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電子書籍化決定 地獄劇  作者: ラツィオ
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11章 生者の血 2話

 シルエットから映し出されたような影から男性と女性の華やかな鼻歌と笑い声が聞こえてくる。


 「こっちだ。ジェイル」


 廊下の奥に居るバロックが出口がある黒いカーテンの前で立っていた。


 両端の白いカーテンから足音が鳴る中をジェイルは再び警戒して歩いていく。


 歩いていく内に白いカーテンの中を走る最後の一人の影が通り過ぎ、その足音は止んだ。


 そして、ジェイルはバロックのすぐ近くまで歩いていくと、バロックは黒いカーテンを開けた。


 その先から光が差し込み、バロックは先にその光の中に入っていき、ジェイルも後に続いた。


 黒いカーテンの中に入ると、そこは巨大なホールだった。


 洋風のインテリアに、いたる所に設置されているペンダントライト。


 そして、先程の七百人の紳士淑女達が大体八人組のグループに分かれ丸いテーブルの周りに置かれている椅子に座り、豪勢な食事を食べたりワインを飲んでいた。


 白いカーテンの中を走っていたのは先程、歌い、口から吐血していた紳士淑女達だったのだ。


 ジューシーな骨付き肉や、トロリとしたクリームシチューの豊かな香りがホール全体に充満していた。


 紳士淑女達をよく見てみると、先程、ハレルヤコーラスを歌い終えた時に吐いた血が衣服に付いたままだった。


 紳士淑女達はそんな事は一切気にせず談笑したり、時には哄笑するなどして、食事とワインを楽しんでいた。ジェイルやバロックには気にも留めていない様子だった。


 「お前さんもこっちに座れ」 


 バロックは近くで開いている席に座るようにジェイルを手招きで誘導する。


 ジェイルは軽く頷き、その椅子に座る。


 「ここは何処(どこ)なんだ?」


 「ここはリンダルトの地下、自給自足で繁栄(はんえい)させたベルマンテ。私はここの最高責任者であり、悪意の無い()(きょう)な者達と共に暮らしている。ここにいる男女は重度の喀血(かっけつ)(わずら)っていてな、それでも歌いたいがために、一カ月に一度はああやって合唱するんだ。吐血しても不快感や痛みはなく快楽に変わる。まあそんな訳で驚かせてすまなかったな」


 ジェイルはリンダルトに戻れたことに驚き、辺りを見回してみる。


 「まさかリンダルトの地下にこんなにも人が集まるなんてな」


 「私が牢屋に居たのも、ここに連れてくる人間を見極めていたからだ。ここの秘密を露見(ろけん)せず、共に過ごせる仲間をな。悪意のある者にバレてしまえばベルマンテを蹂躙(じゅうりん)しようとする(やから)も現れる。地獄に取っては善行に生きようとする者は目の上のたんこぶ、抹殺の対象になるからな」


 そこでジェイルは、ふと疑問に思い首を傾げる。


 「地獄に落ちた人間に悪意が無いなんてあるのか?」


 バロックはその言葉を聞いて鼻で笑う。


 「確かにそうだ。だが中には地獄で生き続ける中で己の罪に()(ばつ)(かん)(じょう)を抱き(かい)(こん)する者や、人を傷つけ(あや)めたりした者の中には、やむを得ない事情があるものだ。人は誰しも高潔に生きる事などできない」


 その言葉を聞いたジェイルはヨシュアの顔が浮かんだ。


 ヨシュアも根は善人であるのだが、恋人のパーラインを守るために手を血で染めてしまった。


 だが、どんな理由であれ、それは罪と見なされるのだ。だからこそ地獄に居る。


 「それでだジェイル。私からも一つ質問がある。お前さんどうやってここに来た?」


 真剣な表情になるバロック。


 ジェイルはその言葉でナヌアの事を思い出した。


 「ああ、実はな‥‥‥」


 ジェイルはこれまでの経緯を話した。そして(きょ)()の世界からベルマンテに来る途中にナヌアと会い、記憶を取り戻した事も。


 「なるほどな。それで今しがた記憶を取り戻したと言う訳だな。」


 指で顎を触れながら考え込むバロック。


 ジェイルも記憶が何故失っていたのか、と先程から気になっていた。


 「もしかしたらお前さんが当初、自然界から地獄に来るまでの時空の中で何かに接触したんじゃないか?」


 バロックの言葉に首を傾げるジェイル。


 「(なに)かって(なん)だよ?」


 ジェイルは気付けなかった。まさかブルンデが時空でぶつかったと言っていた相手がジェイルであった事を。そして、その記憶を呼びさまし、ベルマンテに導いてくれた事も。


 「それは私には分からない。まあともかく無事に思い出せて良かったな。私も三百年前お前さんに会い、マキナの姓を聞いた時は驚いたものだ」


 目を横に逸らし、過去を思い出すバロック。


 ジェイルも同じく三百年前バロックに会った時の過去を思い出し俯く。


 「お前さんがユエルにとって最後のマキナ。つまり奴が最も必要としている命でもあり、最も危険な刺客とも言える。まさかユエルもジェイルとナヌア様の間でそのような取引が合ったとは夢にも思わないはずだ。一度捕まりはしているようだが、お前さんの意思が鉄心の物ならば必ず打開できるはずだ」


 様と言う敬称を付けるバロックにとって、ナヌアは一体どのような存在なのか気になる所だが、ジェイルの頭の中では生者(せいじゃ)の血が最優先で脳裏に浮かんだ。


 「あんたなら(せい)(じゃ)の血を持っているとナヌアに聞いた。それを(じゃ)(しん)の血に変えユエルを抹消しろと」


 「確かに(せい)(じゃ)の血は持っている。ナヌア様がそう(おっしゃ)ったのなら、お前さんに贈呈すべきだろうな」


 バロックはジェイルの瞳に、生者の血が欲しいと言う熱望を感じ取っていた。


 「お前さんはユエルに対して復讐と言う(ごう)()()(まっ)(しょう)したいのか? それとも取引と言う蘇生したいがための野心でか?」


 ナヌアはジェイルの真意を確かめるような質問をしてきた。


 その鋭い眼差しからは見極めようとする意志がハッキリとジェイルに伝わっていた。


 ジェイルはすぐに返答できず、深く俯き己の気持ちに向き合う。


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