18章 散りゆく花 2話
その日の内に、イエスの元にある信じられない一報がアランバから知らされる。
「なんだと! シャーディッヒがスザクと再戦! しかも真剣での!」
イエスは神座から立ち上がり驚愕する。
「はい。私も耳を疑いましたが、シャーディッヒ様は本気のようで、今は剣の稽古に専念されております。試合開始日は一カ月後に日時を合わせて欲しいと」
アランバも説明しながら少し動揺していた。
「……何という事だ」
イエスは座ると塞ぎ込むような表情になる。
「イエス様。心労をお察ししますが、私は……賛成です」
「なんだと! 正気かアランバ⁉」
アランバは真剣な面持ちで答えるが、イエスは酷く動揺していた。
「諸事情や機密があるかはわかりませんが、イエス様にある事を伝えたいと仰っていました。そのためには、イエス様の前でスザクにリターンマッチをし勝利する事が絶対条件だ、と」
「それならばレプリカの剣で済む話だ。わざわざ真剣を使用する事はない」
アランバはシャーディッヒから事情を詳細に聞いていたが、出来るだけ隠し、真摯に説明するが、イエスは納得がいかなかった。
「シャーディッヒ様はこうも仰っていました。大切な物を送りたい、と。恐らくその物の値千金になるには『真剣でなければ』と言う意味合いがあるかもしれません」
「……ふぅー。 ……わかった」
アランバのひたむきな説明に、重々しく頷いたイエス。
こうして一カ月後、真剣による、シャーディッヒとスザクの一騎打ちが決定した。
だが、事も有ろう事か、シャーディッヒの稽古の相手はユエルだった。
シャーディッヒが直々に指名したらしい。
広場でレプリカを使用して稽古に励むシャーディッヒ。
ユエルも動きやすいようラフな格好をしていた。
「はあ、はあ、強いわねユエルは」
一度、剣を止めシャーディッヒとユエルは雑談をしていた。
肩から息を切らしながらシャーディッヒはユエルを称賛する。
「いえいえ、私もまだ剣の道は道半ばでして。不出来なものです」
涼やかな表情で、まだ余裕がある感じのユエル。
「謙遜しないでよ。フフッ」
シャーディッヒはそんなユエルを微笑する。
「それにしてもシャーディッヒ様も無茶をなさいますね。スザク様も幹部なだけあって剣の腕は確かです。そんな相手に真剣で挑むなど」
ユエルは淡々と喋る。
「良いのよ。私の贈呈する物は真剣で勝ってこそ価値があるんだから」
笑みを浮かべ、後悔など微塵も感じられないシャーディッヒ。
「流石ですね。イエス様の妃と言われる所以も、その確固たる矜持があればこそかもしれません」
そんなシャーディッヒを尊敬して止まないような振る舞いをするユエル。
さながら執事のようなお辞儀の仕方。
「そんな事ないわ。私は……ただ」
急に歯切れが悪くなったシャーディッヒに、ユエルは何故か見えない所で薄ら笑う。
「もしや、例の事でまだ踏ん切りがついていないのですか?」
「……ええ」
ユエルはシャーディッヒの顔色を伺うように聞くと、シャーディッヒは暗い表情で頷く。
そんな消沈しているようなシャーディッヒは、ユエルに取って絶好のカモだった。
今なら何を言ってもシャーディッヒの心を意のままに操れるような優越感に思わず浸りそうな気がしてくるような。
「シャーディッヒ様。例え地獄に落ちても悔恨する事などありません。神であれ誰であれ、心は自由であるべきです。イエス様の心を解き放てるのはシャーディッヒ様だけ。そんな裁量権をお持ちの方の指向に誤りなどありません。どうかスザク様に挑む矜持同様、イエス様にもその羅津の針を向けて下さい。必ずや、イエス様は貴方にどんな形であれ報いてくれます」
優美に喋るユエル。
「心を解き放つ……私の気持ちに報いる……「
シャーディッヒは俯きながら、ぼやくようにユエルの言葉を抜粋でもするかのような反応だった。
ユエルはそんなシャーディッヒを見て不敵な笑みを浮かべる。
このままではシャーディッヒは誤った選択をするかもしれない。




