11章 生者の血 7話
それを目にしたバロックは何か思い出したような表情となる。
「それとだジェイル。他者を生きかえさせる生者の剣。そして抹消させる邪神の剣は傷つけた対象者に生還と抹消の効力が発揮されるのは一人までだ。つまり、今お前さんが手にしている邪神の剣は一度相手を傷つけ抹消させれば、生者の血の役目はそこで終わる」
バロックはどこか浮かない表情だった。ユエルに会うまで邪神の剣を扱わず辿り着けるかどうか心配なのだろう。
ジェイルは初めて、生者の血の重みを知った。
ジェイルも誰にも邪神の剣を振るわず、ユエルの元に辿り着けるかどうかが脳裏を過る。
それ程までに、貴重で重要な一振りの刃。
そう思うと、ジェイルの視線も自ずと邪神の剣に向けられる。
「現世じゃ、血が塗られたただの剣だが、幽界の地の人間には垂涎してまで欲しがる神秘の剣てわけか」
不安そうに語るジェイル。
「言うまでもないが、その剣はユエルとの決戦まで振るうなよ。まあ、生者の血の効力を抑え、振るう用途もあるが、お前さんは不器用そうだからなあ」
「はあ! 何だそりゃ⁉」
バロックは出来の悪い息子を持つ、親心のような気持にでもなったのか、『お前は馬鹿だから仕方ない』見たいなニュアンスの言葉で絞めると、ジェイルはムッとなり、険しい表情になる。
「いや、今のは言葉の綾見たいな物だ。気にするな。それより身を引き締めて行け。これから対立する相手は悪の権化のような輩だ。お前さんが無事だと知ると、今度こそ邪神の剣で確実に息の根を止めに来るぞ」
それを聞いたジェイルは、ユエルに復讐したい、と言うその一点に意識が集中した。
ジェイルは、今はその時でない、と自分に言い聞かせ、その業火のように燃え上がる炎を抑えようと、深く深呼吸をする。
「ありがとな。生者の血をくれて」
「私は渡す相手を見極めただけだ。それからこいつを連れて行け」
バロックはそう言うと、口笛を吹き始めた。
講堂に響き渡ると、どこからか翼を羽ばたかせる音が聞こえてくる。
ふと、視線を上に向けたジェイル。
そこから一羽の虹色の小さなオウムがジェイルに目掛け飛んできた。
「うわっ!」
そのオウムが自分の肩に乗ると、ジェイルは突然の事に飛び跳ねるように驚く。
「お、おい、何だよこれ⁉」
動揺するジェイル。
「人語を喋るオウムのコックルだ。いずれ役に立つはずだから連れて行け」
一体何の役に立つのか? と首を傾げるジェイル。
「ジェイルダメニンゲン! ジェイルダメニンゲン!」
「――んだとコラ!」
小馬鹿にしてくるコックルに対し眉間に皺を寄せ、激怒するジェイル。
「そう怒るな。コックルはスキンシップを取る時に過激な表現をするんだ。だからと言って邪険に扱うなよ」
少し心配そうになるバロック。もしかすると、コックルの思った以上の辛口に動揺しているのかもしれない。
「ジェイルブサイク! ジェイルブサイク!」
元気よく小馬鹿にしてくるコックルに、どうしたらいいものか、と頭を悩ませ深くため息を吐くジェイル。
「ユエルの元に行きたければその剣を天に掲げ、神の存在を強く念じてみろ。そうすれば道は示される。生者の血は、神の血と密接に繋がっているからな、血の架け橋とでも言うべきか。ユエルはあれでも、マキナを抹消し続けその心を掌握している。言わば神に最も近い存在だからこそ、生者の血は奴の元へと自然に繋がるだろう」
「へえ、案外楽に行けるんだな」
淡々と説明するバロックに対し、コックルを鬱陶しながら聞くジェイル。
「これはオリジナルの生者の血があってこそ成せるのだ。造血しただけの邪神の血では到底不可能なんだぞ」
神妙な面持ちで語るバロック。
「なるほどな」
大体理解したジェイルはコクコクと二度頷く。、
「じゃあ、俺は行くぜ。て、そうだよ! 出口は何処にあるんだ?」
別れの言葉を口にし、振り向いたジェイルだったが、リンダルトに向かう出口が分からないため、慌ててバロックに振り向き直し、聞いてみた。




