18章 散りゆく花 9話
そんなイエスを見て、シャーディッヒも自然と涙を流してしまう。
「でも、私、どうしたらいいのか分からなくて。……貴方が責務に耐えて、休心する暇もないのかと思って、このままあなたを見ているのが私、耐えられなかったの。ごめんなさい。私の脆さが招いた結果よ」
シャーディッヒは咽び泣きながら、必死に謝罪をする。
そんなシャーディッヒを見ていると、イエスは傷心してしまった。
表情に出さないよう、顔に力を入れるイエス。
「私は大丈夫だ。お前には苦労を掛けるな。本当にすまない。確かに私は責務に追われている身だ。だがお前が居るからこそ、私は耐えられた。だからこれからも生きて私の傍に居てくれ。お前が居てこその天使界だと言う事を忘れないでくれ。未来永劫、私とお前は半身でもあり、一蓮托生の伴侶なのだから」
イエスの嘘偽りない心根。
その言葉に感化されたシャーディッヒは泣きながらイエスの手を強く握り、イエスもまたシャーディッヒの手を両手で強く握る。
「ごめんなさい貴方。……私が、間違ってたわ」
シャーディッヒは言葉を詰まらせながらも涙ながら謝罪の言葉を口にする。
二人は流しながら見つめ合っていた。
こうして和解したイエスとシャーディッヒだった。
シャーディッヒの心に巣食っていた魔は転機を迎え、雲一つとない清涼なものとなる。
だが、これで終わりではなかった。
シャーディッヒは近況報告をするため、話を真摯に聞いてくれたユエルを自室に招く。
「これはこれはシャーディッヒ様。御招き頂き光栄でございます」
ユエルはプレートアーマーのヘルメットだけを脱ぎ、丁寧にお辞儀をする。
「いいのよそんな畏まらなくて。それより貴方に報告があるの」
シャーディッヒは笑みを浮かばせる。
「何でしょう?」
ユエルは涼し気に答える。
「あのね、私はこれからもイエス様の傍らに居るわ。もちろんこの天使界で。だから貴方にももっと身近に居て貰うために神官になれるようイエス様に推薦していいかしら? 貴方は私の理解者でもあり、友達だから」
なんと、シャーディッヒはユエルに親近感を抱き、身近にいて欲しい、と提案してきた。
シャーディッヒの清廉な心根。
しかし、ユエルは溝に浮かぶ蛙でも見ているかのように、まるで愚劣な提案だ、と言わんばかりな冷たい目をする。
「どうしたの?」
シャーディッヒは何か良くない違和感を感じ、少し動揺しながらユエルに聞いてみる。
すると、急にユエルは清涼な表情になる。
「いえ、とても魅力的な提案なのですが……」
そう言いながらシャーディッヒにゆっくりと近付いていくユエル。
不気味さを感じるでもなく、キョトンとした態度のシャーディッヒ。
そこで。
――グサッ。
「え、え?」
なんと、ユエルはシャーディッヒの心臓にナイフを突き刺した。
訳が分からず酷く動揺するシャーディッヒ。
「そ、そんな……どうして」
シャーディッヒは痛みを堪えながら狼狽する。
「シャーディッヒ様。私が望むのは神座のみ。貴方が自害しないのなら私が貴方を地獄に送ってイエスを天使界から追放しましょう」
不敵な笑みで蹲るシャーディッヒを見下すユエル。
「どうして……そんな……事を?」
今にでも意識が途絶えそうな逼迫した表情でユエルを見上げるシャーディッヒ。
「何故? そんな事決まっているじゃないですか。下らないのですよ。文字通り、この世界は無価値です。野心があってこそ心は真価を問われると言うのに、この世界はそれを閉塞している。私はそれが我慢ならないのですよ。幸いにも、この天使界で野心を持つ者は稀です。私がそれに選ばれた、言わば希望なのです。この世界に選ばれた人間、即ち……神」
ユエルは優越感に浸っているかのように貫禄を込めて口にする。




