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同じ

 



 私が目覚めた時には既に空は暗く、代わりにパチパチという音と橙色の光が辺りを照らしていた。しかし、それはあくまで視界の端からチラッと視えた光景であり、私の視界の8割ほどは目覚めると同時にやってきたラキ師匠の顔で埋め尽くされていた。


「……いや、近いです」


「む?それはすまないが、無事に眼を覚ましたようで何よりだ。具合はどうだ?」


「これといった不調はありません」


 そう言いながら自分の体を確認すると傷が無くなっている事に気づいた。そして、確実に肋骨辺りが折れていたのに体を動かしても痛みが無かった。


「傷が治ってますね……ラキ師匠のお陰ですか?」


「傷はな。だが、無くなったものは私にも治せなかった」


 そう言われて私は右手を視る。そして、竜との戦いで最後に爆裂の魔眼を使用した事で完全に消失した事を思い出して苦笑する。


「勝利の代償で右手が無くなるだけなら安いものですよ」


 そう言いながら私は無くなった右手を撫でる。本来ならまだ生々しい断面が残っているはずなのだが、ラキ師匠のお陰で完全に治っており既に丸みを帯びている。


 ここからでも右手を治せる事は出来るが、それは違うだろうと思うのでこのままにしておく。不便ではあるが、生きていけなくなるわけではないし、なんとかなるさ。


 そんな私の言葉にラキ師匠は後悔を感じさせれる表情をする。……ハッキリ言って全くラキ師匠には似合わない表情だ。


「だが……………集落の奴に魔道具を作れる奴がいる。帰ったらそいつのところに行くぞ」


「?はい、分かりました」


 何かあるのだろうか?と思うが、ラキ師匠はそれ以上は話さずに夜ご飯にするぞ、と言ってきた。


「では、準備しますね」


「いや待て。夜も遅いし、まだ眼が覚めたばかりだろ?だから既に私が腕によりをかけて作っておいた」


「…………………スゥゥ、ありがとうございます」


「直ぐに準備するから待っておけ!」


 嫌な予感がするがラキ師匠の心遣いを無視するわけにもいかないので覚悟を決める。

 ラキ師匠の料理は以前にも言ったかもしれないが、お世辞にも上手いとは言えない。なんなら下手な方でなんというか野生味溢れるワイルドな料理を作ってきたらしいので…まぁ、上手くなるはずがない。


 緊張しながらラキ師匠を待っていると、どこから調達してきたのか銀の皿に半円の蓋を乗せてやって来た。


「待たせたな!これが私の最高傑作だ」


 そう言ってラキ師匠が蓋を開けると、中の皿には分厚いステーキが湯気を出しながら鎮座していた。


 食欲をそそる匂いだ。見た目も良く、焦げていたり炭化はしていない。


「これをラキ師匠が…?」


「うむ。食べてみよ!」


「分かりました。しかし、こんなに分厚ければ食べるのも一苦労ですね」


 そう言いながらいつの間にか用意されていたナイフとフォークを使い、ステーキを食べやすいサイズにカットしていく。その際、想像していたよりも柔らかくて少し驚いた。


「いただきます」


 一口サイズにカットしたステーキにフォークを刺す。そして口に含んだ瞬間……圧縮されていた美味さが爆発した。


「っっっ!!これは」


「ふふふ」


 ステーキを噛むたびに肉汁と共に旨みが溢れ出てくる。


 私が上手く言葉に表されないでいる様子を視てか、ラキ師匠が嬉しそうに含みを込めた笑いをする。流石に気になった私は肉の正体を問うと衝撃の答えが返ってきた。


「これは竜の肉だな!シアメルが落とした尻尾のな」


「なっ….竜の肉」


 あの時千切れた竜の尾がこうなるとは思いもしなかった。しかし、竜の肉がこんなにも美味しいとは驚きだ……数少ない人しか知らないであろう事だな。


 この味はきっと忘れられない……これから別のお肉を食べた時、必ず竜の肉の味が脳裏に思い浮かぶに違いないな。


「何故竜の肉がこんなにも美味しいのですかね」


「竜は色んなものを食べてるからな。調べようと思ったことがないから詳しくは知らんが、恐らくそれが美味しい要因だな」


「そうなんですかね?……にしても、こんなにも美味しい料理をありがとうございます」


「気にするでない。このあとは一晩寝て、明日の朝一に出発するとしよう」


「分かりました」


 行きと同じような速度でなければなんでも良いと思っている。ラキ師匠のお陰で体力や気力が万全になっているとはいえ、あれはまた話が違うしな……



 その後、竜肉のステーキを完食し終えた私たちは就寝までゆっくりすることとなった。普通はその間も警戒をしたりするのだが、なんでもラキ師匠が周辺の危険生物全てを消滅させたらしいからその必要も無くなったらしい。


