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電子書籍化決定 地獄劇  作者: ラツィオ
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12章 危険な存在 3話

 ジェイルは冷や汗を流しながら、女から目を離さずにいた。


 「まさかあれだけの事を言われて、私を女として見るなんて、貴方面白いわね。貴方、名前は何て言うの?」


 ねっとりした視線をジェイルに向ける女。


 「ジェイル・マキナだ」


 ジェイルは躊躇(ためら)わず自分の名を口にする。

 

 「いい名前ね。私はティラレン・ファリア。それじゃあ早速始めましょう。そして奏でて。貴方の(だん)(まつ)()旋律(せんりつ)で私の(しん)(ちゅう)を満たしてちょうだい」


 ゆったりとした声でティラレンがそう言うと瞳孔(どうこう)が黒く禍々しく染まっていく。


 ティラレンから感じる殺意にジェイルは生唾を飲み込む。


 「おおおぅ! ここに良い女が居るじゃねえか!」


 不意に横のボロボロの石積みの家から酔った男が出てきた。


 頬は(こう)(ちょう)し片手には酒瓶を握ってティラレンに近づいていく。


 「たまには女を抱くってのも悪くねえな。 うひひひっ、動くなよカワイ子ちゃん!」


 男は品のかけらも無い下劣な笑みを浮かばせ、フラフラとした足取りで、腰に備えているナイフを抜く。


 そんな男に対しティラレンは(さげす)んだ視線を向け、両手に持っていた双剣をしまい始め、両腕を下げる。


 「おほぅー! 話が分かるじゃねえか。そう、そう、そうやって俺に黙って抱かれれば良いんだよ」


 「おい! やめろ!」


 ジェイルは語気を強め、男を呼び止める。


 しかし、男はジェイルの呼びかけに対し、鼻で笑い徐々にティラレンに近づいて行く。


 だが、この時ジェイルが身を案じていた相手はティラレンではなく男の方だった。


 ティラレンからは殺意が(ただよ)い、男からは死相が見えるのを肌で感じ取っていたジェイル。


 男はジェイルに気遣われている事など気にも留めず、ティラレンに襲い掛かる寸前まで迫る。


 そして、男は下劣な笑みを浮かべたまま、何故かティラレンの横を通り過ぎていく。


 ティラレンはそこで不敵な笑みを浮かばせる。


 ――すると。


 男の首から血飛沫(ちしぶき)が勢いよく吹き出てきた。


 ジェイルは驚き身をすくめる。


 ティラレンは一歩もその場から動かず、いつの間にか片手に握られていた双剣の一本を左斜め上に掲げていた。


 (まばた)きする暇もなく男はティラレンの手によって(けい)(どう)(みゃく)を斬られていた。


 無知で無骨な犯罪者が、殺す術を知り尽くした凶悪犯の手によって狩られたかのような光景がジェイルの目にしっかりと焼きつけられる。


 男は首から血をドクドクと脈打ちながら溢れ出させ、痙攣(けいれん)しながら俯せに倒れた。


 そして、ティラレンはジェイルに向け不敵な笑みを浮かべると同時に、走ってきた。


 まるで男が倒れた事が戦いの開始の合図かのように。


 ジェイルはティラレンの攻撃を()けきる自信が無くクロスした両腕を額の辺りで構え、防御の体制を取った。


 ティラレンは(ちゅう)(ちょ)する事なくジェイルの両腕を斬りつけようと、双剣を振るう。


 目にも止まらぬスピードで双剣を(じゅう)(おう)()(じん)に振るってくるが、防刃コートでその刃はジェイルの肌までには届かなかった。


 しかし刃は届かなくても物理的な打撃は届く。


 そこから快楽が伝わってくるが、我慢できる範囲内だったジェイル。


 すると、ティラレンはジェイルの腹部に軽い蹴りを入れる。


 体制を崩されたジェイルは、身体がよろけてしまう。


 ティラレンは間髪入れずジェイルの頬を双剣で斬り付けた。


 「うっ!」


 斬られ動揺したジェイルは、(とっ)()に頬から伝わる快楽でダークファントムを使い、黒い砂煙と化し滑走する。


 向かった先は先程、男が出てきた石積みの家だった。扉の前でダークファントムを解除し、慌てて中に入る。


 それを見たティラレンは、我が子を(いつく)しむかのように微笑む。


 まるで獲物を(もてあそ)ぶ快楽殺人鬼。


 ジェイルは扉を閉め、扉に背を向けへばり付き、荒い呼吸を立てる。


 「何なんだあの女は!」


 目にも止まらない攻撃に、相手の守りを崩す対処法まで身に着けたティラレンの猛攻に苦闘するジェイル。


 ジェイルは家の中を見回し、四角いテーブルが二つある事に気付き、ちょっとした時間稼ぎをする案が浮かんだ。


 少しでも作戦を立てる時間を(もう)けるため、ジェイルはテーブルの内の一つを押して扉の前に置いた。


 テーブルを力強く前に押さえつけ扉を塞ぐ。


 ジェイルは歯を食いしばりながら(ちん)()(もっ)(こう)する。


 しかし、これと言った腹案が思いつかないジェイル。


 だが、ジェイルがどれだけ力強く扉を塞いでても一向に扉に変化はない。


 もしかしたら諦めたのか? と思ったジェイルはテーブルを押さえつけるのをやめ、冷や汗をかきながら後退る。


 ドカーン! 


 「うわっ!」


 後退っていくと、突如、何の前触れも無くジェイルの後ろの右横の壁が破壊された。


 ジェイルは軽く吹き飛ばされ横転し、視界も何を捕らえているのかも分からなくなった。


 爆風と混ざった土煙が家の中にまで入ってくる。


 「これは警告よジェイル。次も同じ手段で隠れようものなら、ベルマンテは血の海域と化すわよ」


 手榴弾で壁を壊し、家の中で舞う土煙から黒い人影が見えてくる。


 そこからぬらりと姿を現したのはティラレンだった。


 ジェイルは慌ててもう一つのテーブルの奥に急いで移動する。


 ティラレンとの間にテーブルを挟み合う形で両者は止まる。

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