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全能神  作者: 碾貽 恆晟
第四章 魔神に魅入られた男
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第5話 滅び





 その日、世界中が恐怖した出来事が起こった。


 魔法による地形破壊規模の行使だ。


 理論上は可能だった。


 あくまで、《《理論上》》は。


 しかし、その理論を実際に立て、発動することが固く禁じられている。


 どんな国でも、それに手を出すのは勇気がいるし、割りに合わないと思っていた。


 もし、実証された理論が構築でもされて仕舞えば、天才的な魔法使いがいつでも、世界を牛耳れるようになってしまう。そう、ただその知識を手に入れるだけで、世界と戦えるような存在になるのだ。


 そんなことがあってはならない。一個人が、国を、世界を脅迫できるような力を持っていけはいけない。そう誰もが思ったし、それよりもこの理論を立てる難しさにほとんどの国が諦めていた。


 だが、だが、だがしかし!


 魔法は発動された。


 世界でも有数の強国、それも五カ国に、首都ではないにしろ重要な都市に攻撃は行われた。


 跡形も残らなかった。


 ただ、クレーターがそこには生まれただけ。


 犯行声明を世界最大とも呼ばれる結社、オトルスが出した。文言には『地形破壊規模の魔法』の行使をしたこと、オトルスのトップが人から神なったと宣言すること、世界をオトルスが支配すること、反対するものは処すること、などなどが大きな柱として記載されていた。


 当然のことながら、そのようなことを各国が認めるわけがない。


 すぐ対抗するために、各国は動き出した。


 だが、他国から攻められたマニュアル、テロリストへのマニュアル、それら全てはほとんど使い物にならない。


 なにせ、言葉にすればテロが一番近いのではあろうが、その相手は間違いなく一国以上の武力を誇るのだ。通常の対応では何の意味もない。


 小国はもちろん、他国と足並みを揃えようとする。けれど、それはそう簡単にまとまるものではない。


 魔法が放たれてから1日経っても、テロリストに対してどうするのか、ほとんどの国が決まりはしなかった。


 何せ、オトルスの本拠地は不明。


 これまで何度も組織を潰そうと動いたこともあったが、ほとんどが本拠地ではなくもぬけの殻。よくて、物品が残っている程度。


 相手は類を見ないほど情報戦に長けており、すべての国は後手になっている。


 見切り発車で、自国の本拠地と思われる場所に襲撃をかけるところもではじめるが、やはりもぬけの殻。


 各国は足並みが揃わず、独自行動を繰り返す癖に、成果は全くといっていいほど上がっていない。


 だが、それもそのはず。


 マーヴァミネはこれまで組織にいた人員全てにオトルスの記憶を消去させ、特定の魔法が発動すると彼らが傀儡となり、マーヴァミネの命令を完遂する駒となる。


 つまり、本拠地などというものはこの世界に一つしかなく。それは遥か地中にあり。誰にもバレないのだ。どんなにはやく見積もっても1年以上はかかる。何事にも例外はあるが、少なくともマーヴァミネが人類を完全支配するまでに、本拠地がバレることはなさそうだ。


 それは現体制を望む人々にとって、とてもではないが朗報とは呼べぬものだ。


 オトルス(マーヴァミネ)が世界を支配すればどんなことが起こるのか、分かったものではない。


 そう、マーヴァミネ本人以外には誰にもわからないのだ。


 テロリストに屈服したら、国の体制はどうなるのか。答えは明白。恐ろしい残虐の限りを尽くされるに決まっている。


 多くの国はそう考えて行動している。


 確証がないのだ。


 結局のところ、オトルスという組織の全容を把握している人や組織が全くといっていいほどない。虚言は飛び交い、その当てにならない情報を頼りに行動するしかない。


 何が正しいのか、全く持ってわからない。


 混迷を極める、各国の情勢の中、新たな火種が持ち上がる。


 オトルスに乗じて活動を活発化させるテロリストたちや市民の暴徒、政治の不安定な国では特に顕著に、それらは広がっていく。


 混沌とした国際情勢。もはや、誰にもこの事態に歯止めをかけることができない。


 できるとしたら、この事態を作り出したマーヴァミネ。だが、この混沌とした状態こそ彼の思い描いた結果。


 彼は、現状を変える……否、さらに悪化させることしか考えていない。


 そのマーヴァミネはとても笑顔だった。


 オトルス唯一の基地で、世界情勢をインターネットや魔法を使い逐一確認している。


 マーヴァミネは魔神になったことで、無限に等しい魔法を行使できるようになった。


 これまでは、一人だとできなかったことが魔法を使うことで一人で世界を開いてどれるほど、いや、支配できるほどとなった。


 マーヴァミネは笑うのを止めることができなかった。止めるつもりもなかった。


 笑いは遂に高笑いになり、口元を抑えなお、口角の上がりみて取れる。


 ミラは、マーヴァミネの様子をつまらなそうに見つめていた。


「そんなに楽しいの?」


 それは素朴な疑問であったが、マーヴァミネはその言葉に驚いた。


 なぜ驚いたのかというと、彼はミラが心を痛めていると思っていたからだ。だが、ミラは長い間、戦いを、争いを見てきた、見続けていた。


 『慣れた』と言えばそれまでだが、地球にいた時もその片鱗はあった。


 侵略を肯定し、そのために人が亡くなることを悲しみはしても後悔はしなかったからだ。


「楽しい、そうだな……。弱いものどもが嘆き喚いている光景は確かに滑稽で楽しい催しだ」


 そこでマーヴァミネは言葉を止め、ミラの方を振り返った。


「だが、これは通過点でしかないのだよ。これからさらに楽しいことが待ち受けている。その事実こそ最も私を楽しませてくれているのだよ」


 マーヴァミネはそう言って再び視線をパソコンへと戻す。


 チカチカと幾つもの光が瞬き、部屋を照らしているのをミラは見ていた。




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