あぶれ者たちの集落の常識
活動報告でも言いましたが、あけましておめでとうございます。
本年も今作をよろしくお願いします
「いかがでしたか?この集落は」
「凄いとしか言いようがありません。技術力も高く、完全なる自給自足が出来ている……なにより、この集落に住む人々全員が楽しそうでした。素晴らしい場所です」
「そう言ってもらえるとありがたいです」
お爺さんーー名前は教えてもらってないので未だ不明だーーにこの集落を案内してもらえ、先ほど最後の場所を見終わった私はそんな感想を述べた。
「最後に、この集落にはお気づきのことかと思いますが、住民全員が複雑な事情をお持ちです。かくいう私も同じですがね……もし、この集落に滞在なされるなら本人が望まない限りどうか踏み込んだ話はやめてもらえると助かります。そして、ここから去る時もどうか、この集落の存在を明かさないで欲しいのです」
「ご安心を。その辺りは心得ております」
複雑な事情か……そんなものを抱えているのにも関わらず、こんなにも平和な空間をここまで築き上げれている事に感心する。
住民同士の仲は深いけれど、互いに知られたくない事があるのを理解しているからこんな関係性が築かれるのか?と考えていると、お爺さんはそれで、と口にした。
「どうなされますか?この集落に滞在していかれますか?」
「そうですね……滞在出来るのなら、お言葉に甘えたいと思っています」
「分かりました。では、宿の者には私から話をつけておきますので、ご自由にお過ごし下さい」
「ありがとうございます」
私がお礼を言うと、お爺さんは軽く一礼した後に宿の方へと向かった。
外からの客人は全く来ないらしいが、新規住民のために宿という名の仮住宅が存在していると聞いた。
一人になった私はまさかこんな出会いがあるとは、と考えていた。それにしても、この集落は魅力だらけだったな。
無口なドワーフが営んでいる武具店には、どれもが一級品と呼べる最高級の武具が並べられてあった。まぁ、武具店というより実際は一応店を構えておくだけの精神らしく、満足が行く武器が出来たら無料で住民たちに配っているらしいがな。
私も一つ頼んでみてみたいと思ったが、流石に来たばっかの私が図々しいかと思ったし……そもそもとして、私の武器は肉体なのであんまり意味が無いことに気付いた。
他にも、小人族が営む魔道具店や宝飾店。エルフの薬屋といった魅力溢れ、興味をそそられる店々が多くあった。
何かしら買ってみたいと思ったが、この集落に通貨が存在しているのか分からないので今はやめておこう。
「…ん?子供も居るみたいですね」
楽しげに遊びまわる子供達を視て、本当にいい場所だと再認識した。
ああいった子供達の中にも、きっと親に連れてこられた子もいるだろうし、この集落で生まれたという子もいるんだろうな。
子は親を視て育つ。この集落で育った子供達はきっと凄い大人になるに違いないと思っていると、子供の一人が私に気づいて駆け寄ってきた。
「お兄ちゃん……?だぁれ?」
「初めまして、小さなお嬢様。私はついさっき、ここに来た人ですよ」
「初めまして?」
上手く言葉が伝わってない感じを察するに、まだ幼い子なんだろうな。こういう子と接すると少し疲れるところもあるが、それ以上に癒されたりするんだよな。
私との会話を視たのか、他の子供達も続々と駆け寄ってきて次々と話しかけてわちゃわちゃとなりかけたので、一人一人丁寧に接して空間に落ち着きを取り戻す。
「私みたいな人に出会うのは初めて?」
「はじめてだよ?」
「そうでしたか。ありがとうございます」
子供の回答に私は少し考え込んだ。
この子達、いやこの集落に住む全員があまり現在の情勢を知らないのでは?
