18章 散りゆく花 6話
日夜空け、イエスはバロックとニイナ、アランバを神座の前に召集させ、昨晩の会話の内容を伝えると、シャーディッヒを気にかけて欲しい、と切願した。
三人共快諾し、イエスとシャーディッヒの身を案じていた。
杞憂となれば良いのだが、この時、シャーディッヒに魔の手が迫る事を誰も知らない。
その日の午後、シャーディッヒはニイナとお茶会をしていた。
二人は他愛のない話で盛り上がっていた。
「そうかい。あいつはそこまで真摯にファルシオンの製作に加担してたんだね」
「ええ。アランバには感謝してもしきれないわ」
アランバがファルシオンの製作に一助してくれた事の話になると、何故か不機嫌になり始めたニイナ。
そんなニイナの表情から何も察せないシャーディッヒは笑顔でアランバに労いの言葉を口にする。
一体、何に対してニイナは不機嫌なのか?
「あいつが教えている間、あんたを口説いたり、厭らしい目で見てたりしてないだろうね?」
ニイナが不機嫌な理由は、二人きりで秘密裏に製作し、仲睦まじい間柄でいたのでは? と言う疑念があったためだった。
「え? アランバが? そんな事ある訳ないじゃない。自分の旦那さんを信じてあげて。貴方達はお似合いのカップルよ。私が保証するわ」
シャーディッヒは軽くウインクしながら誇らし気に語る。
「んー。私はやっぱり不安だよ。あいつ私に隠れてブルンデの位置が記されている地図を独占しようとしている節があるんだ。イエスから託された物を共同で管理するはずなんだが、どうにも妖しくてね。妖しい点が一つでも浮かぶと他の事にも私の中では影響を与える。だから夫婦で一番あってはならない浮気が嫌でも脳裏を過るのさ」
ニイナは浮かない顔でカリュバーナを一気飲みする。
「神聖のブルンデ以上に大切な物があるって事は、凄いロマンチックな気がするわ。むしろその不安は大事な物よ。だからこれからも大変でしょうけど、疑いの気持ちと信じる気持ちを兼備したままいればいいと思うわ。この前も言ったでしょ、夫婦でいるのに大切なのは根気と断交しないことだって」
「まあ、それもそうだね。仕方ない。私も腹をくくるか」
根気よく説明するシャーディッヒに渋々納得したかのように頷くニイナ。
ニイナは思った以上に純情な女性なのかもしれない。
すると、シャーディッヒはどこか暗い面持ちになる。
最近は話していると、ふとイエスの事ばかり考え、地獄に落ちた方が幸せになれるのでは、と思ってしまう。
だが、それをイエスに拒まれ、どうしたらいいのか分からず、唐突に思い悩んでしまうのだ。
「何だい。悩み事かい?」
シャーディッヒの様子から何か悩んでいる事を察したニイナは、率直に聞いてみる。
「……ねえニイナ。もしも、もしもよ。アランバが責務に囚われていて、地獄に落ちないと幸せになれないと知ったら、貴方ならどうするかしら?」
浮かない表情でそう聞いてくるシャーディッヒ。
事前にイエスから詳細を聞かされていたニイナは特に動揺はしなかったが、いざ相談に乗ってあげるためにはどう言って良いのか悩んでしまう。
「……そうだねえ。あたしなら……。尻をひっぱたくね」
「――えっ! お尻を叩く⁉ どういう事?」
神妙な面持ちで思考を張り巡らせたニイナが出した結論に驚愕するシャーディッヒ。
「考えてもみなよ。責務があるって事は重要な案件を任されているって事さ。要はそいつにしか出来ないのさ。そんな責務を放棄したら残された奴が嘆いちまう。だから任されたなら最後までやらせて、出来なくなったら気合を入れさせる。きつい仕打ちだろうけど、責務ってのはそう言うもんさ。だからあいつの隣には私が居るし、イエスの隣にはあんたが居る。まあ、アランバの奴に責務があったらあいつはその日の内に投げ捨てるだろうがね。イヒヒヒヒ」
真剣な面持ちで語りながら最後は諧謔した言葉で場を和ませるニイナ。
「……大丈夫よ。アランバは……逃げないわ」
シャーディッヒは責務に対しての重要性に痛感される程気付かせられ、思わず泣いてしまう。
泣いてもアランバを気にかける事を怠らない。
そんなシャーディッヒの元に歩み寄り、肩を優しく叩き頭を撫でるニイナ。
こうしてお茶会は終わったのだった。




