18章 散りゆく花 7話
夕方、シャーディッヒはユエルの元に訪れていた。
気分転換に馬小屋に行き、馬を撫でながらシャーディッヒは儚げな瞳をしていた。
「どうなされました? いつも以上に悲しんでおられるように思えますが」
ユエルはシャーディッヒを気に掛けるが、内心、手練手管とした結果だ、と心の中でニヤついていた。
「実はね、ニイナにこんな事を言われたの」
シャーディッヒは浮かない表情のまま、ニイナとの会話を詳細にユエルに伝えた。
「……なるほど。ニイナ様の言っておられる事も最もだと思います」
神妙な面持ちで頷くユエル。
「でしょ! だから私、どうしたらいいのか分からなくて。あの人の幸福を優先してしまっていいのか……」
シャーディッヒはどんどん悄然としていく。
だがユエルは、俯くシャーディッヒを見ては薄ら笑う。
「しかし、やはり大事なのは個人の意思の尊重です。どれだけ責務に苛まれてもそれを続行していけば、間違いなく、その人の心は摩耗するでしょう。なのでシャーディッヒ様もどうか見極めて下さい。イエス様もまた心をお持ちなのです。その人の幸福が何よりの宝なのですから。何も恐れる事はありません」
臆面もなく、むしろ清々しく言い切ったユエル。
その言葉に重みを感じたシャーディッヒは、増々心で嘆き他人に助けを求めてしまいそうになってしまう。
そんな苦悶に満ちた表情が隠し切れないまま、ユエルの元を去ったシャーディッヒだった。
その日の夜、シャーディッヒは自問自答し続けていた。
本当にイエスが地獄に落ちる事で、イエスは幸福で満たされるのか? と。
思考が乱雑し、どう答えを出したらいいのか分からないシャーディッヒはとんでもない決断をした。
この時のシャーディッヒは自暴自棄のような感覚だった。
「おお、シャーディッヒよ。どうしたのだ?」
イエスが居る神座の間にやってきたシャーディッヒ。
浮かない表所をしていたため、酷く気に掛けるイエス。
だが、そんなシャーディッヒの手には……ナイフが握られていた。
その異変に気付いたイエスは狼狽えだす。
「――待つのだシャーディッヒよ。……そのナイフを私に渡すのだ」
イエスは酷く動揺しながらシャーディッヒに元に近付いていく。
一歩、また一歩と近付く度に心臓の鼓動が早まっていくのを感じるイエス。
「……ごめんなさい貴方。わたし、もう……どうしたらいいのか分からないの」
シャーディッヒは瞳を潤わせながら切羽詰まった表情をしていた。
そこから時が遡り、ユエルとスザクの密談にまで話は戻る。
「段取りと呼べない程、簡単なものですよ。スザク様。貴方はシャーディッヒの剣の稽古相手です。なのでその時にでも隙あらばシャーディッヒを殺そうとしてください」
ユエルは優美に喋りながら物騒な事を口にする。
「そんた神達の面前でシャーディッヒを殺してしまえば、私の首が飛びかねないぞ」
ユエルの案に不満があるスザクはその場で憤りを感じていた。
「殺せではなく、自害すればいいのです。その場には私も居ますから、上手く神に取り繕い、傷でも追わせたシャーディッヒに私が医務室にでも付き添い、そこからシャーディッヒに私の話に興じてもらうようします」
ユエルは涼しげに語る。
「そう上手く謀略が成立するか? 流石に安直すぎないか?」
スザクは納得がいかず、落ち着きがない様子だった。
「ご安心ください。先程も言いましたが愛とは貪欲で利己的なもの。だからこそ付け入る隙があります。付くのに盤石なものでなくても良いのです。イエスの心労の原因を捏造し、シャーディッヒ自ら地獄に行ってもらいましょう。つまり最終的には私がシャーディッヒを自害するように促します」
不敵な笑みで歓喜を込めた声音でそう言い切るユエル。




