雷光の魔眼
お久しぶりです
〜ステロス〜
雷光の魔眼と言うのが私に与えられた力らしい。初めて聞く名前ではあるが、不思議とその使い方が分かる。奇妙な感覚ではある。
先程の場所から魔物の大増殖の魔物達の真ん中へと向かったステロスは自分自身の速さに驚くが…不思議なことに体がその感覚を覚えているのだ。本人は体験した事がないのに…
これもアイズと言う魔眼商人とやらのせいかな?と思いながらステロスは周囲の魔物を斬り倒すと同時に地面を大きく踏み締める。
全身に力が漲ってる感覚がする。今なら……みんなを守れる!
突然現れたに等しいステロスに周囲の魔物も驚くが、すぐさま本能に従って攻撃を行う。しかし、雷光の魔眼によって発生した電撃が全方位へと放たれた。
一瞬光り、やや遅れてバチバチッ!という音が鳴ったと思えば周囲数メートルの魔物達の頭部が炭化していた。魔物達は1匹残らず耐えることなく、即死であった。
その威力の凄まじさをステロスはこの時点ではただ、これなら!と思っただけだった。この時点では……
雷光の魔眼と言う自然界において無類の火力、速さなどを誇る雷を操る事が可能なそれを使い、ステロスは次々と魔物を倒しながら最前線の方へと向かった。
剣を振るわずとも体に雷を纏わせて走るだけで魔物が感電死する様子は側から見れば可笑しな光景だったに違いないはずだ。
やがて最前線に着いたステロスは、まず付近の魔物を一掃することにした。理由は、自分の声を聞かせるためだ。
雷光の魔眼の力を使い、左右へ一直線に走る特大の雷を戦う人たちが巻き添えにならないように繊細な注意をしながら放つ。
その雷は夜の闇を一瞬だけではあったが、光に包み込むほどであった。
そして、遅れて鳴り響く大地を揺らすかのような轟音。
後に残ったのは融解し、変色した地面だけであった。魔物達の死体はおろか骨すらも残っていなかった。
普通はその光景を見れば例え魔物でもすぐさま背中を向けて逃げだす。しかし、魔物の大増殖中は違う。上位個体によって半強制的な支配を受けている魔物達に逃げるという選択肢は存在しない。あるのは、目の前の障害を潰すだけ。
その証拠に魔物達もまだこちらへ向かってきている。
今の雷で魔物は大幅に数を減らし、これでようやく普通の個体が全部消滅した。そして、新たに攻めてきている魔物達は全て進化している上位個体に分類される強力な魔物達であった。
それを横目で確認しながらステロスは呆然としている冒険者、兵士達に向けて大きく声を上げる。
「全員!城壁内へ戻って下さい!!残りは私が仕留めて参ります!この雷の力で!」
そう言い終えると同時にステロスは天から一筋の雷を魔物達の中心へと振り落とす。
彼が叫んだその声は不思議と戦場に響いた。そして、次に響いたのは最早死を覚悟していた冒険者や兵士達の歓声であった。
『うおおぉぉぉぉぉ!!!』
「早く避難を!そして、怖がる市民の皆さんを守って下さい!!」
その言葉に大半の人が城壁内へと素早く退避していく。退避して行った者は戦場から早く逃げたいと思っていた者達でもあった。
一方、退避せずに残る者もいた。そういった者達は全員ステロスを知っているという共通点を持っていた。
彼ら彼女らの顔に浮かぶのは、驚愕…そして、心配であった。
「ステロスっ!一人でなんて無茶だ!」
「そうだ!今のが何の力なのか知らないけれど、あの数相手には無理だ!」
「いえ、心配には及びません!詳しい話は終わり次第お話ししますが、今の私ならば皆さんを守れます!だから早く退避して、皆んなを守ってください!それが私たち兵士の務めですから!!」
言い返そうとした兵士たちであったが、ステロスの言葉を聞いて何を言っても無駄だと感じた。同時に、彼を信じようと思った。
兵士になった時からステロスは自分が出来ないことに関しては正直に申し出る人間であった。そして、優しく、常に人々のことを思い、嘘を付かない人間でもあった。
そんな彼が今の私ならば皆さんを守れる、と断言したのだ。いったいなにがステロスの身に起こったのかは知らないが、断言したのならきっと何か方法があるのだろう。
現状、いつかは必ずやられる無意味な戦いであった戦況を一瞬にして覆したのは謎の光とその後に現れたステロスの存在だった。
あの数の魔物を一瞬にして消し去ったのならば、同じような手段がきっと………そう思った冒険者や兵士達はステロスに全てを託し、城壁内へと戻っていく。
一人残ったステロスは閉められる城門を視て、小さく笑顔を浮かべる。
「ありがとうございます。私の我儘に付き合ってくださり」
これで、もう誰も傷つくことなくこの戦いを終わらせる事ができる。そして、帰るんだ……大南国ウェズレアに。サイラの元に。
ステロスは雷を操り、剣を作り出す。そして、光り輝く右眼と共に残りの魔物達を殲滅するために駆け出した。
〜メルス(シアメル)(アイズ)視点〜
凄まじい。
一方的な戦いとはまさにこの事を指すのだろうか?
