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電子書籍化決定 地獄劇  作者: ラツィオ
188/197

18章 散りゆく花 8話

 そして、再び時は戻り、シャーディッヒが自身の腹部にナイフを突き刺そうと構えを取っていた。


 「落ち着くのだ。安心しろ。私が付いている」


 逼迫した表情で宥めながらゆっくりとシャーディッヒに近付くイエス。


 しかし……。


 「貴方なら私の気持ちに応えてくれるわよね。私は信じてる。貴方が私の後を追ってくれることを。愛しているわ。……貴方」


 そう言って、シャーディッヒは等々涙を流しながら自身の腹部にナイフを突き刺した。


 「――うっ!」


 「なっ!」


 シャーディッヒは呻き声を上げると、イエスは驚愕し、すぐさまシャーディッヒの元に駆け寄る。


 横たわるシャーディッヒを()(かか)えながら懸命に声を掛けるイエス。


 そして、騒がしい神座(かむくら)の間で何があったのか気になった一般兵が神座(かむくら)の間に入り、それに気付いたイエスはすぐに医療班を呼ぶよう要請する。


 医務室で手術を受けたシャーディッヒは幸いな事に致命傷ではなく、何とか一命をとりとめた。


 その報告を待合室で聞いたイエスは()(ずい)したかのように、腰から崩れ落ち、イエスも療養が必要な状態に迫られた。


 心労が絶えなかったイエスには致し方ない事だった。


 だが、休んではいられず、イエスは、シャーディッヒが起きた時に傍に居てやりたい、と思い、シャーディッヒが寝ているベットの横で辛抱強く起きるのを待った。


 「イエス様。あまり無理をなされてはまた倒れてしまいます。ここは私が見ているので、イエス様も少しお休み下さい」


 バロックはイエスを憂慮し、休んでもらうため、根気強く説得する。


 「……そう言う訳にはいかない。シャーディッヒは本気で私の心に寄り添ってくれた。そんな愛しき妻が自らの手で終止符を打とうとしたと言うのに、その私がシャーディッヒの傍に居てやらなくて、どうやってシャーディッヒの気持ちに寄り添えと言うのだ。今の私にはこれぐらいしかしてやれない。せめてもの償いだ」


 心ここにあらず、と言う様子で魂が抜けたみたいな表情でイエスは消沈していた。


 バロックは居た堪れない思いだった。


 そんなバロックが出来る事は、二人を見守り続ける事ぐらいしか出来なかった。


 少なくとも、シャーディッヒが目を覚ますまで、イエスの心に巣食う悲しみは消える事は無い。


 そして半日が経ち、朝日が昇った時だった。


 外では小鳥の鳴き声がしていた。


 窓から入る日差しに当てられたシャーディッヒはゆっくりと目を空ける。


 「――おお、シャーディッヒよ! 目が覚めたか⁉」


 「……貴方、ここは、……地獄?」


 狼狽(うろた)えながらもシャーディッヒの安否を気に掛けるイエスに対し、シャーディッヒはうなされながら地獄かどうか訊ねてくる。


 「いや、ここは(てん)使()(かい)だ。お前も私もまだ生きている。安心しろ。どこにいても必ずお前の隣には私が居る。だが、あんな真似は二度としないでくれ」


 泣きながら懇願するイエス。


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