12章 危険な存在 1話
扉を開き、先程ジェイルが目覚めて辿り着いた廊下を歩いて行く。そして、しばらく歩いていると、再び扉があった。
ジェイルは警戒する事なくその扉を開く。
開いた先は、高さや横幅がとてつもなく広い、石で覆われたドーム状の洞窟。
ドーム状の下から上にかけて螺旋を描くようにして石積みの階段が作られていた。
ジェイルが今いる場所はそのドーム状の高さで言うと、中間あたり。
しかも階段の幅も人が横に五人は並んで歩けるぐらいのスペースがある。
そして、下には広場があり、緑の芝生の上で牛や豚や鶏などがいる牧場。色んな種類の色鮮やかな野菜や果物を栽培している農家。更には木造で建てられたワインを作る工場がある。
それらが柵で農家や工場ごとに区切られていた。
周囲の洞窟には至る所に透明なシェードのペンダンライトが取り付けられ、暗い洞窟内を照らす。
ジェイルは階段の欄干に手を付け、全体を見回しながら口を半開きにし、呆然と立っていた。
先程の講堂やホールと言い、地下で作られる規模を超えた人工物に感動し心が揺さぶられるジェイル。
すると、広場の農家に居る中年の男性が笑みを浮かばせ、ジェイルに向け手を振ってきてくれた。
ジェイルは突然の事に驚いたが、それでもぎこちない笑顔で手を振り返す。
地獄に落ちてから現世のような日常の挨拶を交わす事が無くなったジェイルに取って、心が温まるものだったが、長く常識の枠から外れていたせいか、戸惑っていたのだ。
そして、気持ちを切り替え、出口を目指そう、と螺旋状の階段を上がっていく。
上がっていくと一般の家庭で見かけるドアがぽつぽつとあった。
そこはベルマンテに移住した人達が住んでいる家庭。
更に上がっていくと、ドアの前で二人の若い男性と一人の若い女性が笑顔で談笑していた。
それを見たジェイルは、やはり日常的な光景に慣れていないせいか少し緊張してしまう。
「あら、こんにちは」
「元気かい?」
そんな近づいてくるジェイルに対し、気さくに挨拶をしてくるベルマンテの住民達。
「あ、ああ、どうも」
ぎこちなく返事をするジェイルだったが、特に気にする事なく三人は再び談笑する。
三人を横切り歩いて行くジェイル。
当たり前の日常に慣れなくなっていると実感したジェイルは、何故か情けなく思った。
幽界の地では非現実が現実なのだ、と改めて思い、そんな現実に居る自分は正しく生きて入れているのか? と自問自答してしまいそうになる。
ここでの生活はむしろジェイルに取って渇望する程、望んだ世界かもしれない。
しかし、ジェイルは今まで支えてくれ助力してきた人達の想いを無下に出来ずにいた。
何より、自分の父親の仇を取るまで恙無く生きる気はない、と気持ちを奮い立たせる。
いずれ、ベルマンテの人達のような穏やかな生活を手に入れたい、と小さな願いを抱きながら歩くようになっていたジェイル。
「やあ、調子はどう?」
「ああ、悪くないぜ」
ジェイルはたまにすれ違うベルマンテの住民達の挨拶にも不思議と自然に挨拶を交わせるようになった。
ベルマンテの住民達の何気なく、暖かい挨拶がジェイルの悲願を支えてくれているようにも感じ始める。
しばらく歩いていると、天井が見えた。
階段の先だけ、その天井は塞がっておらず道になっていて、更に奥へと進むことが出来たジェイル。
天井の先にもペンダンライトが光り、周囲を照らしていた。
そこは、まさに洞窟だった
ジェイルは外の光を求め洞窟の中の階段を上がっていく。
そして、階段を上がっていくと、天井に汚れた古い納屋のような扉があった。
これが出口か、と思ったジェイルは扉を押してみる。
木くずと藁のようなものが、パラパラと落ちながら、ゆっくりと扉が開いていく。
出た先に光は無く、薄暗い空と独特な瘴気に満ちた外気。
ジェイルが出てきた納屋の扉の外側には藁がかけられていたようだ。
後ろを振り向いてみると、石積みの家の裏にいる事が分かったジェイル。
納屋の扉を藁で隠し、石積みの家の裏にその扉を設置したのは、外部から来た人間に隠し扉の存在を気付かせないためのカモフラージュ。
ジェイルはベルマンテに続く納屋の扉を閉じ、そこに住む人たちが脅威に晒されないように、と願いながら藁をかけ直す。
そして、石積みの家の表に出ると、未舗装の砂利道が続いていた。




