表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

切り絵と兄と守る腕

作者: 川里隼生

 僕はケンカが嫌いだ。できることなら、世界中からケンカがなくなってほしいとすら考えている。それは妹が暴力を怖がっているからだと思う。目に入れても痛くない、僕の妹。


 妹は切り絵が好きだ。これは僕の趣味が影響しているだろう。二人ともまだまだ大した作品は作れないけど、互いに自分が作った切り絵を見せ合うのが好きだ。そんな幸せな時間が永遠に続くのなら、僕は明日なんていらないとさえ思えてくる。


 いつしか、妹は本格的に切り絵の道を進み始めた。僕は趣味の範疇に留めたほうがいいと忠告したのに、それでも家族や友達以外の評価を知りたいと言って聞かなかった。賞に応募する度に、妹は厳しい言葉を浴びせられた。


 もういいんじゃないか。妹が最初のコンクールに参加して一年が経って、僕は妹に言った。それでも、妹はカッターナイフを置かなかった。僕は妹の悲しむ姿を見たくない。妹は表立って泣いたりはしないけれど、辛い思いをしていることは知っている。


 今、僕は妹の作業机の前にいる。他には誰もいない。机の上には、次に出品する予定の作品が置かれている。完成度は八割程度だろうか。もう僕など足元にも及ばないほどに熟練しているのが見てとれる。審査員は妹の頑張りを見抜けない人間ばかりだ。


 見知らぬ人間に言葉の暴力を振るわれるようなコンクールなら、出ないほうがいい。僕は妹の作品に手を伸ばそうとした。すぐ我に返って、手を止めた。僕が今しようとしたことは、それこそ妹が悲しむことだ。僕が毛嫌いしている暴力だ。どうして僕は手を伸ばそうとしたのだろう。妹を守りたいと思っていただけなのに。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