11章 生者の血 5話
再び講堂に向け歩き出すジェイルとバロック。
講堂に着いてみると、先程、紳士淑女達が血飛沫を吐いた跡が綺麗さっぱりと無くなっていた。
そして、目的の場所に辿り着いた二人。しかしそこは‥‥‥。
「なあ、銅像の前で止まってどうするんだ?」
止まった先は先程の戦士の銅像の前だった。
「お前さんの探し求めていた物だ」
そう言いながらバロックは戦士の銅像を見上げる。
何の事か理解できないジェイルは首を傾げる。
「横の台座に丸い窪みがあるだろ。その丸い石をはめて見ろ。それでお前さんの望みの代物が手に入る」
その言葉を聞いて驚いたジェイルは戦士の銅像を注意深く観察する。しかし‥‥‥。
「俺が欲しいのは生者の血だ。つまり血何だぞ? どう見てもただの銅像だろ?」
どう見ても血と呼べる物はどこにもない。戦士の銅像が握っているのも西洋で作られた剣と盾。
それに納得がいかないジェイル。
だがバロックは微笑みながら手で石をはめるように促す。
物は試しと思い、ジェイルは漠然とした気持ちで台座に近づき、丸い石をはめ込んだ。
すると。
ゴゴゴゴゴッ!
石が擦れるような音が聞こえてきた。その音は戦士の銅像からだった。鳴動する戦士の銅像は右手に持っている剣を前へ掲げるように伸ばしてきた。
ジェイルは咄嗟に危険を察知し、後ろへと数歩下がる。
そして。
――バカン!
戦士の銅像は手にしている剣を床へ落とした。
ジェイルは訝しい目を剣に向け、ゆっくりと近づき、その剣を手にする。
「それがお前さんの求めていた生者の血を塗った、生者の剣だ。だがユエルを抹消するとなると、邪神の剣と呼称した方が表現としては正しいがな」
その言葉を聞いたジェイルは驚愕した。
そして、剣の切先からグリップに至るまで凝視する。
しかし、これと言って独特な特徴もない西洋の剣と言う感じだった。
「至って普通の剣なんだが?」
首を傾げるジェイル。
「その剣に復讐心を向けてみろ」
疑念を抱くジェイルに対しバロックは淡々(たんたん)とした言葉でそう促す。
ジェイルは半信半疑で瞳を閉じ、剣に向けユエルの顔を思い浮かべる。
不敵な笑みを浮かべるユエルの表情が嫌でも脳裏で描出される。
そして、ユエルの前にはジェイルの父親、グランが居た。
グランは穏やかな笑みを、その場に居るはずもないジェイルに向ける。
そんな邪気も感じさせない善人のグランを、ユエルは不敵な笑みを浮かべ、手にしている剣で、グランの腹部を突き刺す。
崩れ落ちるように俯きながら倒れるグラン。横から見えるグランの表情は辛酸としていた。
居るはずのないジェイルに向け、必死に手を伸ばし続けるグラン。それを見下ろしながら冷笑するユエル。
煮えたぎるような僧がジェイルの心の内で沸々と湧き上がってくる。
その想いはジェイルが手にしている剣に自然と伝わっていく。
そして、剣はジェイルの想いに応えたのか、ブレイドの中心から切先やグリップに至るまで、波紋が広がるように黒色に染まり始める。
その変わり果てた黒色の西洋の剣からは禍々しい威圧感を感じると、目を開き西洋の剣を凝視するジェイル。
「どうやら上手くいったようだな。それが邪神の剣だ」
「‥‥‥これが‥‥‥邪神の剣」
にわかには信じられない現象に動揺するジェイル。
「先程、私がお前さんに質問した意図はユエルに対して明確な殺意か復讐心があるかどうかだ。もしただの私欲などであったらお前さんにその剣を渡す事は無かった。たとえそれがナヌア様の御意思であってもな」
バロックにとって、ジェイルは好漢が持てたが、生者の血を渡すかどうかは別問題だったらしい。
先程ジェイルの心肝を探る事は、バロックにとって生者の血に適した人材であるかどうか見極める必要があった。
さっきの質問は試験のような物か、と認識したジェイルは、先程の丸い石が頭に引っかかっていた。




