11章 生者の血 3話
しかし、どれだけ思考を巡らせても、答えは一つしか浮かばなかった。
「‥‥‥復讐だ」
重く圧し掛かるようなジェイルの声。
バロックはそんなジェイルから目を離さずハッキリと耳にすると、ゆっくりと目を閉じる。
「‥‥‥そうか」
何かを思案するバロック。それを目にしたジェイルの心臓の鼓動は、激しくなる。
数秒の沈黙の中、紳士淑女達の哄笑が場を包み込む。
すると、突然バロックは懐から何かを取り出した。
「持っていけ」
テーブルの上を滑らせるように渡してきたのは、布に巻かれていた何かだった。
ジェイルは生者の血か、と思い期待に胸を膨らませ、その布を開けてみた。
だが、そこから出てきたのは何の変哲もない丸い石だった。
それを確認したジェイル愕然とした表情になる。
「てっ、ただの石じゃねえか!」
思わずツッコむジェイル。
「何だ、忘れたのか? 三百年前、私と初めて会ったあの時の事を」
バロックの言葉にジェイルは口を真一文字にして記憶の糸を一本一本、辿っていく。
「――あの時あんたに渡したあの丸い石か?」
その糸を引き当てたジェイルは目を大きく開く。
それを見たナヌアは口元に笑みを浮かばせる。
「それを持って付いて来い」
そう言うとバロックは立ち上がり、先程の黒いカーテンに向かい歩き始める。
ジェイルは一体何なのか? と首を傾げ、バロックの後に続く。
黒いカーテンの中に入り先程と同じ廊下を歩いていく。
「あんたどうやって生者の血を手に入れたんだ? 生きている人間の血を入手するなんて、どう考えても不可能だぞ」
ジェイルの言うように幽界の地で生きた人間の血と言うより、生きた人間が居る事自体、不可解な話だ。
「それに関しては、私がかつて、元神から拝受された物だ」
そこでジェイルはある事を推測する。
視線を横に向け考え込むジェイル。
「‥‥‥もしかしたらあんた、元神官だったりしないよな?」
ジェイルのその言葉にピタリと歩くのを止めたバロック。
そしてバロックはゆっくりとジェイルの方に身体を向ける。
「フッ、察しがいいな。確かに私は元神官だ。生者の血やマキナに関する秘宝とも呼べる秘密は元神から聞いた」
鼻で笑うバロックは見抜かれた事に驚くどころか動揺する感じすらなかった。
肝が据わっているのも年の功と言うものだろう。
「なら、天使界の元神の正体は‥‥‥ナヌアか?」
言い当てた事にジェイルは気持ちがやや向上し、少し考え思った事を口にする。
「ハハハハハッ! もしや私がナヌア様と敬称を付けているからそう思ったのか? なかなかユニークな憶測ではあったがそれは違うぞジェイル」
場の空気を一変するかのようなバロックの哄笑にジェイルは顔をしかめっ面せ不機嫌な態度を取る。
「まあ、元神に関してはあまり触れないでやってくれ。少なくともユエルとの決着がつくまではな」
「どういう意味だ?」
引っかかる言い方をするバロックにジェイルは気になって仕方なかった。
「時が経てば自ずと分かるはずだ。真実とは行動と隣り合わせ見たいな物だからな」
ますます気掛かりな話をするバロックにジェイルは首を傾げる。
「少し昔話をしてやろう。昔、元神が激洗を行使していた頃は天使界だけでなく現世も争いの無い繫栄された世界だった。悪を制御し、人と人が寄り添える万全の安住な世界に改変していた」
急に語りだしたバロックにジェイルは一瞬戸惑うが、徐々に聞きなれていく。
「だが、人々から敬われていた元神にある災いが襲ってきた」
「……何だよ、その災いって?」
重苦しい表情をするバロックにジェイルは思わず生唾を飲み込む。




