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電子書籍化決定 地獄劇  作者: ラツィオ
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12章 危険な存在 2話

 近くにはボロボロの石積みの家があり、リンダルトの見覚えのある場所に戻って来たことを実感したジェイル。


 そして、ユエルの元に向かおう、と目的を絞っていたジェイルだったが、どうしてもガーウェンの事が気がかりだった。


 (てん)使()(かい)で死んだと言う事は地獄に戻ってきているはずだが、どこを探せば居るのだろうか? と脳裏を過るジェイル。


 リンダルトの要塞を目指し少しでも情報を得よう、と考えを変え、歩き出す。


 「あっひゃっひっひっ! 最高だぜー!」


 「早く殺し合おうぜー! 俺の血肉はこのためにあるんだ!」


 「頼む! 助けてくれぇー!」


 遠くからでもはっきり聞こえる鬼畜な男達の大声。


 狂喜に満ちた咆哮(ほうこう)や、悲鳴を上げ助けを求める声など、既に状況は鬼気迫るものだった。


 ジェイルは、相変わらずとんでもない所だ、と嫌悪感(けんおかん)を抱きながら周囲を警戒する。


 しかし、どこか以前のリンダルトよりも治安が悪い気がしてならない。


 早くこの場から離れるため走って行こうか、と考えたその時――。


 「‥‥‥ちょっといいかしら?」


 ふいに、ジェイルの背後から声が聞こえてきた。


 振り向いたジェイルの先には、女性が居た。


 おっとりとした瞳で、すらっとしたショートヘアの長身の女性。どことなく幼い感じが抜け切れていない顔立ち。二十代前と思われる年齢の可愛く綺麗な女性。


 「‥‥‥あー、悪いけど、今急いでいるんだ」


 ジェイルはその女に思わず見とれ少し動揺してしまう。


 女の気持ちに応えてやろうか、と迷ったがガーウェンと合流したかったジェイルは、目的を優先する事にした。


 「そんな冷たい事言わなくても良いんじゃないかしら。貴方の知人が殺され、優雅な日常は(じゅう)(りん)されるかもしれないのに」


 ジェイルはギョッとしたような顔になり自分の耳を疑った。


 「‥‥‥今何て言った?」


 ただの聞き間違いだ、と疑ったジェイルは不安な面持ちで、もう一度聞いてみる事にした。


 「聞こえなかったかしら? もう一度言うわよ」


 女はそう言うと後ろの腰に隠し持っていた双剣を抜き、ジェイルに一本の切先を向けてくる。


 危険を察知したのか、ジェイルの肩の上に乗っていたコックルが、どこかへ向かって()(しょう)していく。


 「今この場で私の言葉に耳を傾けなければ、ベルマンテの住民を皆殺しにして、この腐敗した世界と運命を共にしてもらうと言ってるの」


 可憐で麗しい容姿とは裏腹の狂気の言葉にジェイルは激しく動揺する。


 「あんた何言ってんだ⁉」


 「さっき貴方が石積みの家から出てくる所を見たの。その裏には(わら)で隠された隠し扉があったわ。少し中を覗いてみたら一目でそこがベルマンテだと分かった。元から平穏な所がリンダルトにあるとは噂されてたから」


 女は髪をなびかせながら、おっとりとした口調でそう言う。


 ジェイルは顔を横に逸らし、周りを警戒しないで外に出てきたのは軽率な行動だったか、と自らを非難する。


 そして、目の前の凶悪な女に恐怖するジェイル。


 「お前、何が目的だ? どうしてベルマンテの人達を殺そうとする?」


 (けい)(がん)の眼差しを女に向けるジェイル。


 「目的なんて無いわ。ただ殺すだけじゃ飽きてきた所なのよ。どれだけ(じゅう)(りん)しても、どれだけ(ぎゃく)(さつ)しても、私の心の乾きが潤う事は無いのよ」


 女は切ない表情で双剣の一本を握ったまま自分の胸に手を当てる。


 「何が言いたいんだ?」


 女の言葉の意味がまるで理解できず、ただ、ただ、質問する事しか出来ないジェイル。


 ただ一つだけわかるのは、あまりにも危険で残忍で()(ぎゃく)な女だ、と言う事だけはジェイルにも伝わっていた。


 「私とゲームをしてもらいたいの。貴方が私を一度でも殺せたら貴方の勝ち。ベルマンテの住民達は見逃してあげる。けど、貴方が私から逃げれば、魂ごと(じゅう)(りん)するわ。」


 女は妖艶(ようえん)な微笑みを浮かばせ、ジェイルから目を離さない。


 もう逃げられない、と思ったジェイルは困惑する気持ちを抑え込み、覚悟を決めた。


 しかし、ジェイルは(じゃ)(しん)の剣を抜くわけにはいかなかった。


 一度でも相手を斬ってしまえば、邪神(じゃしん)の剣の効果はそこで切れてしまい、ユエルを抹消する()(かい)はここで()たれてしまう。


 そこでジェイルが取った行動は‥‥‥。


 「‥‥‥貴方、何のつもり?」


 「見たら分かるだろ。戦闘態勢だ」


 ジェイルは両腕を前に構え、拳を握る。


 それは正にボクシングスタイル。


 女は呆気にとられた表情から、急に鼻で笑い始める。


 「フフフ、貴方の腰に備えているそれは飾りなの?」


 冷笑する女。


 「俺は女を斬る趣味は無いんだよ」


 まさかのジェイルの紳士的な言葉だったが、実際は剣を使わず女を倒す方法が殴る以外、思い浮かばなかったのだ。


 悪く言ってしまえばジェイルの言動は虚勢(きょせい)としか言いようがなかった。


 女を斬る趣味はない、と豪語しているが、一度本気でパーラインを斬ろうとした事は、綺麗さっぱり忘れていたジェイル。


 「私が女? フッ、フフフフッ、アハハハハハッッ!」


 気でも触れたかのように(こう)(しょう)する女。


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