10章 明かされる真実と記憶 1話
どこまでも、どこまでも深い闇に落ちていくジェイルとオキディス。
すると、ジェイルとオキディスを覆っていた白い膜が魔法でも解けたみたいにパッと消えた。
そして、地面なのかよく分からない感触に叩き付けられた。
「んむっ!」
痛みはそこまでないが、叩き付けられた衝撃に思わず布猿轡越しから呻き声を上げるジェイル。
「んん?」
辺りを見回してみると、どこまでも暗い空間にキラキラとした光の星が散りばめられた世界。
まるで宇宙空間にいるようだ。
しかし、すぐ近くにあるはずの小さな光はどこまでも遠くにあるような奇妙な現象。
上や下を見てもその光景は広がっていた。
浮いているはずなのに、足は地面を付いている感覚がしっかりとジェイルには伝わっていた。
全てを見回したジェイルは無限に続く宇宙空間のような世界。つまり虚無の世界に落とされたのだ。
そのすぐ近くでオキディスが俯せの状態で布猿轡越しから嗚咽を漏らし倒れていた。
ジェイルはこのままでは何も進展しない、と思い、縛られた両腕で口を塞いでいる布猿轡を解くと、次に縛られている手のロープを歯を使い解こうとした。
「んぐぐ! んぐっ!」
眉間に皺を寄せながらめいいっぱい、歯と口を動かしロープと格闘する事、数分後、何とか解けた。
気持ちを落ち着かせよう、とその場で一度、深呼吸をするジェイル。
それでも状況を理解しようにも、中々、理解が追い付かない。
今いる現状を深く考えただけで困惑しそうになる気持ちを抑え、頭を振るう。
そして、悲嘆にくれるオキディスの元に近づくジェイル。
「お前にいくつか聞きたい事がある」
ジェイルはオキディスの口を塞いでいる布猿轡を荒い手つきで解くと悲嘆にくれるオキディスに同情する事なく、冷たい声でそう聞いた。
ジェイルの心中では、オキディスが自分を殺した犯人なのではないか? と言う強い疑念があったから、優しく声をかけるのでもなく、助けようとする気すら起きなかった。
疑念と言うより、殆ど確信に近い物だった。
それがあるからこそ、ジェイルはオキディスに敵意を向ける。
「いい加減にしろ! いつまで泣いてやがる!」
しばらく待っても嗚咽を口から漏らし続けるオキディスに嫌気がさしたジェイルはオキディスの胸倉を掴んで無理やり立たせる。
「うっ、くっ」
オキディスの目は赤く腫れ、涙を流していた。
「いいか。よく聞け。お前は生前の俺を知っているな?」
ジェイルは鋭い目付きでオキディスに問いかける。
「‥‥‥ああ、知っている」
少ししてから、震える声で喋るオキディス。
「やっぱりか。て事はお前が俺を殺したんだな?」
「な、何の事だ⁉」
ジェイルの質問に我に返ったオキディスは困惑した表情をしていた。
「とぼけんじゃねえ!」
オキディスの言葉に激怒するジェイル。
「ほ、本当だ! 私は知らない! 私が君の事を知っていると言うのは、君の幼少期の話だ!」
「――俺の幼少期?」
必死に訴えかけるオキディスの言葉にジェイルは動揺する。
想像していたのと百八十度も違うオキディスの返答。
ジェイルは幼少期の事を思い返そうとしても、殆ど記憶はない。あるのは、孤独で惨めな生活と父親と母親と一緒に笑顔で囲う偽りの食卓。そして父親の笑顔と自殺をする三日前の父との会話。それだけが鮮明に脳裏に浮かんでくる。
「君が覚えていないのも無理はない。君が生まれてから六歳までの頃しか会っていないのだから」
神妙な面持ちで語るオキディス。
ジェイルはただその言葉の続きを待っていた。
「私は君の父が働いていた会社の‥‥‥元副社長だ」
その言葉を聞いたジェイルは、脳裏に強い衝撃が走るように驚いた。
「何だって! ‥‥‥それは本当だろうな?」
当然ながらジェイルはオキディスが副社長に務めていた事も名前も覚えていない。
ただ、ただ困惑するジェイル。




