4章 異常者 7話
ドサッ、と地面に落ちるヨシュア。そしてパーラインはヨシュアの元に急いで駆け付け、血まみれで赤く染まった残りの布を一心不乱で解いていく。
「ヨシュア! しっかりして! ヨシュア!」
「うっ、あぁ、あっ‥‥‥」
ヨシュアは槍に刺されていた快楽の余韻と恐怖で放心し、パーラインの熱願の声は届かずにいた。槍で刺された箇所の衣服は破れ、そこから大量の血を流していた。
「廃人化の一歩手前だな。快楽を与えられすぎて意識が定まっていない」
ガーウェンがヨシュアの顔を覗きながら分析してそう呟く。
ジェイルもヨシュアの無事を確認し少しほっとしたが、周囲の激しい戦闘が視界に入っていて完全に安堵はしていられない。
快楽戦士達は応戦している。
手榴弾や銃の遠距離攻撃の甲斐あって集落の人間達は攻めきれず、爆風や銃弾で撃たれ、かなりの数が倒れよがり声を出し身悶えている。
しかし、集落の人間達は数が多すぎて、後から来るその数は百を超えそうになっていた。雪崩のように押し寄せて来る上、傷を追わせ、地面で喘いでいた集落の人間達は傷が塞ぎ、快楽の余韻も消えて立ち上がり、再び猛進してくる。
しかし、快楽戦士達は臆する事無く立ち向かう。
ガーウェンが鍛錬させてきた精鋭達なだけはあるが、集落の人間達はかなり腕の立つ者もいて、快楽戦士達は苦戦していた。
「お前ら! 残りの武器を使って、ここを一点突破するぞ!」
ガーウェンの危機迫る指示に快楽戦士達は集落の人間達が一カ所に集まっている所に目掛け残りの手榴弾を投げ付け爆発させ道を作る。
その爆発後、ジェイルとパーラインは肩でヨシュアを抱え、爆風を肌で感じ取りながら、吹き飛んだ集落の人間達の間を懸命に進んで行く。
「やあー!」
「きゃっ!」
爆風で舞っている土煙の中を進んで行くと、五歳ぐらいの可愛げのある男の子が小さい槍を手にし、てくてく走りながら現れ、パーラインの脹脛を突き刺してきた。
攻撃し終えた男の子は勇ましい立ち振る舞いで、槍を構える。
「こらっ! 駄目でしょ!」
近所の子供をしかりつけるようなパーラインの怒りに男の子は怯え、ゆっくりと後ずさんでいく。
まるで生まれて初めてしかられたかのような反応だった。
幸いパーラインの傷は浅く、然程の快楽では無かった。
「うおりゃあ」
「うわっ!」
すかさず土煙の中から七十代ぐらいのお爺さんが、よろつく足取りで、ジェイルに近付き棍棒で後頭部を殴ってきた。
年のせいもあって、あまり力がこもっていなかった打撃は、簡単に耐えられる快楽だった。
殴り終えたお爺さんは、嫌らしい笑みで荒い息をし興奮いていた。
ジェイルが反撃し、自分を痛めつけられる事を望んでいるかのような素振りだった。
「こらっクソジジイ! 大人しく老後生活してろ!」
しかし、ジェイルはヨシュアを片で抱えているため、身動きが取れず、しかりつけるぐらいしかしなかった。
お爺さんは、子供がぐずるような表情になっていく。
「お前ら何してる! 早く行け!」
ガーウェンがお爺さんの蟀谷をピストルで撃ち、お爺さんはその場で絶命した。
突然の事に驚くジェイル。
「ジェイル! 早く行くわよ!」
戸惑っていたジェイルはパーラインの呼びかけで我に返り、再び走り出す。
そして、爆風で出来た道を進む中、剣を手にしている快楽戦士達が道の周辺にぽつぽつと爆風に少し巻き込まれ困惑している集落の人間達を斬り、更に退路を開く。




