12章 危険な存在 5話
ヨシュアとパーラインが助力してくれた事によりジェイルに微かな希望の光が見え始めてきた。
「フフッ、フフフフッ、良いわ。貴方達全員を千切り、貪り、血肉に飢える私の糧としてあげる」
そして、妖しい瞳を向けてきたティラレン。
「――もしかして、ティラレン・ファリアか?」
ヨシュアが、ふと何かを思い出したかのようなギョっとした表情になる。
「知ってるのか?」
「ああ、リンダルトじゃ、相手の四肢を斬り落としたり、心臓を抉り取るなどする快楽殺人鬼だ。彼女はその美貌とは裏腹の正に羅刹なんだよ。」
背筋から冷や汗をかきながら説明するヨシュア。
納得したジェイルは恐怖で身の毛がよだつのを感じてしまう。
すると、ティラレンは妖艶に微笑みながら自分の舌を軽く伸ばし、手にしている一本の刃を当てる。
三人共、ギョっとした視線をティラレンに向ける。
そして、ティラレンは自分の舌を剣で愛おしく撫でるように斬っていく。
ティラレンの舌から血が垂れ流れる。そして次の瞬間、ティラレンは黒い土煙と化し、地面に沈むように消える。
そして、三人に向かいダークファントムで黒い砂塵と化し、砂利道を滑走する。
そのスピードはジェイルが使うダークファントムよりも早く、滑走してくる黒い砂塵は禍々しい形状をしていた。
不意の出来事にパーラインとヨシュアは狼狽する。
しかし、ジェイルはティラレンがダークファントムを扱うと予想していた。
狼狽する二人の前に出て、ジェイルは両手を広げ仁王立ちする。
「来い!」
二人を守ろうと恐怖を振り払い奮起するジェイル。
しかし、ティラレンのダークファントムはジェイルの股の下を潜り抜けた。
そして、パーラインの背後に回り込み、突然顕現したティラレンはパーラインの背中を双剣で斬る。
「きゃああ!」
「パーライン!」
それに一早く気付いたヨシュアはパーラインが傷つけられた事に憤怒し、血相を変え、ティラレンを押さえつけようと、我が身を顧みず強襲する。
ティラレンは身体を一回転させヨシュアが近づいてくるタイミングを見計らい顔面に回し蹴りを入れる。
「うっ!」
ヨシュアはジェイルの横を通り過ぎ、七メートル先まで蹴り飛ばされた。
ティラレンはパーラインを斬ってもヨシュアに襲い掛かれようと、泰然としていた。
ティラレンにとっては相手を傷つける事も襲われる事も日常茶飯事。
そんな印象を垣間見たジェイル。
ジェイルは二人が蹲るのを見て、怒りが込み上がり、ティラレンを殴り掛かりに行く。
ジェイルは拳を何度も振るうがティラレンは涼し気な表情で右や左へと少し身体を逸らして、ギリギリで躱していく
そこで、ふと妖艶に微笑んだティラレンはジェイルの腹部を強く蹴る。
5メートル先まで蹴り飛ばされ、仰向けで腹部を抑え快楽に耐えるジェイル。
ティラレンはジェイルが体制を立て直す前に走って距離を詰め、仰向けで倒れているジェイルの腹部を踏みつける。
「そうよ。もっと善がりなさい! もっと恐怖なさい! その矛盾はこの地獄の根源と象徴よ! 過去の私と決別し今の私をたらしめる至高の世界!」
「うっ! あっ! あっ!」
瞳孔をどす黒く鈍く輝かせ、狂ったような笑みで、苦しみながら喘ぐジェイルを見下ろしながら何度も強く踏みつけるティラレン。
「そこまでだ!」
ヨシュアは隠し持っていたピストルの銃口をティラレンに向けていた。
「あら、何か用かしら。脆弱な肉の塊さん」
ジェイルの腹部を足で押さえつけながら嘲笑うようにヨシュアを見つめるティラレン。
ピストルを握るヨシュアの手はどことなく震えていた。
「さあ、貴方の信念が試される時よ。それともその信念も脆弱な物なのかしら?」
ヨシュアを煽るティラレン。
そして、数秒、時が経つにつれ場の空気の重さが更に増していく。
ヨシュアは額からは冷や汗を流す一方だった。
突如、強風がその場に居る全員に襲い掛かる。
――その刹那。
――ドン!
一発の銃声が鳴り響く。
しかし、その銃声はヨシュアのピストルからではなく、パーラインが握っているピストルからだった。
だが驚くことに、ティラレンはまるでそれが見えていたかのように、向かってきた銃弾を双剣の一本の剣脊で弾いた。
その弾かれた銃弾はパーラインの額に当たった。
何が起きたか知る由も無くパーラインは仰向けに倒れ込む。
予知していても不可能な巧手を軽々とやってのけたティラレン。
「ティラレン! よくも!」
ヨシュアの瞳から放たれる殺意と共にその握っているピストルの銃口から火花が噴き出す。
――ドン!
ティラレンの額に向け放たれた一発の弾丸。
しかし、それもまた先程と同じように剣脊で弾かれる。
その弾かれた弾丸はヨシュアの額に当たり、声を出す間も無く、ヨシュアは絶命し、仰向けに倒れた。




