IF すべてを台無しにする話
「なぁ、これ何回やってもバッドエンドになるんだけど」
「えー? 何で……あー、あんたそりゃそうなるわ」
「なんで」
「なんで、って……ストーカーみたいに周囲をうろついてる奴にあんた好意抱く?」
「でもキャラゲーなんて大体好感度上げたいキャラの回りうろつくだろ」
「それはね、一昔前のゲームの話よ」
「なん……だと……!?」
弟が良質な百合を摂取したい、と言い出したので、とある乙女ゲームをお勧めしたのは少し前の話。
主人公であるアンリエッタが周囲の男性と仲を深めるのが本来のルートであるけれど、その中でただ一人、侯爵令嬢エメラダもまたエンディングを迎える事ができるキャラの一人だ。
アンリエッタは幼い頃にエメラダに憧れを抱き、彼女のようになれたらと強く願うようになる。
ルートに入る事ができれば、アンリエッタとエメラダは男爵令嬢と侯爵令嬢、というやや離れた身分であるものの唯一無二の友人となる。
その後はお互い結婚相手がいるので結婚する事になるが、それでもお互いは仲睦まじいまま。子が生まれた後もその付き合いは続いていく。
正直本来の攻略対象たちのルートよりも幸せいっぱいに満ちてるルートだと言われているのだが。
メインルートというよりは隠しルートみたいなもので、本来の攻略対象と比べると攻略難易度が高い。
そして割と簡単に迎えるバッドエンド。
バッドエンドルートに入ると大体アンリエッタは死ぬ。
死ななくてもエメラダとは疎遠になり、会う事もないまま生涯を終えていくのだ。
幼い頃はエメラダの後ろをそれこそひな鳥のようにくっついていっても問題はない。
しかし、ある程度大きくなってからはそういうわけにもいかないのだ。
「まずあんたの進んだルート見る限り、無駄に付き纏いすぎ」
「他の攻略対象と同じようにしただけなんだけど」
「男なんて単純なんだからそれでいいかもしれないけど、相手女よ? しつこくしすぎ」
「女子なんてしょっちゅう一緒に行動してるだろ。トイレ行くのだって集団だし」
「それいつの時代よ。昭和? 平成? 今の元号知ってる?」
「うわ、露骨に馬鹿にしてくる……」
「まず、子供の頃はさ、そりゃあ多少の事は見逃してもらえるわけ。お揃いだろうとなんだろうと」
「おう」
「でも大きくなってからもそれって、正直どうかと思うわけよ」
「そうか? 何かペアルックとかお揃いって言葉好きそうだけど。女って」
「好きな人もいるけど嫌いな人もいる。男だってそうでしょ」
お互いとっても仲が良くてお揃いも可、ってタイプならそうかもしれないけど、こいつとだけは絶対お揃いとか冗談じゃない! っていうのもいるんだから、ひとくくりにされてもね。
「それにエメラダは普通の貴族令嬢。普通って何、ってなるけど。アイドルとかじゃないわけ。いくら有名でも。そこはわかる?」
「それはな」
「アイドルならライブとかで推しグッズみたいなお揃いをファンが身に着けててもむしろバッチコイだけど、エメラダは違うわけ。
あと、エメラダ自身が何かのブランドを立ち上げて、それをアンリエッタが身に着けてる、とかならまだしもそうじゃないわけ」
「ふむ」
「普通の人の思考回路に沿うなら、アンリエッタのやってる事は度が過ぎてるし嫌がらせに思う事になってもなにもおかしくないの。精々ちょっとオシャレな部分を参考にしよう、程度ならまだ良かったんだけどね」
「丸ごと全部は駄目って事か」
「それに、エメラダがアンリエッタをあまりよく思ってないのに周囲をうろつこうとしてたらさ、それ普通にストーカーだから。仲が良くてそれを許してるなら問題ないけど、エメラダは嫌がってるわけ。なのにそれをやってるってなったら、アンリエッタが好かれる要素、ある?」
