楽しいと思える
お久しぶりです
この章って、簡単に言えばメルス(主人公の本名)の強化です。まぁ、内容としては模擬戦と雑談だけですがね。
「今日から魔眼を取り入れた模擬戦を行う!」
「分かりました」
私がラキ師匠に魔眼の事を明かした翌日の明朝、彼女は普段より意気込みながらそう言ってきた。
「今までお前は魔眼を使わずに純粋な身体能力だけで私や魔物と戦ってきた。そして、今日から魔眼を使えるようになった。つまり、本当の意味でお前の本気が視れるようになったというわけだ!」
「まぁ、そうなりますね」
「よし、早速やるぞ!その前に準備運動からだ!」
ラキ師匠の大声に合わせていつものように準備運動を行う。この際、絶対に手を抜かず、一つ一つの動作を真剣に行なっていくようにしている。
この準備運動の大切さは弟子になって2日目あたりで気付いた。何故ならその時、少し面倒になって手を抜いた後の模擬戦で脚を痛めてしまってラキ師匠から割と本気で怒られてしまった。
まぁ、そっから手を抜かずにやってたら痛める事も少なくなってきたから準備運動って大切なんだなと実感したな。自分で無茶な動きをして痛める事はあるが……
「さて、始める前にまず何でもいいから魔眼を使ってみろ」
準備運動を終えて模擬戦をするためにラキ師匠から少し離れた場所に行こうとする私にラキ師匠はそう言ってきた。
「何でも、ですか」
「うむ」
そう言われると迷ってしまうな。いかんせん数が多いから適当に選ぶわけにもいかないし……かといって破壊の魔眼や吸収の魔眼などの強すぎる魔眼を使うわけにもいかないしな。
しばし考え込んだ私は無難な強化の魔眼を使う事にした。
分かりやすいように、右眼を普通の眼から強化の魔眼に変更して発動させる。すると、ラキ師匠はほぉぉ〜と興味深そうに私の右眼を視てきた。
身長差の問題で私を見上げる感じになっていて少し面白い。そういえば、昨夜も魔眼の事は話しても実際に魔眼を生み出す所や発動させるところを視せてはいなかったな。
「なるほど、確かに眼の形が違うな。それに、僅かに光も放っている……綺麗な色だな」
「そう言ってもらえると嬉しいです。と、まぁこんな風に魔眼を自由自在に生み出せて使うことが出来ます。昨夜披露するべきでしたが、失念していました」
「気にすることではない。お前の話し方から本当のことだと信じていたしな。それより、その魔眼は強化の魔眼か」
「っ!よく分かりましたね」
まさか私がどんな魔眼を使っているのか分かるとは思っていなかったので驚いた。そんな私を視て、胸を張りながら自信満々に当然だ!とラキ師匠は言って、さらに続ける。
「魔眼には種類が多い。そして、全ての魔眼にはそれぞれ別々な固有の形が存在していることは知っていたか?」
「……いえ」
自分を恥じるようにそう答える。まさか、固有の形が存在していたなんて……
「かなり昔のことだから知らないのも無理がある。まぁ、お前は気づくべきことではあったがな。それはさておき、私は今まで視てきた魔眼の形を全て記憶しておるから魔眼を使うのなら私が視たことのない初見の魔眼を使うことだ」
「頑張ってみます」
そうは言うものの、ラキ師匠って絶対に百年くらいは生きているはずなんだよ。そんな人が視たことない魔眼か……いや、候補は沢山あるのだが今から行う模擬戦に適切な魔眼がどれか選び出すのが大変だ。
「うむ、ではやるぞ!」
早く模擬戦をしたいのかウズウズしているラキ師匠とは違って、頭の中で色んなことを私は考えていた。
まず、使う魔眼は強化の魔眼と消無の魔眼だ。
消無の魔眼は簡単に言えば透明化だ。それも、完全に消えて実体そのものが無くなるというな。しかしだ、実体そのものが消えて無くなるという事は強いが言い換えれば魔眼を発動している間は実体が無いから呼吸も出来ないし、動く事も出来なくなってしまう。
そのため、この魔眼は使用できるのは私の呼吸が続くまでの間。だが、元々一歩間違えたら私が消えてしまう恐れがあるので10秒間だけ使用することにしよう。
この魔眼はラキ師匠の攻撃を回避するために選んだ魔眼だが、その場から動けないようでは魔眼を解除した後の結末が容易に想像できるのでもう一つ魔眼を使う事にしよう。
そう考えた私が選んだ魔眼は転移の魔眼だった。この魔眼は簡単に言えば、視界に収めている範囲ならばどこでもワープする事が出来るようになる。
消無の魔眼を使用している時に動けなくても、この転移の魔眼を使えば移動は可能になるのでは?と私は考えた。
まぁ、本当に手段を選ばないのなら未来視の魔眼や破壊の魔眼、雷光の魔眼と言った強力な魔眼を出し惜しみせずに使えばいいが、それでは意味が無い。魔眼に頼ってしまったら弟子になった意味が無くなる。
あと、どうせこの後何回も模擬戦をするのだからその度に色んな魔眼を組み合わせてみようと思っている。だから、今まで検証のために使った事しかない消無の魔眼を使おうと思ったのだ。
