最善の選択を
と、言う未来を見た私は魔眼の力を解除した。
今見たのはありふれた未来の一つであって、私が望む未来の一つでもある。
使った魔眼は未来視の魔眼だ。英雄譚では数秒先の未来を見るという話であったが私の場合だと数年先の未来を見れる。まぁ、未来視の魔眼ばっか使ってるから他の魔眼に関してはちんぷんかんぷんなのだが。
今の私は6歳。そして、現在貴族としてのマナーとやらを学んでいる最中だ。
貴族のマナーとやらはとにかく難解だ。所作などはもっと前からそれが当然のように生活してるので体に染み付き始めてる。けれど、つい最近学び始めた言葉遣い、読み書きなどが非常に難しいのだ。
私が産まれた家、フィルディーリナ家は侯爵家だ。そのため求められる水準も高い。そして、我が家は大西国ウェリニアという国に属している。
東西南北にそれぞれ大国が存在しており、私が住む国はその西である大西国。豊かな土地と季節によって温度が大きく変わるのが特徴だ。
「メルス、聞いてるのか?」
その声と共に私の思考はマナー講座に引き戻されてしまった。
意識を声の主に向けるとそこには金の髪に同じ色の眼を持つ私の4つ上の兄が少し怒り顔で立っていた。
名前はマクリス。マクリス・フィルディーリナと言い私にマナーを教えてくれる嬉しいようで要らない兄だ。要らないというのはマナー講座を教えなくてもいいと言う意味での要らないだからな?
内心でマナー講座がだるい、という文句を吐きながら顔には出さず笑顔で返事を返す。
「聞いてますよ」
「本当かぁ?………なら、今俺が言った事を復唱してみろ」
「それよりもマクリス兄様。今宵の祝いのパーティーはいったい何に対する祝いなのでしょうか?」
聞いてなかったので復唱できるわけがない。そのため私は話題を挟んでなんとかしようと試みる。一時凌ぎでしかないがどうやら私の兄は律儀に答えてくれた。
「…多分、メロミア公爵様のご息女の誕生日のはすだ。今日で7歳になられるとか」
おや、かなり大事な祝い事ではないかと私は少し驚く。
メロミア公爵家は大西国ウェリニアが建国された時から今まで続いている伝統ある貴族家だ。当然、権力は強く、資産も凄まじいはすだ。
そこのご息女の誕生日か…きっと大きなパーティーだろう。侯爵家の我々が誘われるのは政治的理由や純粋に仲の問題も含めて当然のことだし、大半の貴族が来るのではないのか?流石に王族は来ないだろうが。
これはマナー講座をするわけだ。なにしろ、公爵様の前で無礼は晒せないからな……視ておくか。
「マクリス兄様、少しお花を」
「ん?…まぁ仕方ない。あぁ行ってこい。必ず戻ってこいよ」
「えぇ、分かっています」
トイレに行くという嘘を告げて私はその場から離れる。そして、実際にトイレに行き鍵を閉める。
トイレは魔道具と呼ばれるとても便利な代物により自動で水が流れる仕組みだ。ただ、とても高価な物で珍しいものであるため貴族でも持っているものは少ない。
完全個室なトイレで今は私の邪魔をする存在などいない。居るとすれば今すぐにでも漏れそうな人だけだろう。
私は静かに深呼吸をして未来視の魔眼の力を発動させる。視る未来は今宵のパーティーだ……
どういった場所でどういった事をして、誰と関わり、誰と話すのか、その内容は?などと言う情報を事前に得て最善の行動を取る。
例えば、この時に脳内でパーティーを欠席した時の未来を視る事も可能であるが………視てみると何やら慌ただしい…事件でも起きたのか?詳細を視る前にもう一つの方を視る方が早そうだ。
パーティーに出席する未来はどうだ?
