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電子書籍化決定 地獄劇  作者: ラツィオ
72/197

7章 思わぬ邂逅 4話

 「おお! これは良い。まるで心が露わになっていくようですぞ」


 (かん)(しん)(ふん)(しゅつ)の効力で完全に自我を取り戻した初老の男性は全身に力が(みなぎ)るような動作で自分の拳を強く握りしめていた。


 「そいつは良かったな。所であんた名前はなんて言うんだ?」


 「私はザクマン・アロウと言います」


 「俺はジェイル・マキナだ。よろしくな」


 ようやく自己紹介を終えた二人は互いに握手を交わす。


 そして、ジェイルはザクマンの歩くペースに合わせ先導しながらニイナの家に向かって行く。


 しばらく歩いていると前方で(てん)使()(かい)の兵士達五人がジェイルの視界に入っていた。


 少数に分けながら散開して辺りを重点的に調べている。


 ジェイルは、もしや自分を探しているのではないか? と思い咄嗟にザクマンを抱き上げ近くの家の物陰に隠れる。


 「どういたしました?」


 ザクマンは下ろされると何が起きたのか分からず、動揺しながら周囲をキョロキョロと見る。


 「実はな、会いたくない天災(てんさい)のような女がいてな、思わず逃げちまったんだ」


 自分が追われていると言えるわけもなく、言い訳をしようとしたジェイルは何故かニイナの顔が脳裏を過り、つい口実に使ってしまう。


 慌てるジェイルの顔を見る事が出来ないザクマンだったが、特にジェイルの言葉を疑う事もせずゆっくりとした動作で懐から白い布を取り出す。


 「ではこれで目を隠しなされ、それで少しは欺けるはずです。私が先導しましょう」


 「待てよ、あんたは目が見えないのにどうやって先導すんだよ?」


 手渡された白い布を手にしながら、ジェイルは不安な表情でザクマンに聞いた。


 「(まった)く見えない訳ではないのです。少しの時間なら私の目にも(かす)かではありますが光が差し込みます」


 「‥‥‥分かったよ。じゃあ頼むぜ」


 声に不安を隠しきれないように喋るジェイル。


 本当に大丈夫なのか? と思ったジェイルだが、他に方法が見つからずザクマンの案に乗るしかなかった。


 そして、ジェイルは両目を白い布で覆い、後頭部でしっかりと結んだ。


 ザクマンは両目を覆っていた黒い布を外し、閉じていた両目をゆっくりと開ける。


 「では行きますぞ。私の肩をしっかりと掴んでください」


 ザクマンの温かい声にジェイルは少しホッとし、ザクマンの肩を両手で掴んだ。 


 そして、今度はザクマンがジェイルを先導していく。


 「それで、その家はどんな特徴なんです?」


 「ええとな、木材で出来た、年季を感じさせる、農場みたいな平屋の家だ」


 ザクマンに聞かれたニイナの家の特徴を歯切れは悪いがなんとか伝える事が出来たジェイル。


 「分かりました」


 ザクマンはそう言うと辺りを見回し、ニイナの家を探そうとする。


 コツ、コツ、とザクマンが杖で地面を突く音と二人の足音だけがジェイルの耳に入ってくる。


 だが、その音も徐々にジェイル達に近づく(てん)使()(かい)の兵士達の声でかき消されてしまう。


 「おい、あの男はいたか?」


 「いや、いなかった」


 兵士達がジェイル達を横切ろうとした時、兵士達の野太い声がジェイルの耳に入ってくる。


 はち切れるんじゃないかと思う程、ジェイルの心臓の鼓動は激しく鳴っていた。


 冷や汗を流しながら見えない恐怖に飲み込まれそうになるジェイル。


 「あのう、申し訳ありませんが、道を伺ってもよろしいですかな?」


 ジェイルが一番、話しかけたくない(てん)使()(かい)の兵士達にザクマンは平然と話しかけていた。


 驚きすぎて全身が硬直するジェイル達の所に兵士達五人がプレートアーマーの擦れる音をたてながら近づいてくる。


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