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お題シリーズ6

愛した人が存在しない

作者: リィズ・ブランディシュカ



「もう、だいじょうぶ。私があなたをたすけてあげましょう」


 ある日、俺は一人の聖女に救われた。


 そこから、俺の第二の人生ははじまったんだ。


 君に救われたから、君のために頑張りたいと思った。


 この命も体も全て君のためにささげようと思った。


 でも、そんな君なんてどこにも存在しないとしたら?






 美しい聖女。


 国一番の聖女。


 多くの者たちから慕われている聖女は、常に穏やかな笑顔を浮かべている。


 けれどその聖女は、いまはもうどこにもいない。


「だから演技だって言ってるでしょ」


 罪人のための場所。とらわれた檻の中、俺は向こう側にいる君を信じられない顔で見つめるしかなかった。


 鉄格子の向こうにいる君は、あまりに遠すぎて、手をのばしたとしても、とどきそうにない。


 愛していた君は、俺の知らない顔で話をし始める。


「うちの組織は、疑問をもたず、人形みたいに動く人間をほしがってる」


 彼女はどうやら闇組織の人間らしい。


 けれど、たまたま都合がよかったから、光の魔法が強かったから、聖女になったという。


「回復させて命を救ってやった人間は、動かすのにちょうどいいのよ。わけは話せないけど、今は私を信じて協力してください。っていえばちょろいもんよ。だから、犯罪の手伝いをそれと知らずにさせてるってわけ」


「しんじて」、それは俺も言われた言葉だ。


 あの時はほんとうに困っていると思った。


 だから理由も聞かずに彼女のために行動したんだ。


 でもそれが、闇組織の仕事のためだったなんて。


「こんな心の汚れた人間でも聖女になれるのね、驚いたわ。いつもお腹抱えて笑いながら、仕事してるわよ。みんな馬鹿ねって」


 俺は涙をこらえきれなかった。


 俺の覚悟は、想いはまったく無駄だったのか。


 彼女のために動いて、濡れ衣を着せられて、こんな牢獄に入れられて罪人になってしまった。


 無実だと訴えても、きっと誰も耳を傾けてくれない。


 そんな馬鹿な、と笑われるだけだろう。


 だって、俺がそうだったから。


 ついせんじつ、彼女に騙されたと言っている人間が、収容所に連行されていくのをみながら、そう思っていた。


 今は「聖女様にはめられたなんて、何言ってるんだあの犯罪者は」そう言ったことを後悔している。


 なんて愚かだったのだろう。






 目の前で、妄信していた聖女が「じゃあね」と去っていく。


 待ってくれ。


 お願いだ。


 助けてくれよ。


 どうしてこんなことに。


 夢だったらよかったのに。


 思いが溢れすぎてうまく言葉にならない。


 過去に戻れるなら、むかしの自分に忠告してやりたい。


「お前が盲信し、愛している女なんてドコにも存在しないんだぞ」と。



読んでくださってありがとうございます。

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