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メロミア公爵家のご息女であるメリシア様の7歳の誕生日パーティーの会場に私たちフィルディーリナ侯爵家が到着する。
両親に豪華な服を着た二人の兄とドレスを着た姉、そして私だ。
こんな風に家族全員で集まることは食事以外ではそうそう無い。
私たち以外にも多くの貴族や中には商人らしき人物まで会場に居て、それぞれで大いに賑わっているがその会話内容はメリシアご息女の事を祝うような事ばかりだ。
それもそうだろう。いきなり最近の〜〜と言えば場合によっては相手の気分を害する可能性もあるし、政治的な話をするためだけに来たのか?などとあらぬ誤解を受けるからだ。
かくいう我々も同じ侯爵家であるアマヒュス侯爵家の方々と「今日はめでたい日ですな」と楽しく談笑している。まぁ、両親がだけど。
まだ子供の私たちはただ騒がす、静かにしておけばそれでいいのだ。もし話しかけられたら丁寧に受け答えをすれば良いだけで自分から話に行くのは立場的にも不遜だからである。
侯爵家の息子と言えど侯爵本人ではないのだ。そのため貴族としての権限は持たず、立場的に言えば平民と同列なのである。
幸いと言っていいのか私に話しかけてくる人はおらずーー三男と言うのも影響しているだろうーーメロミア公爵家の当主であるケルア・メロミア公爵が壇上に姿を現した。
その瞬間、周りの会話がピタッと止まる。そして、ケルア公爵がゆっくりと喋る。
「今宵は私の娘、メリシアの為に集まってくれた事感謝する。さて、私が長々と話しては意味がないのでメリシアと交代するとしよう」
その言葉と共にケルア公爵の横へ一人のご令嬢が姿を見せる。
幼いながらもしっかりしてる雰囲気を見せる彼女がメリシア・メロミア様なのだろう。
いったい幾らするのか考えるのも恐ろしい程に繊細な装飾が施されているドレスに宝石で作られている花形の髪飾りを付けているが、それすら霞むのがその可憐さだろう。
黄緑色の遠目からでも分かるほど美しい髪に、翡翠の眼は神秘さすらも感じられる。
いったいどんな声を出すのだろう?とドキドキしているとメリシアご息女が一歩前に出て口を開こうとしたその瞬間……会場の明かりが全て消え去る。
混乱する会場に、明かりが消えては警備兵も役立たずと化す。そんな中、甲高い悲鳴と共にケルア公爵の声が響く。
「メシリア?メシリアぁぁ!!」
私たちは動こうにもこの暗闇では動かず、ただその場で立ち止まるのみ……そして、ようやく明かりが復旧したと思ったら壇上からメリシアご息女の姿は消えていて、その名を叫ぶケルア公爵だけが残っていた。
理解出来た事はただ一つ。メリシアご息女が誘拐されたと言う事だ。
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「なるほどね」
これは大事件だ……視て良かった。
公爵家のご息女が誘拐されたとなると大事件だし、他国にも舐められる可能性がある。
けれど、警備も頑丈なのに明かりを消して素早くメリシアご息女を誘拐して姿を消すのはかなり凄い敵なのでは?
……まぁ、大事件だけど何もしなくてもいいかな。いや、待てよ?
メリシアご息女を誘拐された結果、どんな不利益が起こるのか少しだけ視てみよう。
………おっと、どうやら私の将来にも少なからず影響を及ぼしているようだ。これはいけない。
かと言って、助けに行けるのか?今の私は未来視の魔眼しか使ってないので他の魔眼に関しては素人同然……いや、なんとなく分かるけれど完璧には使いこなせないはすだ。
魔眼というのはなんだかんだ便利性がとてつもなく高い。小さな事から大きな事まで、なんなら戦闘・生活・物作りまで魔眼一つでこなせれる。
未来視の魔眼、分身の魔眼、暗視の魔眼……あとは敵対時に使う魔眼を選んでおこう。そうすれば…恐らく助ける事は可能だ。あぁ、あと認識阻害の魔眼だ。
正体がバレると恐らく捕まるだろう。魔眼を使った件や助けた件……私の将来はその瞬間潰えるな。
自分の将来に影響があるから助けに行くのに、それでヘマをして将来が潰れたら本末転倒だ。それだけは避けたい…
「さて、そろそろ戻りますか」
兄がそろそろ私を怪しんでやって来るかもしれないしな。はぁ…マナー講座の続きか。
憂鬱な気持ちを押し殺して私は部屋へと戻って、支度時間前までマナーについて教えられ続けた。
そして、死んだような気分のまま私はメシリアご息女の誕生日パーティーへと向かうのであった。
未来視の魔眼で未来を見る時は最初と最後に
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をつけます。わざと言わなかったです。
名前改名しております。四葉のアミア→山本しろあめ
漢字で書くなら代雨