表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/56

幸せ者

やる気が出れば、こんなもんですよ

 



「そろそろ向かいますか」


 太陽の場所的に時間帯は恐らく昼頃のはず。それに、向こうのほうに並んでいる屋台に人が集まり始めている。


 エレメスから昼頃に伺えばよいと聞いたのでファンズマータ伯爵家へと向かう。昼前だったか?まぁ、大丈夫だろう。




 数分かけてファンズマータ伯爵家に到着した私はコンコンコンと玄関ドアをノックする。そういえば、最近はドアベルという魔道具らしき便利な品が開発されたらしい。なんでも、それは玄関ドアの付近に設置すれば来訪者がそのボタンを押しただけで音が鳴って中の人が気付くという代物だ。


 そのドアベルは私の実家にも無かったはずだ。大きさも知らないのでらもしかしたら見逃していたのかもしれないが、少なくともファンズマータ家には無いようだ。

 馬鹿にしているわけじゃない。なにせ、開発されたばかりの魔道具は高い上に開発者も知らない危険が潜んでいる可能性があるため安易に購入する事も出来ないのだ。



 玄関ドアをノックして少し経った後、カチャッ…と、という音が聞こえてきて、その後ドアがゆっくりと開いて中から女性が姿を見せた。


「どちらさまでしょうか?」


「お久しぶりです、ファンズマータ夫人。突然の訪問申し訳ありません。メルス・ファルディリーナです」


「あら、メルスさん。戻ってこられましたの?」


「今朝戻ってきました」


「そうでしたの。中に入ってちょうだい」


 そう言って中に入るように促す女性こそエレメスの母親であり、ファンズマータ伯爵家ご夫人のセーリアス・ファンズマータ夫人だ。


 ファンズマータ伯爵家とはフィルディリーナ侯爵家としての関わりはあまり無いが、私個人との関わりがあるので仲は良い。主に、エレメス関連で話をしていた時に顔見知りとなった。


「夫人、実は少々手土産がありまして」


「あらそうでしたの。どれくらいの量ですの?」


「手渡しでは少々難しいです」


 流石にアロス兄様に渡した程ではないが、宝飾品と工芸品を少々渡そうかと思っている。


「でしたら、主人の部屋でお受け取りいたしますわ。きっと主人も喜ぶと思いますの」


「分かりました」


 夫人の案内の元、ファンズマータ伯爵の執務室へと向かうと、そこにはゆったりと寛いでいるファンズマータ伯爵が座っていた。

 エレメスの父でもある彼の名前はアウロス・ファンズマータ伯爵も夫人と同じで温和な人だ。


「あなた、メルスさんが戻ってきましたわ」


「お久しぶりです。ファンズマータ伯爵」


「おぉ、誰かと思えばメルス殿ではないか。息災なようで何よりだ」


 伯爵が私のことを忘れてしまっている可能性があったが覚えていてくれて良かった。夫人に比べて話す機会が少なかったからな……


「あなた、メルスさんが何やら手土産を持って来てくださったようですの。それで、この部屋で受け取ろうと思って来ましたわ」


「なるほど…分かった。メルス殿、申し訳ないがこちらの方に置いてくれるか?生憎とこの机はご覧の通り何かを置く余裕が無いのでな」


「分かりました。では、どんどん出していきます」


 そう告げた私は伯爵に指示された場所に工芸品と宝飾品を鞄から取り出して置いていく。

 ちなみに、この鞄は私の手作りで広げればアロス兄様の前で視せたようなリュックサックのような形になる仕組みで、今は折り畳んでいるため手提げ鞄くらいの大きさしかない。


 この鞄は魔道具である魔導鞄でも無く、普通の鞄だ。予め収納の魔眼を生成しておくことで、あたかも鞄の中から取り出しましたよとカモフラージュする事が可能になる。



 工芸品と宝飾品を6対4の割合で出していく。最初こそファンズマータご夫妻は目を輝かせながら興味深そうに視たり、声を出していたが……主に宝飾品の面で新たに一つ一つ増えていくごとに体が固まっていった。やはり、これらの品々に対してこのような反応になるのは当然か。


