3章 見極められる覚悟 12話
状況が読めないジェイルだったが、男とガーウェンの見えない間にある重圧を前に話を割って入る事は出来なかった。
「――ん!」
男はジェイルの顔を見て一瞬、身体が飛び跳ねるような驚きを見せる。
「‥‥‥コホン。そこの二人は見ない顔だな。初めまして、私はオキディス・ビュウレンだ」
オキディスと名乗る男は咳払いをし、無理に明るい表情に切り替わるとジェイルに近づき、握手をしようと右手を伸ばす。
しかし、先程のガーウェンとの言葉のやりとりから、腹黒い何かを感じ取っていたジェイルは警戒しながらその手を握る。
「‥‥‥ジェイル・マキナだ」
「よろしくジェイル君」
握手するとオキディスは親し気な言葉でジェイルに微笑みを向ける。
そこでジェイルは、オキディスの手にある違和感を感じた。
握ったその手の甲には、見覚えのある跡があった。それは生前のジェイルの額を打ち抜いた黒いフードを被った人物がしていたタトゥーとそっくりだった。
ドクロを十字架で刻んだあのタトゥーを無理やり消したかのような溝のような傷跡は、ジェイルの目を釘付けにし、生前の恐怖と怒りが背中から襲い掛かるように感じた。
「おい、どうしたジェイル?」
ガーウェンの呼びかけで我に返ったジェイル。そしてオキディスは、目を丸くさせ首を傾げていた。
「‥‥‥いや、なんでもない」
ジェイルは打ち震える感情を飲み込み必死に抑えた。
オキディスに対し嫌悪感が風船のように膨らんでくるのを感じるジェイル。
そして、オキディスはジェイルの手を放し、後ろにいるパーラインの元へ軽い足取りで向かって行く。
「どうも、初めまして。オキディス・ビュウレンです。以後お見知りおきを」
オキディスはパーラインにもにこやかに笑い握手をしようと手を伸ばす。
しかし、パーラインは不機嫌そうにし、そっぽを向き、握手を拒否した素振りを見せる。
「ハハハハッ、これは手厳しい。中々ガードが固そうなお嬢さんだ」
パーラインの態度にオキディスは一瞬戸惑い、ぎこちなく笑ってごまかした。
そんな中、ジェイルだけは俯き目を閉じていた。脳裏の中で反復する生前の最期。それがどれだけ酷く、憎いかはジェイルにしか分からない。
ジェイルは、今は感情を抑え、生者の血を手に入れた時に必ず報いを受けさせる、と心の中で静かに憎を滾らせながらそう誓ったのだ。
「それでガーウェン君。例の物は提供してくれるのかね?」
オキディスは不敵な笑みをガーウェンに向けそう言うとガーウェンは軽く舌打ちをし、近くに居た快楽戦士に「あれを持ってこい」と指示を出した。
五分後、扉から現れて来た者にジェイルは驚きを隠せずにいた。
五人の男がボロボロの布切れを着せられ一列に並び、手錠を掛けられ、腰にはロープで五人を繋ぐように結んでいた。その表情はゾンビのように心が無く、瞳孔が黒く濁りきり、薄暗い空を見上げていた。
囚人のようなその男たちは三人の快楽戦士達の手によってオキディスの元に誘導されていく。
「今日は五人か、いつもより少ないんじゃないのか?」
「そう頻繁に来られてたら、渡すのにも限度がある」
オキディスの近くにまで寄って顔を覗き込むように威圧するガーウェン。しかしオキディスは気にせず鼻で笑った。
「まあいいだろう。今回はこれで良しとしよう」
オキディスがそう言うと白いフードを被った人物達が五人の囚人のような男達の頭に麻袋を被せた。
「それにしても、あの生気の抜けた醜い顔はどうにかならない物かね。吐き気がするよ」
ガーウェンに向け不敵に笑うオキディスに対し、ガーウェンはくだらない、と言わんばかりに、不機嫌そうな表情を浮かばせていた。




