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全能神  作者: 碾貽 恆晟
第四章 魔神に魅入られた男
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第7話 敵




 テロリストへの『屈しない』と言う姿勢を示した国際連合の宣言は、賛美で世間には受け入れられた。


 それと同時に、テロリストの反感を喰らうのでは不安視する慎重論もあった。


 いずれにせよ、世界は大戦への恐怖や相反する高揚感によって支配されつつあった。


 そして、一切相手の情報を得られぬまま、戦争を始めることがだけが決まった。敵は今なにをしているのか、どこにいるのか、なにもわかりはしなかった。


 それ自体はさもありんな、と言ったところだ。なにせ、マーヴァミネはオトルスの組織を全て解体し、痕跡を全て消すように命じ、実際そうなった。


 ほぼ全ての国が、オトルスの拠点が空になっており、自国から引き上げているということしかわからなかった。


 謎は深まるばかり。


 オトルスは長い間、裏の世界で名の知られた存在だった。それも、一国や二国などでなく、主要国全てに根を張っている組織だ。


 そう簡単に、引き上げることがきるのか? 構成員はどこへ消えた? そもそも、今のオトルスはかつてのオトルスと同じなのか?


 様々な謎が持ち上がり、それらを裏付ける決定打はなに一つなく、漫然と時間だけが過ぎていった。


 魔法は全く役に立たなかった。オトルスの誰が、いつどこでなにをして、どうしてこのような戦争を始めたのか、占いやインターネットなどを活用した情報収集も効果はなく、特定することはできなかった。


 お手上げ状態はまさにこのこと。


 どれだけオトルスを倒すと豪語したところで、1週間も過ぎれば世界の人々は気づき始める。テロリストを相手にして後手に回っている。


 それも、一国がではない。全世界が威信をかけているのに、だ。


 嘆くもの、絶望するもの、発狂するもの、そんな人々さえ出始めた。


 恐怖による世界征服。それが、実現しつつあった。誰もが恐れ、誰もが心のどこかで嫌悪しているであろうことが、起ころうとしている。


 それらを全て見下すマーヴァミネは、楽しそうに椅子に座って画面に映る情報を眺めていた。


 インターネットにつながっているのに、なぜ彼が見つからないのか。この世界、すべての魔法を掌握した彼にとって、魔法でインターネットを操作するなど朝飯前だからだ。


「もうすぐだ」


 厳かに、はっきりと部屋に響く重圧な声。


「……そうね」


 つまらなそうに、それでいて諦めを含んだその声につられて、悲しみが、ミラの心に染み込んでいく。


 己に酔いしれた彼になにを言っても、変わりはしない。そんなことはもうわかっている。


 わかっているのに……それでも、変わってほしい、とそう願わずにいられない。


「この願いは、もう叶わない……」


 マーヴァミネはチラリとミラを見つめるも、その発言には一切触れることなく再び画面に視線を戻す。


「……これは」


 それは、不審なものを見つけたからだ。地球に突如表れた人。地球上の全てを監視している魔法が突如、人が増えたというのだ。子供が生まれた、とかそういうことではなく。どこにもいないはずの場所に、成人近い人間が誕生した。そんなことは、あり得ない。


 その人間が一体何者なのか、マーヴァミネは急いで確認する。それに、そもそも人なのかという問題がある。もしも、魔法が誤魔化されたとしたら、自分と同じ神の領域にいる存在だ。


 だが、その存在の外見を見た時、マーヴァミネは目の前の情報を拒否した。いや、思いつきもしなかった存在に、信じたくないという思いがそうさせた、というのが正解だろうか。なぜなら、その人間は彼が跡形も残さず消し飛ばしたはずの……


「鬼崎、駿翠……ッ!」


 歯を噛み締め、拳を強く、とても強く握りしめる。


「なぜ、生きている……」


 死者が冥府からやってきたのかと、現実を直したくないあまりに、信じもしない妄想がマーヴァミネの頭をよぎった。


 ミラには、なぜその名前が出てきたのか意味がわからなかった。


 そんなミラを置き去りにして、マーヴァミネはインターネットで、鬼崎がいるという場所の映像を出す。


 不敵に、彼はマーヴァミネが出したカメラに向かって銃の形にし、人差し指を向ける。


 パンッ


 と、お馴染みの銃を撃つ仕草。


 明らかにマーヴァミネを挑発するような行動。


 怒りのあまり、マーヴァミネは机に拳を振り下ろす。ガッ、と音を立てて割れる大理石でできた机は、上にのっていたPCなどの電子機器の重みもあり、惨憺たる光景となった。


「あぁ、あぁ、あぁ、あぁぁぁぁぁぁッ!!!! クソがッ!!!!」


 暴言がいくらでも思いつきそうな気分のマーヴァミネ。八つ当たりでここら一体を吹き飛ばそうとして、すぐここで暴れたところでなにも好転はしないと自重する。


「なぜあいつがぁぁぁ!!!!」


 殺したはずなのに生きている。しかも、生きている理由が一切思いつかない。これほど不気味なことがあるだろうか?


 けれど、認めるしかなかった。鬼崎駿翠は生きている。ゴキブリすら上回る生存力。


 だが、それと同時にマーヴァミネは余裕が生まれ始めた。


 これまで彼、鬼崎はマーヴァミネに戦える状態ではなかった。つまり、準備をしていたのだろう。だが、鬼崎は知らないだろう。私が神になったことに、とマーヴァミネは思う。


 一度撃退はできた。完全に息の根を止めることができるかは置いておいて、もはや鬼崎駿翠に、マーヴァミネを殺すことはできない、とそう断じたのだ。


 マーヴァミネは神となった。鬼崎駿翠は、神になる前の自分にすら負けた、そう思うともはや苛立ちは消え失せ、自信が溢れてきた。


「隠れて生きていればいいものを、今度こそ息の根を止めてくれるわ!」


 マーヴァミネは画面の向こう側で腹立たしく笑っている鬼崎駿翠を見つめて、そう吐き捨てた。


 世界の命運を賭けた戦いが、始まろうとしていた──。




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