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電子書籍化決定 地獄劇  作者: ラツィオ
121/197

12章 危険な存在 6話

  「この野郎!」


 パーラインとヨシュアが()られた事により、ジェイルは憤りを感じながらティラレンの足を払いのけ、立ち上がり、ティラレンに果敢に向かって行く。


 殴り飛ばそう、と振るった拳は華麗に(かわ)され、そのタイミングで膝で腹部を強く蹴られるジェイル。


 「うっっ!」


 蹴られた腹部を両手で押さえ、ジェイルは足腰が崩れ落ちそうになる快楽を耐える。


 すると、ティラレンは双剣の一本の握っているグリップの指を少し崩すと、ジェイルの額にその人差し指を当て、強く突き飛ばす。


 石積みの家の壁際にまで突き飛ばされたジェイルは、呻き声を上げ、快楽に耐えながら苦悶の表情でティラレンに視線を向ける。


 「いい加減に剣を抜いたら? 貴方のお友達が無残な残骸に成り果てたと言うのに、まだ()()()を貼ってるの?」


 やや呆れながら口にするティラレン。


 「お前には分からないかもしれないけどな、理想や信念を背負ってでも、貼らなきゃいけない意地ってもんがある。俺は必ず、それを抱えてこの剣を振るう」


 ジェイルのその姿勢は正に不屈の闘志。


 それを目にしたティラレンは、まるで嫉妬したかのように、不機嫌な表情になる。


 「貴方の理想はベルマンテを救い、あの二人と共にこの私から逃れる事。でも貴方が言うその信念と意地とやらは何かしら? その重荷は私との死闘以上の価値があるとでも言うの?」


 髪をなびかせながら、優美に語るティラレン。


 ジェイルはそれを聞くと、鼻で笑い、立ち上がる。


 「当たり前だ。俺はそのために望んで屍となった。お前の歪んだ(きょう)()と一緒にするな」


 鋭い眼差しをティラレンに向けるジェイル。


 すると、ティラレンは今までにない程、瞳の色がどす黒く変色する。


 ティラレンは両腕を下げながら、ジェイルを今まで以上に獲物と認識しているような様相で立っている。


 そして、ティラレンが鼻で笑う。


 鼻で笑ったティラレンの雰囲気が先程以上に幾分かは落ち着きを取り戻していた。


 どうやら、ジェイルの挑発とも思える言葉に苛立つ自分に気付き、落ち着きを取り戻そうとしていたようだ。


 ふとティラレンは双剣の一本を投げ付けてきた。


 投げ付けられた一本の双剣は、ジェイルの横の石積みの家に突き刺さる。


 ジェイルは驚きながらその剣に振り向く。


 「気付いてあげられなくてごめんなさいね。流石に徒手空拳に対して私だけが武器を持つのは不公平よね。でも許してちょうだい。見ての通り私、まだ幼いの」


 優雅に語るティラレンの表情はどこか相手を弄ぶような、妖艶な笑みを浮かべていた。


 それを聞いたジェイルは怒るでもなければ動揺するわけでもなく、ただ呆れていた。


 その相手はティラレンでもあり、自分自身でもあった。


 ジェイルは石積みの家に突き刺さっている剣のグリップを握り力強く抜き取る。


 そして、そのままズカズカとティラレンの所に向かって行くジェイル。


 既にジェイルの目には闘士や恐怖など()(じん)も感じられなくなっていた。


 無防備なジェイルに対し、この時初めてティラレンは警戒し、(いぶか)しい目を向ける。


 一体どんな作戦なのか、と。


 ティラレンの前で止まると、ジェイルは刀身を摘まみ、グリップの部分をティラレンに向け渡そうとしてきた。


 「何のつもり? 敵の恩情は護身にならないとでも言うの?」


 腑に落ちない表情で不機嫌になるティラレン。


 この時のティラレンなら、容易にジェイルの首を落とすぐらいの技量はあったが、何故か手を下せずにいた。今殺せば敗北するような気がする、と思っていたからだ。


 「刃物の渡し方ぐらい身に付けとけ。幼くてもこれぐらいは常識だぞ」


 ジェイルが呆れながら語る理由は、子供相手にムキになっていた自分と、まるで常識を身に付けていない()()(てき)なティラレンに対してのものだった。


 こんな事でムキになり、意地を張っていた自分が馬鹿らしく思ったジェイル。


 ティラレンは呆気に取られていた。


 正か自分が常識を諭される日が来るとは思わなかったのだ。


 そもそも、ティラレンは常識と言う概念が無かったのかもしれない。


 ジェイルの対応に憤りを感じた訳でもなければ、自らを非難しているわけでもない。


 心に小さな針が通ったかのような、奇抜な感覚。


 「ふっ、フフフフッ」


 妙に気分が向上していたティラレンは、その場で必死に笑いを堪える。


 そんなティラレンに(いぶか)しい目を向けるジェイル。


 笑い終えると、ティラレンは妖艶な笑みを浮かべながら自分の顔を密着させるギリギリまでジェイルの頬に近付ける。


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