そんな疑問に私の良心は教えた方がいい、と訴えているのだが思考は違った。
この集落に住むほとんどがいわば世間から離れてきた者達だ。そんな彼ら彼女らに今の情勢を伝えたところで到底意味があるとは思えない。そうですか。だから?で終わるに違いない。
いや、今の私はあまりこの集落について知らなさ過ぎるな。まずは、その辺りをどうにかするか。
そう考えた私は子供達にまた遊びましょうね、と伝えてから案内されてからずっと気になっていた食事処へと向かった。
「いらっしゃい」
食事処の中に足を踏み入れると同時に店主らしき人物からそう言われた。
中を見渡すと数人が一つのテーブルで食事を楽しんでいる様子だった。
私の想像していた食事処より内装は綺麗で、机と椅子も一切の乱れなく整頓されており、その内の一つに私は腰掛けると店員らしき女性が話しかけてきた。
「初めての方ですね?でしたら、こちらのメニューをご覧下さい」
「ありがとうございます。……失礼、一つお聞きしてもよろしいですか?」
「なんでしょうか」
「この集落に来たばかりでほとんど何も分かってないのですが、お支払いの方はどのようにすれば?」
何も思わずにここに入店したけれど、支払い方法を知らなかった。手持ちにある硬貨が通用すればいいのだが……
店員の女性はなるほど、と答えた後に続ける。
「まずこの集落において、金銭のやり取りが発生する事はありません」
「なっ……では、どのように」
私が驚愕していると女性は立ちながら説明するのを大変だと思ったのか、対面の席に座って説明を続けてきた。
「この集落は助け合いです。困っている人が居たら助けるのが当たり前、そういった場所です。そのため、このお食事処や武具店などのお店ではお客様からお金を頂戴する事はいたしません」
「金銭のやり取りが助け合いから離れてるから、しないというわけですか?」
「ある意味そうです。お金は人を変え、時には争いへと導く道具でしょう?」
「……えぇ」
その言葉もある意味合っている。金銭関係での問題は私も知っているし、行くところまで行ったら最悪の結末になってしまうのも知っている。
この集落は金銭のやり取りは争いの元だから、取り扱うのをやめているのだろうか。しかし、助け合いと言っても、食事処や彼女が言った他の店でも店側から一方的に施しを受けるだけでは助け合いとは言い難い。
助け合い…………そうか。分かった気がする。
「ということは、お店側から何かを頂く代わりに私たちお客側はお店側に商品の元となる原材料などを渡す、ですか?」
「はい、その通りです。お食事処ならば食材。武具店なら鉱石や魔物のドロップアイテムと言った品々を渡す事で料理、武器、防具を頂くというのがこの集落の常識です」
「なるほど……一種の物々交換ですか」
「はい。今回、貴方はここに来たばかりでのようなので今回は無料で大丈夫ですよ」
「いえ、そうもいきませんから……手持ちの食材を後ほどお渡しさせていただきます」
「かしこまりました。では、食事を終えてから頂戴いたします。それで、メニューの方はどうなされますか?」
そう言われて、ようやく渡されたメニューを視る。
どれこれも視た事のないメニューばかりで全部頼んでみたいが……正直なところ、何がいいのか全く分からんし、名前だけではどんな見た目の料理が出てくるのか分からない。
「迷っていられるようでしたら、こちらの新緑牛の香草焼きが一番無難かと」
「オススメではないんですね」
「全ての料理がオススメです」
「…なるほど。では、その新緑牛の香草焼きを一つ」
「かしこまりました」
新緑牛……聞いたことがない名前だが独自に繁殖させた牛なのだろうか。なんにせよ、名前から予想するに結構ガッツリ食べる料理だろうな。
待つこと数分。プレートを宙に浮かした先ほどの女性店員がやってきた。
「お待たせしました。新緑牛の香草焼きでございます」
「ありがとうございます」
「では、何かありましたらお呼び下さい」
先ほど、プレートを浮かしていたのは魔法なのか?と思っていたが、問う間も無く店員は一礼して去っていった。よくよく視ると、彼女は足で歩いておらず浮いているようだった。
あれも魔法か?それとも、種族的な特性なのだろうか………こういった事も確かやめて欲しいと言われていたな。控えよう。
それよりも、このテーブルに置かれた瞬間から私の食欲をそそらせる匂いを放つ料理だ。