 そして、手土産を出し終えたのでご夫妻の反応を待とうかと思っていたが喋る気配が全く感じられなかったので仕方なく私が口を開く事にした。


「コホン…これが手土産ではあります。他でお目にかかれない品々ばかりですので気になるものが多いかと」


「うぅむ…………これらの品。主に宝飾品類は私の手に余る代物だ」


 難しい顔をしながら伯爵がそう口を開く。私の手に余るというのは、やはりこれらの品々の価値が分かっているからだろう。アロス兄様も言っていたが、王族に献上する品々を公爵や侯爵でもない伯爵が頂くのはその品々だからだな。


「無論、頂くのは非常に喜ばしい事なのだが……メルス殿も分かっていると思うが、これらの品々は私のような伯爵が持つものではないのだ」


「確かにそうかもしれません。しかし、私はこれらの手土産をファンズマータ伯爵家にお渡しするつもりです。いわば所有権を譲渡するようなものなので、王族へ奉献しても良いですし、売却しても良いですし、自分達が身につけるのも良いですし、自由に使って下さい」


「だが、必ずどこから入手したのかと問われる事になる」


「その場合は、旅の商人から購入した。もしくは、貰ったと言って下さい。そして、その人物はどんな見た目だったかと問われれば若い金髪の女性とお答え下さい」


 この若い金髪の女性というのは私が変化の魔眼で姿を変えたシアメルの事を指している。まぁ、女性といいのは当然嘘なのだが見た目は中性的なので誤魔化せるのでは無いかと思った。使えるものは有効活用しないとな。


 しかし、あくまでシアメルは秘密にしているものだから伯爵は疑問に思ったようで聞いてきた。


「これはメルス殿が持ってきたものではないのか?……いや、これらを入手したのがその金髪の女性というわけか」


「そんな感じです。その女性の方も色んな場所を旅しており、どこか一ヶ所に留まる人ではありませんでした」


 嘘ではない。まぁ、今はあぶれ者の集落に留まってはいるが。


「なるほどな。なら、これらの品はあくまでその若い金髪の女性からと答えてメルス殿の事は話さないようにする」


「はい、お願いします。私に聞かれましても分かりませんから」


「分かった。なら、ありがたく頂くとしよう。……それにしても、私たちはメルス殿に貰ってばかりだな」


 アロス兄様の時と違ってスムーズに受け取ってくれた伯爵は、そんな事をポツリと呟いたので私はそんな事ないです、と返して続ける。


「私は既に伯爵の宝物を頂いています」


「っ!」


 宝物?と疑問に思われたらどうしようかとヒヤヒヤしていたが、どうやらすぐに宝物の正体が分かったようだ。


「お分かりかと思いますが、エレメス・ファンズマータの事です。彼女を娶るという事が私にとって何よりも嬉しい、最大級のプレゼントなのです」


 エレメス以上に貰って嬉しいものなど存在しない。既に私の家族とファンズマータ伯爵家の両者間で結婚の同意は得ている……そう、あとは式だけなのだ。しかし、それは私の身勝手なお願いで止めている。

 私が彼女に貧しい生活をさせたくないという気持ちから、自分で稼げるようになるまで待ってもらっているのだ。本当のことを言えば大分とお金には余裕があるが、あくまで一時的なものなので継続的な収入が必要なのだ。


 私のそんな答えに伯爵と夫人は口を黙らせた。しかし、よくよく視ると僅かに伯爵の口元が震えており、先程よりも眼が赤くなっていた。


 そして、しばし沈黙が続き、伯爵が深呼吸を一回挟んだ後にゆっくりと口を開く。


「ありがとう、メルス殿っ……貴殿に、そう言ってもらえて…本当に、感謝しか出てこない」


 声を震わせ、目を充血させながら、伯爵はそう言った。


 伯爵の大切な娘の一人を私が娶る事に彼は怒ることなく泣いて、そんな感謝の言葉を言ってくれた。それだけで、伯爵は家族の事を大切にしているのだと分かる。


「必ず、彼女を幸せにしてみせます」


 伯爵の姿を視ていたら、自然とそんな言葉が出た。過去に一回伯爵には言ったことはあるが……あの時よりも、今の方が場の雰囲気に合っているようだった。


 その証拠に、伯爵と夫人は我慢していた涙腺の堤防が決壊して、静かに泣き始めた。


(本当に、私は恵まれていますね。いえ、恵まれ過ぎています)


 二人の姿を視た私は、自分は幸せ者なのだと心の底から思うのであった。







幸せ者はメルス一人ではない




質問や感想はお待ちしております。

誤字脱字・誤用は遠慮なく報告よろしくお願いします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