10章 明かされる真実と記憶 11話
「いや、天使界に生まれた者や現世から天使界に選ばれた人間には邪神の血は造血できない。ユエルは大勢の穏健達の命を使い、生者の血から邪神の血に転換させた。そのせいで昔いた天使界の人間達の人口も減り、今や一億にも満たない。奴にとって他者は人身御供なのだろう」
怒りを通り越して何も感じ取る事が出来ないジェイル。
「そんな事のために……親父を……」
魂が口から漏れ出るように力の抜けきった声を呟く。
「君にとって悲報だと言う事は重々承知している。ただそれを見ている事しか出来なかった私には君に弁解の余地すらない。だが君が最後のマキナの生き残りであり、ユエルにとっても君が最後のピースなんだ! もし君がユエルの手に落ちれば、ユエルは神の権能は万全な物となり現世でも辣腕する事が出来る」
暗い表情で俯くジェイルに懸命に言葉をかけるナヌア。
しかし、ジェイルは微動だにしない。それでもナヌアは諦めなかった。
「君が最後の鍵だと言ったのは、奴がいずれ君がマキナの姓を持つ者だと知るからだ。どの世界でも韜晦し続けるなど不可能だからだ。私は君を保護する事が最悪の結果を招くと確信している。ユエルの成就を瓦解させるには一度成し遂げられると錯覚させるのだ。だからこそ隙がある。まさか自分が狙っている標的から牙を向けられるとは思わないはずだ。鋭利な刃物に邪神の血を付け、ユエルにかすり傷でも与えれば、それで抹消できる」
そして、ジェイルは拳を強く握り、怒りが込み上がっていた身体をフルフルと震わせる。
「どうしたら、邪神の血は手に入る? 造血しかないのか?」
殺意が籠った声と鋭い目をナヌアに向けるジェイル。
それを見たナヌアは深いため息を吐く。
そのため息はジェイルに向けたのではなく、ナヌア自身に対してのものだった。
悲しみから立ち直させるために、ジェイルの復讐心を焚きつけさせる事しか出来なかった不甲斐なさからのため息。
そして、ナヌアも決心し表情を切り替えジェイルの目を真っすぐ見つめる。
「これから君を地獄に居るバロック・ロワイアと言う男に合わせる。私の名前を言えば、生者の血を渡してくれるはずだ」
ジェイルはこれから自分が地獄に落ちると言われても、眉一つ動かさず、真剣な表情でその話を受け入れていた。
ジェイルの心の中では復讐心で激昂していた。
むしろ、早く地獄に行きたくて仕方なかった。
「分かった。必ず成し遂げてくる」
ジェイルの決意の籠った表情と言葉。
すると、ジェイルの身体は薄く消えかけ始めた。
「ではジェイル君。後は任せたぞ。‥‥‥そしてありがとう。君の勇気と覚悟に、最大の敬意と感謝を‥‥‥」
ナヌアのその真剣な表情だけでなくジェイルの瞳に映るもの全てがぼんやりとしてきていた。
ジェイルは音も無く散り一つ残さず、実態が薄くなるように消えていった。最後にナヌアが目にしたのは、真剣な面持ちで強く頷くジェイルだった。
そして、ナヌアはそれを見届けると、重い腰を上げ、浮かない表情で丸太小屋の外に出て空を見つめる。
「‥‥‥やれやれ、心苦しい物だ」
虚空を見るかのような瞳で語るナヌアのこの言葉の意味は‥‥‥一体。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
十章「明かされる真実と記憶」はここで終わります。
次回のサブタイトルは、生者の血、の予定です。
引き続き書いていきますので、是非ご一読してみてください。
宜しくお願いします。




