第6話 総力戦
「決断する時です! 今すぐあのテロリストどもを殲滅しましょう!」
威勢よく唱える者がいる。だが、こんな者が国家元首の一人だと思うと彼の頭は痛くなってくる。
リモートによるその会議は、混沌した様相を呈していた。
誰もが、まともな意見を出せていない。
テロリストの全世界を敵に回すあの宣言があってから2日たった今、ようやく主要国の時間調整をやりくりし、この場を整えたはいいものの、進まぬ会議。
自らの意見を声高々に定型文かと言いたくなる演説を誦じる様子に、呆れを通り越して笑ってしまいそうになる。
だが、笑ったところで現状は変わりはしないし、この演説もそろそろ終わると思えば、ほっと息を吐けるものだ。
「〜のからにして、世界始まっての未曾有の危機に対抗しましょうではありませんか!」
締めくくりの言葉に満足したのか、彼はやりきったという表情をしてまっすぐに前を見つめた。
ご高説ありがとうございますとでも言って欲しいのだろうかと、思いながら、司会者を見る。
少し困った様子で、書類を睨んでいる。おそらく、あの長い演説を止めようにもだてに大国の国家元首とあって遮るのが憚られたのだろう。
そのような気遣いなどなくても良いだろうに。
腹立たしく思いながらも、黙って静かに画面に映る各国の国家元首の顔を見つめる。腹の中ではくだらない皮算用でもしているのだろう。
今テロリストに敗れ、屈して仕舞えばそれらはまるで意味をなさないと言うのに、ご苦労なことだ。
結局会議では何も進展はない。オトルスがどんな組織であるのかという事実確認と先走った国々がまるで戦果を上げることができなかったと言う事実だけが共有された。
実に恐ろしいことだ。
各国の国家元首が雁首揃えて、何にもわかりませんでしたと言うようなことを何時間もかけて話し合っている。
バカとしか思えない。
けれど、私もそのバカの一人なのだ。クソッタレが。
本来だったら、自国だけでどうにか対処したいのだが、相手についての情報が巧妙に隠されていて何もわからない。
フェリが崩壊したことも痛手だ。あの組織にはそれなりの情報員を派遣していたはずだが、オトルスに壊滅させられたせいでそれらの人員がなくなった。
頭が痛い。胃も痛い。ついでに歳のせいか腰も痛い。あぁ、こんな世界の危機がやってくるなんて。なにも、私が大統領でない時でも良いだろうに、と心底思う。
政界の者どもは使い物にならない。否、逃げ去って連絡すら取れない場所にいる。
「それでは、これでよろしいでしょうか?」
ゆっくりと視線を画面から手元の資料へと移す。そこには、急造の条約が書かれている。
要約すれば、各国はこのテロリストに対して協力してに当たり、殲滅することを目標とすること。各国間の連携は迅速に、かつ正確に行われるように取り計らうこと。各国間で、このテロリストに対抗するため、総力戦でもって対抗し、全人類の平和を取り戻すこと。などなど、他にも細々としたことが書かれているが、一番重要なのはこの条約がテロリストが殲滅された時、この条約は破棄されるとあることだ。
急拵えでも、もう少しどうにかならなかったかと思うのだが……。満場一致になるよう交渉したが、1日もない時間での成果は、これが限界だったそうだ。
周りはこれに賛成し、もはや会議は終わると言う空気になりつつある。
すると、隣に控えていた秘書が耳打ちをしてくる。
「新たに、テロリストが魔法を行使したと」
画面の向こうでは似たように情報を受け取っているものたちもいる。
「被害は」
聞けば、前回とは違い、国を丸ごと一つ滅ぼしたそうだ。このリモートには参加していない国で、しかも発展途上国だ。
何が理由なのか、全く掴めない。
ただ、犯行声明は出されており、あのテロリストどもがやったと言うことだけはわかっている。
まったく、リモートで侃侃諤諤と喚くものたち。しかし、今回は司会者がうまくまとめ、結束を新たにし、テロリストに屈しないというのを確かめ合って会議は終わった。
くだらないが、こういった手順は馬鹿にできないし、しなくてはいけない。
あとは、この会議で決まったことを記者の前でわかりやすく説明して終わりだ。
そう思いながら、リモートを終わらせてもらい、席を立つ。
部屋を出て、秘書に予定を聞く。
案の定、というか会見があり、そのあとにも色々とあるが、そこら辺は聞き流した。あとでまた聞いたほうがいいだろう。
そう思いながら、ドアを開ける。
そして、その場所で知ることになる。魔法のあった場所、そこには全ての運命を見ることがでこるという予言師がいたと言うことを。
世界は、終わりを刻一刻と迎えている──
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「これで不確定要素は全て取り除いた」
マーヴァミネの呟きが、室内に響く。
彼は愉悦に浸っている。そして、それだけの余裕が実際にあった。
彼の望む世界まで、あと少し。
冷ややかなミラの視線をよそに、マーヴァミネの哄笑は止まらなかった。