4章 異常者 11話
空を切るだけの拳に、ガーウェンは嘲笑う。
そして、ガーウェンは躊躇なく自分の腹部にナイフを突き刺した。
黒い土煙が渦を巻きながらガーウェンの身体を覆っていくと、その身体は完全に黒い土煙と化し、足に結ばれた縄からも抜け出し、風を切りながら地上へと降りていく。
ガーウェンはダークファントムの状態で自分の剣の後で止まると地面でもやもやと動いていた黒い土煙は瞬く間に人の形へと変わり、衣服や手にしたナイフや元の肌を取り戻していた。
そして、ガーウェンはなんのためらいも無く平然と刀身を握りしめ、勢いよく剣を引き抜いた。
刀身から握りしめられていたガーウェンの手からは、血が垂れ落ちていた。
傷ついた腹部や手から快楽を感じていたガーウェンはニヤリと笑った。
生きている事に感謝していると言うよりも、傷つく事に感謝し、飽和されているかのような笑みだった。
「ちょっと、そんな所で快楽に浸ってないで早く助けなさいよ!」
文句を言いながら助けを求めるパーラインは今も尚、スカートを両手で必死になって押さえていた。
「本当にやかましい女だな。まあ、レディーファーストって事でお前から助けてやる」
ガーウェンは辟易する声でパーラインの真下にある剣の刀身を握りしめた。
「おい待て、ガーウェン! その剣は!」
パーラインの剣は妖魔の剣だと知っていたジェイルは、ガーウェンを呼び止めようとしたが、ガーウェンは既に、妖魔の剣の刀身を握りしめ、ジェイルが言い終える頃には、引き抜いていた。
「うぉぅ、いい剣だなこりゃあ。どの女の柔肌も凌駕するほどの極上の肌触りのようだ。俺の股間にまで響き渡ってくるぜ」
幸福に満ちた表情をしたガーウェンは、まるで快楽のソムリエのような卑猥な感想を言う。
パーラインは汚物でも見るような顰蹙した目をガーウェンに向ける。
通常の十倍の快楽で傷付いているはずなのに、とジェイルはガーウェンの快楽を物ともしない意力に驚きを隠しきれずにいた。
そして、ガーウェンは妖魔の剣の刀身を握ったままパーラインに渡した。
パーラインは妖魔の剣を片手で握りもう片方の手でスカートを抑えたまま自分に縛られている縄を切った。頭から鈍い音を立てながら落ちたパーラインは少しの間、頭から感じる快楽に藻掻いていた。
ガーウェンはパーラインの隣にいたヨシュアも同じ方法で助けていく。
その度に刀身を握っては傷つき快楽を感じ下劣な笑みを浮かべるガーウェンだった。
そこで落ち着きを取り戻したパーラインはジェイルの前に立つ。
ジェイルは自分を助けてくれるのか、と思っていたのか、少しホッとしていた。
だがパーラインの様子は明らかにおかしい。
まるで親の仇でも睨みつけるような鋭い目を向けてくる。
それを見たジェイルは徐々に不安を感じていく。
その不安が的中したかのようにパーラインは手にしている自身の妖魔の剣の切先をジェイルの喉元に向けてきた。
それを見たジェイルだけでなく、地に足を着けたヨシュアも驚いている。
「本当に貴方が憎いわ。出来る事ならこの場で殺してやりたいぐらい」
ジェイルはパーラインが自分に何に対して怒っているのかまるで見当がつかない。
「どういう意味だ? 俺が憎い理由はなんだ?」
地獄で誰かに恨みを買った覚えのないジェイルはパーラインが自分に向けてくる憎悪が腑に落ちない。




