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眠り姫の観る夢

作者: 阿部千代

 理想の生活。ありもしないものに振り回されて、四六時中テンパってる。いつだって心は、ここではないどこか、どこか遠くへ。広い部屋、デカいTV、システムキッチン、綺麗な女房、輝かしいキャリア、ピカピカの外車、上等なスーツ、べらぼうに高価な腕時計、自慢の子どもたち、犬が一匹、猫が三匹、週に三度のジム通い、月に二度のサーフィン、尊敬する両親、お互いを高め合う友人たち……。くそったれな生活。いつだって心は、ここではないどこか。どこにもないどこか。

 諸君、阿部千代だ。コンゴトモ、ヨロシク……違う、なめんなよ、ヨロシク。


 今日一日の活動のほぼ全てを睡眠にとられてしまった。こんなに長い時間眠っていたのは、今までの人生でもちょっと記憶にもないくらい。なんだかとっても疲れている。働きもせず眠り続けて疲れるってどういう理屈なわけ。知らん。おれが聞きたいくらいだ。

 頭が重い。こんなにも重くわずらわしいものを、日々支えているのだから、せっかくなら使わなきゃ勿体ないよな。だからこうやって文章を書き始めたわけだ。おれのこの健気な姿勢には頭が下がる思いだ。ここ、ちょっと前の、頭が重いとかけてるんだけど気づいたかな。

 それにしたって眠りすぎだろう。アルファ波出し過ぎだろう。おれの放出したアルファ波で枕に穴が空いてしまっているかもしれない。トータルで17、8時間くらい眠ってだろうか。

 昔、三日間一睡もしないでいた後だってこんなに眠りはしなかった気がする。あの時はやばかった。最終的には幻覚と幻聴でわけわからなくなってたものな。居酒屋でのバイト中、テーブルをひっくり返して掃除していたら、ひっくり返したテーブルから小学校の時の同級生の顔がにゅっと出てきて、会話してたもんな。「おお、ひさしぶり! なにしてんの、こんなところで、すげー奇遇じゃない?」なんて感じでね。酔客の騒ぎ声がすべて知り合いの声に聞こえたり、あちこちからおれを呼んでいる気がしたり。まともな状態ではないわな、明らかに。

 起きながら夢をみていたのか、それとも脳に一時的な障害が起っていたのかわからないが、やっぱり三日間眠らないなんて無茶はしない方がいい。後遺症でおれみたいな人間になってしまうかもしれないから。


 とは言ってもだ。おれの勝手なイメージだが、いまの人たちってオールで遊んだりはあまりしていない気がする。オールって言葉まだ使われてるのかな。今日はオールで飲むぞ、って言うと朝まで飲むぞってことなんだけど。こういう言葉って知らないうちに死語になってたりするからな。迂闊なことは言えないよ。まったく物騒な世の中になったもんだぜ。

 死語と言えば、チョベリグチョベリバってあるでしょう。チョベリブとかチョベリガングロンとかもあったな。ちょうどおれの世代の言葉だけどさ、あんなもん使ってるやついたか? おれが通っていた高校は、そりゃもう偏差の値がとてつもなく低いところで、いわゆる黒ギャルと呼ばれる女子高生がそれなりにまとまった量で生息していたが、彼女らの会話でも聞いたことなかったよ。そりゃ冗談であえて使ったりするときはあったけど、普通の会話の中では使わないよな、あんなだっせえ言葉。

 けれど、たまにあるでしょう。死語の特集みたいなネットのこたつ記事がさ。ああいうのだと、当時の若者が率先して使っていたことになってるよね、チョベリグチョベリバ。使ってないっつの。聞いたことないっつの。

 こういうのが恐ろしいよね。歴史修正っていうかさ。ありもしなかったことが既成事実になっていく感じ。昭和の流行り言葉とかでも、おれはあると睨んでいるね。実はほとんど使われていなかったけど、流行ったとされている死語が。生まれてもいないのに殺された言葉が。「よっこいしょういち」はおれがまだ使ってるけどな。おれがまだ生まれてもいないころの流行り言葉だけど。


 でも最近の流行り言葉ってほぼSNSが発生源だよな。だからこれまでの流行り言葉と違って、日常生活ではまったく使われていないけど、流行っている言葉っていうのが実際にあるから、ややこしいね。口から発する言葉ではなく、文章の中での言葉だよね。激おこぷんぷん丸とかね。これ、多分もう死語だと思うんだけど、かわいい響きだよな。おれは好きだね、激おこぷんぷん丸。誰が考えたのか知らないが、いいセンスしていると思いますよ。井上三太のマンガ、隣人13号に似たような台詞があった記憶があるんだけど、あれが原型なのかな、もしかして。そんなことはないか。

 いま現在の流行り言葉ってなにがあるんだろう。一時期、「ゆうて」って言ってるやつがたくさんいたけど、あれなんだったんだろう? おれそれを聞くたんびに「ゆうて?」って聞き返して相手に困った顔をさせてたからね。関西圏では通用しない話かもしれんけど。

 知らんけど、ってのもあるね。あれはやめたほうがいいと思いますね。失礼というかむかつくというかすげえ腹立つというか。知らんなら最初っから口出してくるんじゃねえよ無礼者、ってバッサリ斬られても文句は言えないよな。知らんけど。……こう使うんだろう? くっだらねえ。

 推し、ってのもあるか。これは押しではなくて推しってところが面白いって感じなのか? なんかよくわからないんだよね。推しは誰なの? とか普通に聞かれるじゃん、いま。いやいや、おそらく全く興味のないであろうあなた様に推薦するようなものはなにもございませんよ。って感じだよ。おまえカープの試合なんてみてねえだろって。これからもみる気ねえだろって。そんなやつに推せるかよ。

 まあ誰が誰を推そうが推されようが知らねえよな。勝手にすりゃいい。阿部ちゃんのことを推す気があるなら、お好きにどうぞ。といった感じで今夜はこのへんで。ご静聴ありがとうございました。

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