そうとしか思えない戦いが私の目の前で繰り広げられていた。
たった一人。雷光の魔眼を宿し、雷の剣を片手に、己に雷を纏わせ、周囲の魔物を次々と殲滅していく彼ーーステロスは言うならば雷神とでもいうべき存在のようだ。
一度剣を払えば、数メートル先の魔物まで一斉に感電死する。さらに雷光の魔眼で天から雷を数本落とせば出来上がるのは、溶解し、若干クレーター化とした地面のみだ。
少し時間をかけて雷光の魔眼の力を発動させると、今度は天から雷竜が魔物達へと落ちていき、あたり一体を焦土と化す。
みるみるうちに魔物達は減っていく…そして、ようやく終わりが見えかけてきた頃に上位個体のさらに上、最終個体の魔物達が姿を見せた。恐らくあれらが魔物達を率いていたボス的魔物のはずだ。
普通ならば魔物の最終個体というものは冒険者階級で言えば魔鉄級から魔神鋼鉄級のような人が一部を除いて複数戦い勝利するような簡単に言えば化け物だ。
しかし、今のステロスならば敵ではあるまい。正しくは彼の雷光の魔眼の前では、だが。
水を差すような表現ではあるが、今の彼は強い。しかし、それはあくまで雷光の魔眼のお陰に過ぎない。これ以上に強くなるならば本人が剣の腕を磨いたりするしかないのだ。
この戦いが終わった後に彼がどんな行動を取るのかがとても楽しみで仕方がない。……あぁ、そうだ。ついでに本屋にでも行こうか。
求める本は、良い商人になる方法とかだな……あの言葉は意外と傷ついたぞ。
そんな馬鹿げた事を考えているうちにどうやら決着が着くみたいだ。
自身と剣に雷を纏わせて、超高速で動きながら斬りつけて感電。流石にあのレベルの個体となると感電死はしないか?
並外れた生命力、掠るだけで死に至る可能性すらあるほどの威力に加え、皮膚はまるで鉄のように硬い上に俊敏性まで優れている。
ただ単純に強力な魔物だが、雷の前では無力にすぎない。
掠るだけで気絶しかねないほどの電流に加え、傷口が瞬時に炭化して再生など不可能となる。そして、それを行なってくる相手は肉眼では捉えられないほど超高速で動き回る。
相手にはしたくない。
自慢ではないが私なら彼に圧勝することは可能だ。魔眼の種類と活用方法を舐めないで欲しい。
「これでおしまいだ!!」
ステロスが最後に残った最終個体に剣を突き刺す。そして、体内から雷を放った。
魔物の肉体は所々炭化しており、若干ではあるが煙も出ている。表面でこれなのだ。体内がどうなっているかなんて想像もしたくない。
しかし、終わったのだ。最後の魔物が英雄ステロスに討伐されて魔物の大増殖は収束した。
あとは彼が帰れば、と思ったら……
「みん、なを……守れ、た」
精神的に疲労したのだろうか、パタっと倒れてしまった。……どうやら気絶しているみたいだ。
指揮官である最終個体の魔物が倒れた影響で、残った魔物は我に帰ったように困惑し、すぐさま住処の方に帰るように逃げていく。
今回の魔物の大増殖でかなりの種類、数の魔物が討伐されたから当分は魔物の大増殖は発生しないだろうな。
今回のようなケースは今後起きないだろうしな。恐らく冒険者達の怠慢でもあるだろうからな。普通ならば事前に予測できた事ができていなかったわけだから。
私は静かにステロスのそばに降り立つ。ちなみに姿は透明なので誰かに見られる心配はない。
「契約書もありますから、しばらくしたらもう一度お尋ねしますよ。英雄ステロス様」
そう語りかける。聞こえてはいないとは思うがな。
遠くから声が聞こえてきた。どうやら退避した兵士や冒険者のようだ……分かりやすいように目印でも…いや、これ以上は干渉しないでおこう。
さて、ゆっくりと寝るとしようか。睡眠中のところを叩き起こされたんだからな。
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