11章 生者の血 8話
「まったく。そそっかしい男だ。ここを出れば螺旋状の階段がある。それを上って行けばいい。螺旋状の階段は一つしかないからすぐに見分けがつくはずだ」
バロックはやれやれ、と言った態度を取りながらも、親切に説明する。
「ああ、分かった‥‥‥それと最後に一つだけ聞きたい事があるんだ」
ジェイルは突然、深刻な面持ちになる。
「‥‥‥言ってみろ」
バロックは少なくとも穏やかな質問ではない、と思いその言葉も自然と重圧が増す
「虚無の世界に落ちた人間を救う方法はないのか?」
ジェイルの脳裏に、ふと浮かんだのは名前も顔も忘れた人物。オキディスの事だった。
誰かに助けてもらった、と言う記憶と会話の断片だけだったが、ジェイルの心の隅ではオキディスを助けたい、と言う気持ちもあった。
ジェイルがそう言うと、今度はバロックが深刻な面持ちになり始める。
「‥‥‥それは無理だ。虚無の世界を開く事は簡単だ。信仰があれば誰でも開くことが出来る。人数も集まれば更にその成功率は増す。だが虚無の世界から幽界の地への扉を開くとなると話は別だ。信仰心だけでなく、祈る者の寿命と存在を捧げなければならない」
「なっ!」
驚き唖然とするジェイルの表情。
そして、助けられるかも、と思った小さな期待は露と消えた。
ジェイルはもう覚えていないが、オキディスは寿命と存在を捧げる事を知っていて、ジェイルにその真実を隠し、自然の神に自身の聖火を捧げたのだ。
そこまでして、ジェイルに償い、救いたかったと言うオキディスの想いはジェイルに届く事は決して無い。
だが、ジェイルの胸には、名も無き勇敢な男が居た事をしっかりと刻んでいた。
「‥‥‥何とかならないもんか?」
諦めきれないジェイルは歯がゆい思いで、バロックに聞いてみる。。
「その者の元に辿り着けたとしても、また新たな犠牲者が生まれるだけだ。命を捧げ続ける不の連鎖でしかない」
辛い現実を口にするバロック。
完全に沈黙し、意気消沈するジェイルは深く俯く。
「お前さんが成すべき事を成就させれば、その者の弔いにはなるはずだ。今お前さんがその場で足を止めれば、それこそ身命を賭け助力したその者の魂すらも報われないだろう。歩き続けろジェイル。その者の想いも運び続けろ」
荷車を運ぶ足を止めようとするようなジェイルを見かねて、バロックは後押しの言葉をかける。
その言葉を聞いたジェイルは目を瞑り、唇を噛みしめ、名も姿も忘れたオキディスを想像でイメージする。
(ありがとう)
心の内で再びオキディスに感謝するジェイル。
そして、ゆっくりと目を開け、バロックに視線を向ける。
「ほんと世話になったな。‥‥‥行ってくる」
そのジェイルの目からは闘志が宿っていた。
「ああ、決着を付けてこい」
それを見たバロックはホッとし、最後の言葉をかける。
振り向き出口を目指し始めたジェイルの足取りは力強い物だった。
‥‥‥だが。
「ジェイルギョクサイ! ジェイルギョクサイ!」
「誰が死ぬか!」
場を茶化したかったコックルはジェイルを中傷する。
ジェイルはそれが鬱陶しくなり、肩に乗るコックルを手で追い払おうとするが、いったん離れたコックルはまたジェイルの肩の上に戻ってきては中傷してくる。
何度もそれが繰り返される。
「もう死んでいるだろうに」
コントのようなやり取りにバロックはたまらず笑みを浮かばせながらそう呟く。
そして、コックルの対応に諦めたジェイルは深いため息を吐いて扉に向かう。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
11章 生者の血、はここで終わります。
次回からも引き続き書いていきますので、是非ご一読してみて下さい。
宜しくお願いします。




