12章 危険な存在 4話
そこでティラレンが妖艶な笑みを浮かべる。
「それにしても、貴方もダークファントムで瞬時に移動できるのね」
それを聞いたジェイルは一瞬、驚く。
「――お前もダークファントムが使えるのか?」
神経を研ぎ澄ませながら、ティラレンを警戒するジェイル。
ティラレンはジェイルの居る方へ回り込もうとゆっくりと歩き出す。
ジェイルはティラレンに近づくのは危険と判断しティラレンとは逆方向へと同じペースで歩き出す。
「あれは、快楽に抗う者だけが扱える、地獄の恩恵。まあ、誰がどんな目的でその恩恵を与えたかなんて事は私としてはどうでもいい。ただ相手を殺す刃がもう一つストックされただけ」
ティラレンが鷹揚な声で喋りながらテーブルを半周すると、互いにその場で足を止める。
「だからねジェイル。ダークファントムは逃走のためにあるんじゃないの。‥‥‥殺すためよ」
最後に、なまめかしい口調で喋るティラレンにジェイルは背筋に悪寒がゾッと走る。
これから家中が自分の血で染め上げられるんじゃないか、と思うような恐怖が、錯覚としてジェイルの脳裏を過る。
そして、ティラレンは不敵な笑みを浮かべ自分の首元に刃を向ける。
人が悪魔と契約し、持ちえない闇と一体でもしない限り出来ない言動。
嫌な予感しか感じなかったジェイルは死に物狂いで、ティラレンの自傷行為を止めるため、目の前にあるテーブルをティラレンに向け両手で力強く押した。
しかし、ティラレンはそれを難なく片足で止める。
ジェイルは身体をプルプル震わせながら必死になってテーブルを押し続ける。
しかし、ティラレンは涼しげな表情で両腕を下げ微動だにしない。
テーブルはピタリと止められ、ジェイルにはそれ以上、成す術が無かった。
「その直感は評価してあげる。確かに私はダークファントムを使おうとした。けど、私との力量を図れなかった事は減点。それと差し引いて及第点といった所かしら」
ティラレンはニヤリと笑みを浮かばせ片足で止めている足でテーブルを押し返し、ジェイルはテーブルと共に壁際まで蹴り飛ばされた。
「うっ! クソッ!」
壁際で倒れているジェイルに妖艶な笑みを浮かばせゆっくりと近づいてくるティラレン。
ジェイルは急いで立ち上がり先程、壊された壁からそそくさと出ていく。
「あいつはマジでヤバイ!」
ジェイルは外に出て家から離れるなり、肩から息を切らしてティラレンの脅威に悩まされ、圧倒されていた。
やはり武器も無しではティラレンに勝てる戦端すら見つからない。
仮に武器があったとしても、勝てるイメージが浮かばなかった。
あれこれ考えている内に、家の壊れた壁からティラレンの影を視認したジェイル。
思わず生唾を飲み込み後ろに一歩引く。
万事休すかと思ったその時――。
「ジェイル!」
「ここに居たのか!」
なんと横の道からパーラインとヨシュアが声を上げジェイルの元にまで逼迫した表情で走ってきた。
パーラインの服装がトレジャーハンターのような衣装に変わっていた。
「お前ら! どうしたんだ⁉」
何故あそこまで逼迫しているのか疑問に思ったジェイル。
「貴方、ガーウェンを見なかった⁉」
そしてジェイルの元にまで辿り着いたパーラインは息を切らしながらガーウェンについて尋ねてきた。
「いや、見てない。と言うか俺も探そうとしてたんだけど‥‥‥」
ジェイルは言葉の最後を言おうとした時、ゆっくりと自分の元に近付こうとしているティラレンに、おどおどした目を向ける。
「ジェイル。今貴方にとって優先すべきは私との相殺と言う名の相愛。それともベルマンテの住民よりその二人を選ぶと解釈して良いのかしら?」
不敵な笑みで殺意を漂わせてくるティラレンにパーラインとヨシュアはただならぬ物を感じ、警戒態勢に入る。
ジェイルを含め三人は横に並び立ち、ティラレンから目を離さずにいた。
「何? この女?」
由々(ゆゆ)しく思ったパーラインはティラレンに敵意を向け、剣を抜き、構える。
「事情は後で説明する。それより力を貸してくれ」
「ああ、分かった」
ジェイルの協力の要請に二つ返事で答えるヨシュア。
パーラインもそうだが、ヨシュアもしばらく見ない間に随分と逞しくなっていた。




