18章 散りゆく花 8話
そして、再び時は戻り、シャーディッヒが自身の腹部にナイフを突き刺そうと構えを取っていた。
「落ち着くのだ。安心しろ。私が付いている」
逼迫した表情で宥めながらゆっくりとシャーディッヒに近付くイエス。
しかし……。
「貴方なら私の気持ちに応えてくれるわよね。私は信じてる。貴方が私の後を追ってくれることを。愛しているわ。……貴方」
そう言って、シャーディッヒは等々涙を流しながら自身の腹部にナイフを突き刺した。
「――うっ!」
「なっ!」
シャーディッヒは呻き声を上げると、イエスは驚愕し、すぐさまシャーディッヒの元に駆け寄る。
横たわるシャーディッヒを抱き抱えながら懸命に声を掛けるイエス。
そして、騒がしい神座の間で何があったのか気になった一般兵が神座の間に入り、それに気付いたイエスはすぐに医療班を呼ぶよう要請する。
医務室で手術を受けたシャーディッヒは幸いな事に致命傷ではなく、何とか一命をとりとめた。
その報告を待合室で聞いたイエスは不随したかのように、腰から崩れ落ち、イエスも療養が必要な状態に迫られた。
心労が絶えなかったイエスには致し方ない事だった。
だが、休んではいられず、イエスは、シャーディッヒが起きた時に傍に居てやりたい、と思い、シャーディッヒが寝ているベットの横で辛抱強く起きるのを待った。
「イエス様。あまり無理をなされてはまた倒れてしまいます。ここは私が見ているので、イエス様も少しお休み下さい」
バロックはイエスを憂慮し、休んでもらうため、根気強く説得する。
「……そう言う訳にはいかない。シャーディッヒは本気で私の心に寄り添ってくれた。そんな愛しき妻が自らの手で終止符を打とうとしたと言うのに、その私がシャーディッヒの傍に居てやらなくて、どうやってシャーディッヒの気持ちに寄り添えと言うのだ。今の私にはこれぐらいしかしてやれない。せめてもの償いだ」
心ここにあらず、と言う様子で魂が抜けたみたいな表情でイエスは消沈していた。
バロックは居た堪れない思いだった。
そんなバロックが出来る事は、二人を見守り続ける事ぐらいしか出来なかった。
少なくとも、シャーディッヒが目を覚ますまで、イエスの心に巣食う悲しみは消える事は無い。
そして半日が経ち、朝日が昇った時だった。
外では小鳥の鳴き声がしていた。
窓から入る日差しに当てられたシャーディッヒはゆっくりと目を空ける。
「――おお、シャーディッヒよ! 目が覚めたか⁉」
「……貴方、ここは、……地獄?」
狼狽えながらもシャーディッヒの安否を気に掛けるイエスに対し、シャーディッヒはうなされながら地獄かどうか訊ねてくる。
「いや、ここは天使界だ。お前も私もまだ生きている。安心しろ。どこにいても必ずお前の隣には私が居る。だが、あんな真似は二度としないでくれ」
泣きながら懇願するイエス。




