わず漏れ出た俺の言葉に怒りを露わに何か言おうとしていたが、そんなことなど二の次、三の次、いやそれより下のこと。もはやどうだっていいことだ。


 それよりも重要なことがあるのだから。


 止まった時の中で、俺は自分に意識を向ける。


 時間など関係ないと今も俺に影響を与え続けているその力を認識する。


 俺と同化しているその力は、鬱陶しいことに自らの意思があるように感じられた。いや、これは意思ではなく、機械のように決まったことしかできないものだ。


 “授与の根源”に与えられた世界を守るための役割を忠実に行うようにされたもの。これを、消す。


 そうして初めて、俺は全能の力を望み通りに使えるようになるのだ。


 力の根源を右手に集め、忌まわしく、煩わしい意志を握りつぶす。


 パキッ、と音が聞こえた気がした。


 残った力を全て余すことがないように取り込む。一粒にいたるまでこぼれ落ちることのないように、集中すれば、全ての力が感じられた。


 何億、何兆、何(けい)……、そういった数字なんてそんなチンケな枠組みでは表せないほどの集合体が自分の魂に結びついていく。


 そうすれば気づく。これで俺は本当の意味において全能神となったのだ、と。


 両手を上げて空を見上げる。少しも動いていない太陽、風のない大気、全てに切り離された世界で俺は存在し、動けている。


 不思議な気分だ。


 あぁ、そうか……。俺は本当の意味で自由を手にしたのかもしれない。


 誰もが恨むような永遠の命、世界を全て動かせる力、世界が滅ばない限り俺には死の概念なんてない。


 これまでの仮初の力じゃなくて、自分の力となった。それを、理解した。


 わがままに、振る舞おう。


 俺を止めるものはいない。


 魔神程度では俺に勝てない。


 それを証明してあげよう。


 針が時を刻み始める。ゆっくりと、世界は動き出す。


「お前が、俺の主人だと……?」


 マーヴァミネの言葉が空気を振動させ、伝わってくる。それだけではなく、声には魔力が込められており、俺を威圧しようとしている。


「あぁ、そうおうことじゃない。お前より厄介なやつのことだ。ちょっとうざいからお話をしていただけさ」


 まぁ、もう握り潰しちゃっていないんだけど。


「私を前にして余裕だな……」


 マーヴァミネの怒りの沸点が低いだけなのか、それとも普通人として順当な反応なのか、事実として、そんなことを考えられる程度には余裕を俺は持っていた。なので、これらを踏まえて、首肯する。


「まぁ、そうだな」


 それを聞いたマーヴァミネは、これ以上怒りを表現できるのかと思うほど。


「……お前は、後悔する。これはもはや覆らない」


 全身で怒りを表し、自信満々に、俺に宣言してくる。


 哀れだ。


 マーヴァミネが持っている防御の力も、蘇生の力も、全能の前では無力だというのに。これが、何万年と生きた魔神なら変わるらしいが、誕生したばかりの魔神に何かできるとは思えない。


 なにより、あの時の止まった世界で、俺がやろうと思えば何度も殺せた。やらなかったのは俺がただ殺すだけでは嫌だったからだ。


 圧倒的絶望を教えてあげよう。まぁ、俺の想像力が及ぶ範囲で、だがな。












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