 私からも話したいことが色々あったので、変に沈黙が続く前に話そうと思っていたら、ラキ師匠に先を取られてしまった。


「そういえばシアメル。………っ…単刀直入に聞くが」


「どうしま--」


「お前は神によって別の世界からこの世界に連れて来られた人間か?」


「っ!!?な、なっ…にを」


 聞きにくそうにするラキ師匠に疑問を返そうとしたら続くラキ師匠の言葉に遮られた。とんでもない爆弾発言によって…


 明らかに動揺しまくった私の姿を視て、ラキ師匠はどこか安心したような仕草と表情をした後、語りかけてくる。


「シアメル。何故そう思ったのかというと、私もかつては同じ境遇でこっちに来た人間だったからだ」


「えっ…………ラキ師匠が、別世界の」


 思考が止まる。しかし、今の言葉を理解するためにそれを無理矢理動かそうするが……何度頭の中でラキ師匠の言葉を思い出しても、上手く理解出来ずにいた。


「しょ、少々お時間を」


「分かった」


 かつてないほどに思考をフル回転させる。何故気づかなかったのか、いつ気付かれたのか、神というのは他にもいるのかなどなど……順々に出てくる疑問を処理していく。


 そして、ある程度を処理し終えた所で私は、違う!と思った。もっとやるべき事があると……


「ラキ師匠……いえ、アヤナさんと今は呼ぶべきでしょうね。その強さ、そして今まで度々出ていた懐かしく感じる単語や言葉遣いに気付けずすみませんでした」


 謝罪。

 今私が言ったように、気付ける要素は多々あった。しかし、神によって転生したのは私だけだと思い込んでいたし、何より他にも同じような人がいると思ってもいなかったからこそ余計に気づく事が出来なかったのかもしれない。


「アヤナ……最早苗字は思い出せないほど、長くこの世界に居る。でも、自分の名前を忘れる事が嫌だった私は独学で編み出した流派に自分の名前であるアヤナを付けた」


「アヤナさんはこの世界に転生したんですよね。その際、神によって何か力を与えられたりしたんですか?」


 私ならば魔眼生成と高い身体能力を与えられた。アヤナさんも同じならば何かしらの力を与えられた可能性が高いはずだ。


 そう思っているとアヤナさんは、む?と首を傾げた。


「私は転生なんてしてないぞ。突然パッと、この世界に来た感じだ。その時に声は聞こえて、尽きることのない生命力を与えられた」


「そうなんですか!?私とは違いますね….…私は気付いたら真っ白な空間に居て神と色々話してここに来ました」


「そうだったのか………私はこの世界に来た時は何歳だったかな。少なくとも見た目は変わってない」


「なら12歳前後ですかね?」


 アヤナさんの見た目はまだ成人すらしてない平均的な身長の女性だと思う。それならば、おおよそ10歳から14歳のいずれかな気がするので間の12歳前後と答えた。


 それに対してアヤナさんは特に何も言ってこずに、話を続けた。


「幸いにも神のお陰か言語は分かった。だが、その時の私にとって突然視知らぬ世界に飛ばされたわけだ。昔のことはほとんど覚えてないが、きっと泣き喚いただろうな」


「私でも泣きますよ」


「一人で街を出て、歩き回って魔物と出会って一方的な暴力を受けた。けれど、不老不死と言ってもいいこの力のせいで死ぬことはなく無限に苦しみが続いた。そのせいか、痛覚や恐怖といった感情がおかしくなった」


「…………」


「多くの人と出会って、大半は寿命や病気などで死んで今でも生きている親友は数少ない。その過程で色んなことを学んで、同時に強さを求めた結果が今の私だ」


 そう言い終えた彼女はどこか心労が取れたような表情をしていた。


「何度も心が折れた。その度に死のうとしたが、この力のせいで死ななかった。首を落とそうと、心臓を貫かれても、溶岩の中に落ちてもな」


「まるで呪いですね。不老不死という力は誰もが望むものですが、実際は地獄なんですね」


 実際に不老不死となっているアヤナさんがそう言っているのだ。間違いは無いだろう。


「そうだな」


「こう言ってはなんですが、生きていて楽しかったんですか?」


「時々だな。心が折れた時は死にたくなったが、ふとした拍子にまた折れた心がくっ付いて人生を楽しんでいた。その繰り返しで、ここ数十年は楽しいぞ。特に今はシアメルのお陰で楽しいな」


「小恥ずかしい事を言いますね……」


「初めての弟子でもあったし、今こうしてお互いが元々別の世界にいたという事だと分かったし、楽しいに決まっている」


 アヤナさんはそう言い切った。彼女の日々に変化をもたらされた事が嬉しいと感じるな。


 …そういえば、私もずっと偽名の方で呼ばれ続けているから言っておかないと。


「アヤナさん。実はシアメルという名前は偽名なんですよ」


「む?違ったのか」


「私の名前はメルス・フィルディリーナ。大西国と呼ばれる大国のフィルディリーナ侯爵家の三男です。偽名を使っていたのにも少し訳がありますが、これからはシアメルでもメルスでも、自由に呼んで下さい」


 ずっと偽名を貫き通すわけにもいかなかったし、このタイミングで言えて気が楽になった。


 これからどちらの方で呼ばれるのだろうか?ここ最近はシアメルと呼ばれ続けてきていたので自分にとってのもう一つの名前的な感覚になってきているので、どちらでも構わないと思っている。


「ならばシアメルと今後も呼ぼう。その代わり、アヤナという呼び方はやめて、いつも通りの呼び方で頼む。その名前は既に過去のものだからな」


「分かりました。ラキ師匠」


「うむ。仮にアヤナと呼んでも問題はないが、私が気付かない可能性があるからな。--さて、こういった話はここで終わりにしよう」


 互いの呼び方が決まったところで、ラキ師匠はパンッと手を叩いてそう言った。


「また気になれば今度だ。思っていたよりも時間が経っているようでビックリだな」


「なら明日のためにも、そろそろ就寝しようかと思います」


「それがいいだろうな。周りは安全だからゆっくり寝るといい」


「分かりました。では、おやすみなさい」


「おやすみだ、シアメル」


 そう告げて私は寝ようと眼を閉じる。つい数時間前まで気絶?していたのに横になった途端に一気に睡魔が押し寄せてきて、ほどなく私は眠りについた。





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