「絆されたりとかは……」
「あんた嫌いなやつに付き纏われて絆されるの?」
「いや普通に嫌うわ」
「でしょ」
そこまで言えば弟もどうやら納得したらしい。
とりあえずセーブデータ途中からやり直すより最初からやり直した方が早いと思ったのか。弟はゲーム画面の最初からを選択した。
ついさっきまでは周囲をうろつこうとしてエメラダに嫌われまくり、エメラダは関わらないよう遠ざかりあまり出てこなくなったし、これはもうだめだろうなぁ、という展開だった。
そこから出てきたエメラダに関わりにいったら腕輪の忘れ物。
それを入手しつい装着したのが運の尽き。体調不良に陥って、そのままじわじわと衰弱し死亡エンド。
あの腕輪が呪われているという事に気付くのが遅かった。エメラダが装着していた時はなんともなかったから。
次のプレイはもう少しマシになるかと思いきや……
その後も何度も迎えるバッドエンド。
さっきよりはマシに思えるけれど、弟のプレイはまだストーカープレイが抜け切れていない。
マップ上にエメラダがいたら必ずそこに行くのは、キャラゲーで好感度上げる時にやりがちだけれど、エメラダの場合はそれをやりすぎるとよろしくない。
何度も迎えるアンリエッタの死。
繰り返されるリセット。
そうして幾多の失敗を乗り越えて迎えた先のエンディングは――
エメラダとアンリエッタが無二の親友となり優雅な庭園でティーパーティーを迎えるというものだった。
一番いいエンディングではなかったけれど、これも充分なハッピーエンドだ。
「いい……すごくいい……これよりもまだ上があるのは気になるけれど今の俺にはこれが精一杯……どこのフラグ逃したんだこれ……わからん……でもこれはこれで良い……」
「フラグを逃したっていうか、立ててしまったってところね。
アンリエッタは男爵令嬢だけど、エメラダは侯爵令嬢。アンリエッタよりも色々と忙しいわけ。エメラダと仲良くなりたいのはわかるけど、相手の事情も気にしないでぐいぐい行ってもね……時と場合によってはそれただの迷惑だから。途中エメラダの友人が何回か忠告してたでしょ。遠回しに」
「あれ忠告だったのか……遠回しすぎて気付かねぇよ……」
「ともあれ、エメラダの都合も考えて関わっていけばいいのよ。あんた今まで相手の事情も都合も考えずにぐいぐい押しかけてったんだし。
現実だったらストーカーで訴えられてるレベル」
「ゲームだから! 現実でこんな事しないから!」
「そうそれ。現実と同じようにしていけばいいの。そしたら次は一番いいエンディングよ」
そう言えば弟は再びやる気を出したらしい。
もう何度目かもわからない最初からを選択する。
そうしてようやく一番いいエンディング、結婚した後も二人はずっと仲良く友として生きていきましたエンドを見る頃には。
弟はエメラダルートの全バッドエンドを回収していた。
逆にそれ見るの難しいなって思うようなのまで、マジで全部。
とはいえグッドエンドを迎えた弟に、水を差すような真似はせず姉はそっと生温い笑みを浮かべるだけだった。
「女同士の友情って難しいんだなぁ……」
とか何か悟ったみたいなことを言ってたけれど。
単純にお前のプレイがアレなだけだと思うよ弟。
犬や猫に必要以上に構い倒す幼児みたいだったもの。
そう指摘すれば動物と人間のかかわり方は違うだとか、現実とゲームは別とか言うだろうけれど。
ゲームだから、の先入観を持ってしまった結果がエメラダルート全バッドエンドコンプリートとか、お姉ちゃんちょっと弟との接し方を考えちゃいそう。
とはいえそんな事を言えば顔を真っ赤にして反論してくるだろうから。
空気の読める姉はそっと見守るだけなのである。