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電子書籍化決定 地獄劇  作者: ラツィオ
180/197

17章 かつての天使界 9話

 その日の午後。


 シャーディッヒはアランバの鍛冶屋に訪れていた。


 中からはカーンカーン、と鉄を叩く音が聞こえてくる。


 炉や()(ゆか)や鉄が乱雑に積み上げられていたり、辺りには西洋の剣や、槍が飾られていたりしていた。


 「おお、どうなされましたシャーディッヒ様。こんな暑苦しい鍛冶屋に、一体何用で?」


 アランバは作業中の手を止め、シャーディッヒの元に駆け寄る。


 「突然ごめんなさい。実はアランバに折り入って頼みたい事があるの」


 「ええ。私でよければ何なりとお申し付け下さいませ」


 シャーディッヒはどこか焦っている様子だったが、アランバはそれ程、自分にどうしても頼みたい事がある、と思っていたのか、憂慮した面持ちで答える。


 「あのね。イエス様のために剣を作りたいの。それで貴方に作り方を教えて欲しいの」


 「おお。それはまた斬新なプレゼントですね。イエス様は剣の腕は卓越されていますからね。シャーディッヒ様ならイエス様に相応しい剣を製作出来ますよ。喜んでお引き受けします」


 シャーディッヒが落ち着いて要望すると、アランバは(こころよ)く引き受けてくれた。


 「で、どのような剣をお作りになさります?」


 「私、ファルシオンが作りたいのよ」


 アランバの質問に事前に考えておいた案を滑らかに喋るシャーディッヒ。


 「良いですな。格好いい形状ですし、イエス様にピッタリです。早速取り掛かりましょう」


 アランバは笑みを浮かばせシャーディッヒを椅子に座らせると、ファルシオンの鍛造の工程をレクチャーする。


 しかし、始めたなだけあって、一夕一朝では上手くいかず。その日は上手く作れず断念した。


 その日の夜、シャーディッヒは思い悩んでいたと言うより、焦っていた。


 鉄を伸ばすのもままならず、ましてやユエルに地獄に落ちれば、イエスの束縛が解放される、とまで言われれば居ても立っても居られなかった。


 なのでせめて、イエスが今の責務を食傷しているのか? 確かめるために、シャーディッヒはイエスの元に向かう。


 通路を歩いている途中で、バロックとニイナに遭遇したシャーディッヒ。


 「おや、シャーディッヒ様。これからどちらに?」


 バロックが陽気に語り掛けてくれる。


 「イエス様の所に向かおうと思って、あの人は今寝室かしら?」


 首を傾げるシャーディッヒ。


 すると、ニイナが急にニヤニヤし始めた。


 「ん~、最初にその言葉が出るって事は、あんた、今日の夜、期待してるね」


 ウキウキ気分で夫婦の間柄を弄るニイナ。


 「そんな事ないわ。あの人は毎日私の期待以上の期待に応えてくれるわ。朝から晩までね」


 とぼける訳でもなく、理解していないでもなく、ありのままを口にするシャーディッヒに面を食らうニイナ。


 「……こりゃ急がないとね」


 ニイナは眉を顰め、顔を斜め下に向けながらぼそりと呟く。


 シャーディッヒはどう言う意味で口にしたかは分からないが、少なくともニイナは毎晩、イエスとシャーディッヒが、あんな事や、そんな事までしている、と解釈してしまい、アランバとの子作りを急いで決行せねば、と思ってしまう。


 バロックは、ニイナが何を考えているか察しが付き深いため息を吐くが、シャーディッヒは何を落ち込んでいるのか分からずキョトンとした表情だった。


 「イエス様なら(しん)(こう)(じゅ)(じゅ)に精を出されております。今も聖堂に居ると思いますが」


 バロックは気持ちを切り替え、嘘偽りなく喋る。


 「そうなの。ありがと。じゃあ私はこれで」


 シャーディッヒは笑顔でその場を去ろうとする。


 少し離れると何かを思い出したかのように、、後ろに居るバロックとニイナに振り向く。


 「そうだニイナ。夫婦円満の秘訣は根気と断交しない事よ。身を寄せ合い続けていれば必ず転機は訪れるわ」


 シャーディッヒは語気を強め笑顔で喋る。


 「ああ。ありがとね。あんたらより先に私が立派な子供を孕んでみせるよ」


 ニイナも語気を強めシャーディッヒに宣戦布告? をする。


 「ええ。楽しみにしてるわ」


 シャーディッヒは気圧されない所か、素晴らしい事、だと思い、満面の笑みで答え、去って行った。


 「お前な、(てん)使()(せい)(かい)と言う神聖の場所で何を言っているんだ」


 バロックは呆れながらジト目をニイナに向ける。


 「別にかまやしないだろ。神聖な場所だろうが()(だく)された場所だろうが、生きる者は結局の所、伴侶とはお盛んでいたいもんさ。と言うより信念の原点だね。イッヒヒヒヒ」


 ニイナが全力を込めた欲の表現をし、奇天烈(きてれつ)に笑う。


 バロックは、これ以上言っても無駄だと思い、アランバの身を案じる事しか出来なかった。


ここまでお読み頂き、評価して下さった読者の皆様方、本当にありがとうございます。

17章「かつての天使界」はここで終わります。

次章からも是非ご一読ください。

よろしければ感想など書いて頂くと幸いです。

よろしくお願いします。

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