7章 思わぬ邂逅 11話
「奴らはあそこまでして天使界の人間達を地獄に落としたくない理由ってのは地獄の人間が増えて地獄を攻め落とす障害を減らすためか?」
天使界に来てから一番の疑問を推測しようとするジェイル。
「それが事実だとしたら、仮に現時点の億にも満たない天使界の人間達が兆を超える地獄の人間達と戦争が起きたとしても、昔と変わらない結果になるだけだ。天使界は戦力を増やそうとも、現世の悪魔の世界の有り様じゃそれも露の望みも無い。天使界の奴らが勝てる見込みは万に一つも無いってわけだ」
ガーウェンは地獄に落ちた人間から悪魔の世界、つまり現世での事柄もある程度は聞いていたのだ。
「て事は、今の儀式が仮にその目的のための物だとしたら意味が無く、別の目的のために洗脳されてるって事か?」
「そうなるな。生者の血以上に厄介な問題かもしれない」
それを聞いたジェイルは自分の赤いラム酒をぼんやりと見つめていた。
ジェイルは天使界が住民達を傀儡とさせる訳を考え始めた
生者の血と何か関係でもあるのだろうか? とつい考えてしまうが、すぐジェイルの横にいるガーウェンが迂遠に違うような事を口にしている。
と言う事は生者の血とは関係ないのだろうか?
関係あるようで無い話だが、ガーウェンは間違いなく生者の血に付いて熟知しているはず。
しかし、それを教えてはくれない。
何度もその事に不満はあったが、現にガーウェンはジェイルにその道を示し導いてくれているようにも思える。
やはりそう思えて仕方ない。
そう考えると、ジェイルの中でガーウェンに対し不満や怒りを向けるのは後ろめたい気がしてならない。
だからこそジェイルはガーウェンに生者の血に付いて追及する事はしないようにしていた。
それは自戒に近い物かもしれない。
「だが案外くだらない理由かもしれないぞ。神なんて言っても思考もあれば身体もある。それは言い換えれば人間と変わらないって事だ」
ジェイルがぼんやりとラム酒を見つめ感傷に浸っていると、突然ガーウェンが喋り出す。
「つまり?」
ガーウェンの神に対しての観点から導き出された洗脳の真の理由が分からないジェイルは首を傾げる。
「あんた達。いつまで飲んでんだい。もう日が暮れちまったよ」
そんなジェイルの背後からニイナが気だるそうな声で喋ってきた。
ジェイルは家の隙間から差し込んでいた光が消えていた事に気付くと、残りのラム酒を一気に飲み込んだ。
そして、ニイナはジェイルとガーウェンにナイラの町の裏から出て高原に向かえ、と指示を出す。
しかし、ジェイルとガーウェンは思ってた以上に酔っていて足取りがふらふらしていた。
それを見たニイナは呆れた顔でため息をつくと、近くに置いてあるバケツを手に取り中に入っている水をジェイルとガーウェンの顔に目掛けぶっかけた。
「うあっ! 何すんだよ?」
冷たい水をかけられ、飛び跳ねるように驚くジェイル。
「酔い覚めの薬品が入った冷水だ。これで酔いも冷めたろ。後で約束していた脚を用意しといてやるよ。高原で大人しく待ってな」
「余計な事しやがって。また飲みたくなっちまったじゃねえか」
ガーウェンは二日酔いみたいな表情をしながらぼやいていた。
「とにかく行こうぜガーウェン。んじゃニイナ姉さん。また後でな」
ジェイルは先導しガーウェンはその後をだるそうに歩いていく。
「‥‥‥ガーウェンねえ」
二人が家を出て行った所を見送ったニイナはつまらなそうな表情で呟くようにそう言った。
どことなく切ない表情を浮かばせながら……。