見た目は普通。いたって普通なのだが、匂いだけで他のものとは格別だということが分かる。早速食べるとしよう。
置かれていたナイフとフォークを手に持ち、慣れた動作でお肉に刃を通そうとして、驚いた。
「な……手応えが無い」
普通、厚みのあるお肉をナイフで切ると弾力などで手応えがあるのだが……これにはそれが無かった。スーーと…まるで、何もない空間を切っているかのような感覚だ。
お肉を一口サイズに切り分けて、早速一口食べてみた私は目を見開いた。
「美味しいっ……これは」
お肉自体がとても柔らかく、噛む動作がほとんどいらない上に僅かにお肉が潰れるだけで溢れ出る肉汁と鼻を突き抜けるこの香ばしい匂いがたまらない。
自慢でないが、私は家柄から今までかなりの高級品を食べてきた。そして、その中には高級肉も含まれてはいるが、それらが話にならないほどに美味であった。
すぐさま二口目、三口目、四口目と続いて……気づいたら、プレートの上に乗っかっていたお肉は一欠片も残っておらず完食しきっていた。
少々はしたない勢いで食べてしまった自分に恥ながら、静かに呟く。
「……これほどまでに、美味しい料理は初めてですね」
「それはなによりです。では、お下げしますね」
「ありがとうございます。…………ふぅ」
食べ終えた満足感に思わず息が漏れる。正直、あの料理が美味しくまだまだ食べれそうな感じではあるが、今は余韻に浸っていた。
「まだまだ知らないことばかりですね」
この集落のこともそうだし、これほどまでに美味しい料理が存在していることもだ。食材の力だけでは決して表現できず、料理人の腕前が魅せられるかのような一品だったしな。
十分に余韻に浸った私は、先ほど約束した代金代わりの食材を渡しに行った。
「では、裏の方でお願いします」
案内に従って店の裏側の一室へと向かう。そして、中央に設置されている金属でできている大きな台の上に乗せて欲しいと言われた。
私は体内に収納の魔眼を生成して発動させ、空間に出来た穴に手を入れて、別空間に収納されている多くの食材を取り出して台の上に並べていく。その中には、たまたま手に入れた貴重な食材や魔物の肉なども含まれていた。
「これくらいです、ね」
「ここでは手に入らないものもありますね。それと、こんなにも頂いてよいのですか?」
「えぇ、最高の食事を頂いたお礼です。私としてはこれでも足りないくらいですが……」
本当はもっと出してもよいのだが、これ以上は私の旅にも影響が出そうなので渋々断念。
「十分、いえ多いくらいです」
「そうでしたか。でも、出したものを仕舞うつもりはありませんのでお受け取りください」
私が収納の魔眼を消したのと同時に空間に出来た穴も消える。それを視た彼女はどこか諦めたかのような感じがした。
ずっと思っていたのだが、この人は表情を変えないのだろうか。初めて視た時から今まで見逃してなければ無表情な覚えがある。
「……分かりました。お言葉に甘え、頂戴いたします」
「はい、では私はこの辺で」
「ありがとうございました。またのご来店を」
これ以上はここに用がないので後にする。きっと近いうちにまた来るに違いないなと思った。
……あぁ、そういえば彼女の名前を聞くのを忘れていたな。次来た時にでも聞いておこう。
お食事処を後にした私は宿の部屋へと向かった。道中、多くの人たちが私に話しかけてきて思ったより疲れた。しかし、そのお陰で知らなかったことも知れたし、多少なりとも交友関係が出来たので良かった。
「ふぅ………中々に濃い1日でしたね」
部屋に備え付けられていた柔らかなベットに大の字になって、そんな言葉を漏らした。
迷子から突然の出会い。そして、この集落へ案内されて……そこからは驚きの連続で精神的に疲れたな。
まさか、こんなことになるなんて思いもしなかったが……お陰でいい体験は出来たし、世界を知れた。
この集落は他とは違い特殊だ。だからこその良さはあるし、なんなら住民一人一人の生活基準が高くて本当に驚いた。
「驚いてばっかでしたねぇ……ふわぁぁ………寝ますか」
また明日も、少し気になる場所へ向かったり、なにより他の料理も食べてみたい。
数日間はここに滞在することになるだろうし……エレメスへの手紙とか諸々をどうしようか。
……いや、もう眠いからまた明日以降に考えよう。おやすみさんと。
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