「いつでもかかってきていいぞ!」
「よろしくお願いします……ふぅ」
いつになく緊張する。そのせいで体がこわばってしまっているのを感じた私は深呼吸を一回挟んだ。
強化の魔眼によって普段の数倍は身体能力が向上している。そして、今回の模擬戦でラキ師匠へ攻撃を当てるための鍵を握っていると言っても過言ではない消無の魔眼は悟られないように体内に生成。三つ目の転移の魔眼はもう片方の眼に生成してあえて晒している。
体の緊張がゆっくりと溶けていく………そして、私は両脚に力を込めて弾丸の如き勢いで駆け出した。
「っっ!!」
普段とは違う速さに思考に余裕が無い。
ラキ師匠は私の初動を視ても動揺すらしていなかった。代わりに、いつものように破光による遠距離攻撃の動きをとった。
それを瞬時に察知した私は右に跳んで回避をする。未だ破光は視えないが、感覚で私の左を何かが物凄い速さで通過していったのを感じ取った。
そのまま、勢いを止める事なく私はさらにラキ師匠へと急接近し……あと2歩のタイミングで転移の魔眼を発動してラキ師匠の真左へと転移した。
「甘いな」
しかし、まるで想定通りとでも言わんばかりに私が転移した瞬間に放たれたラキ師匠の蹴りが私の腹部を捉えようとしていたが、ここで今回の切り札を切る。
(消無の魔眼っ!)
その魔眼を発動させた刹那、実体のなくなった私の腹部を鋭い蹴りが通り過ぎた。
「むっ……いったいどこに」
突然消えた私を視てか、ラキ師匠がそんな事を呟きながら周囲を見渡す。
ラキ師匠から私の姿は視えない。よし、このままラキ師匠の背後に転移の魔眼で転移だ。
再び転移の魔眼を発動させて、ラキ師匠の背後に転移する。消無の魔眼を発動している状態で上手くいくかどうかは賭けだったが成功したようで何よりだ。
そして、消無の魔眼を解除して無防備に背後を晒しているラキ師匠目掛けて、お返しの蹴りをお見舞いしてやろうと脚を地面から上げた瞬間………私は空を見上げていた。
「………は?」
突然のことに思考が固まる。しばし遅れて、私が地面に倒されたのだと気付いた時には手遅れだった。
「中々に面白いが、まだまだ甘いな」
そんな言葉が聞こえてくるのと同時に、私の喉元に何かが当てられている感触に気付いた。僅かに視線を下げると、私の喉元から続いていたのはラキ師匠の腕で、指先を当てられているのだと分かったのはその後すぐだった。
「参りました…」
そう降参の意を述べると喉元からラキ師匠の腕が離れて行く。
また完敗した……とは思わなかった。結果だけ見れば完敗ではあるが、ラキ師匠を僅かに驚かせた気がする。それだけで満足だった。
「さて、今回の反省点を述べれるか?」
満足感に浸れる暇も無く、そんな事を聞かれた私は体を起こして答える。
「魔眼を使った時の動き方がイマイチだった、ということくらいです」
「ふむ、それは仕方のない事だ。なにせ、今まで魔眼を使わない動き方しかしてこなかったのだからな。その点については慣れでどうとでもなる。他には無いのか?」
ラキ師匠の問いに私は先ほどの模擬戦を思い出すが、特に反省点と呼べる点は出てここず、その事をラキ師匠に伝える。
「まず、姿を消した所までは良かった。私も何処にいるのか分からなくなったし、急に消えて驚いたが、その後の動きがダメだ」
「背後に転移したことがですか?」
「それも含めてだ。転移の魔眼はほんの一瞬ではあるが転移してくる時に空間が歪む。それを察知したからこそ後ろに対して足払いを仕掛けた」
「そうだったんですか……」
いや、まず転移時に空間が歪む?それはまだ理解出来る。けれど、それを察知した、の部分は理解ができない。
「初めは例え魔眼と言うアドバンテージがあっても、慣れてないようでは私には到底勝てない。これから魔眼を取り込んだ新たな動き方を教えるから身につけるように!」
「っ、分かりました。必ずものにしてみせます」
「その意気やよし!ならば、次の模擬戦をするぞ!」
「よろしくお願いします!」
未だかつて無いほどにやる気が満ち溢れてくる。それだけではなく、試してみたい魔眼や動き方、戦術などもどんどん思い浮かんでくる。
そして、何よりも今の瞬間がとても楽しいと思える。
「む?いつになく元気だな」
「えぇ、とても楽しいと思っているからですね」
「そうか。楽しいと思えるということは、それだけ熱中出来るというわけだ!!これからお前はどんどん成長するに違いない!」
「ご指導のほど、よろしくお願いしますよ」
「任せておけ!」
そして、その後も何回も模擬戦繰り返し続けた。
毎回毎回使う魔眼を変え、時には途中で変えたりしながら私はラキ師匠の教えの元、魔眼を取り込んだ武術の動き方を徐々に会得していくことができた。
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