3章 見極められる覚悟 7話
二頭の虎は白いスーツの強面の男と女に意識を集中していた所の隙を突かれ殺され、白いスーツの強面の男も、足を負傷し、身動きが取れない所で殺された。
グロリバーは殺意に満ちた表情を浮かばせ、斧を振りかぶる。
このままではまずい、と思ったジェイルは急いで次のコースに向け走り出す。グロリバーは逃走したジェイルに舌打ちをし、後を追っていった。
そして、ガラガラ蛇が絡みついている縄はしごの雲梯に辿り着いたジェイル。下からはグツグツと音を立てながら高熱を放つ真っ赤な溶岩。渡り切るまでは十五メートルの距離はある。
これから敢行を前にしたジェイルの表情は強張り、呼吸が乱れそうになる。
背後からグロリバーが斧を構えながらジェイルに向かってくる。ジェイルは覚悟を決め、雲梯の縄に手を伸ばした。しかしヘビが忌避音で鳴きジェイルの手を威嚇してくる。
思わず手を引っ込めたジェイル。
どうしたらこの状況を打開できるか、と思案している暇はない。追い詰められたジェイルは思いきって妖魔の剣を抜き縄を斬らずガラガラ蛇だけを斬った。
そして、斬っては妖魔の剣を口で加え、縄を両手で渡り、また妖魔の剣を片手に握りガラガラ蛇を斬っていく。これをただひたすら繰り返していく。
下から発せられる溶岩の高熱は熱いと言う感覚ではなく、ここちよい湯に全身が包まれながら神経の感覚が麻痺するような快楽が伝わってくる。
少しでも気を抜けば、手を放しかねない状況だった。
実際に溶岩に入ってしまえば、快楽を感じる暇も無く、瞬時に溶解するだろう。
渡っていくと、背後にいるグロリバーも斧を口に加え、縄を握り渡ってくる。
だがジェイルと違い縄に絡みついている蛇には何の対処もせず渡ってきた。
グロリバーは手を噛まれたりされていたが気にも留めず狂ったような表情でジェイルに近づいてくる。
しかし、少しするとグロリバーが見悶えしながら昇天しそうな目になっていく。毒が身体全身を蝕み、想像絶する快楽を感じていた。
快楽に耐えられていないはずなのに、グロリバーはジェイルを殺したい一心で、ジェイルに肉薄する。ジェイルのような対処もせず普通に縄を渡ってきている分、早かった。
それを目にしたジェイルは、一度、止り迎え撃つ事にした。
このままジェイルが必死に縄を渡っていっても、不意を突かれるのが目に見えているからだ。
「死ねええ!」
グロリバーは、ジェイルに近付くや否や、片手で斧を振るってきた。ジェイルは妖魔の剣でそれを受け止める。
剣と斧の激しくぶつかる音がコロッセオに鳴り響く。体制を立て直しジェイルが妖魔の剣で反撃すると、グロリバーも斧で受け止める。グロリバーも負けじと斧を振ってジェイルはそれを妖魔の剣で受け止める。そんな攻防が五回程、続いていると、なんと女がすぐ後ろにまで迫ってきていた。女もジェイルと同じ方法で進んできている。それに気付いたジェイルは慌てた。しかし、グロリバーは未だ狂ったような顔で発狂しながら斧を振ってくる。
ジェイルはどうしたらいいものか? とグロリバーの攻撃を受けながら思案する。そこでジェイルはグロリバーが握っている縄に狙いを定め剣を振った。グロリバーはそれに気付き、慌ててジェイルの剣を弾いた。
「てめえ! 汚ねえぞ!」
「お前みたいな醜悪の奴に言われたくねえんだよ!」
グロリバーは激怒する。ジェイルはグロリバーが初めて慌てた事に対し、少しだけやり返せた気持ちになり、気分が高揚していた。
しかし、今度はグロリバーがジェイルと同じ手を使い、ジェイルの握っている縄を攻撃してくる。
慌てて妖魔の剣で防ぐジェイル。
「落ちやがれクソヤロー! 俺がお前に望むのは死だけだ!」
グロリバーの一方的な攻撃に成す術がなく、防戦一方になるジェイル。
あれだけ重そうな斧を先程以上に軽々と扱うさまは、まさに火事場の馬鹿力。




