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電子書籍化決定 地獄劇  作者: ラツィオ
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10章 明かされる真実と記憶 8話

 「ちょっと待てよ。何なんだあんた?」


 ジェイルは初対面の相手に対し対応に不審な点がある、と思うと(いぶか)しい目をナヌアに向ける。


 「そうだな。まずは対話にしても心にゆとりを持たせなければね」


 ナヌアは(さわ)やかな笑顔でそう言うと、キッチンに向かった。


 「レモンティーはお好きかね?」


 ナヌアは陽気に喋りながら、お湯を沸かすためケトルに水を入れ火を付け、棚から瓶を取り出す。


 その瓶の中は何枚も薄切りにされたレモンがたっぷり入ったレモンシロップだ。


 遠くから見てもキラキラと輝いていて、プロが作ったかのような出来栄え。


 次は小さいショーケースから何やらタオルで巻かれている物を取り出した。


 そのタオルから取り出されたのはホカホカと煙を立ち上がらせた、温められた白いティーポット一つとティーカップ二つだった。


 棚からストレーナーと茶葉の入った瓶を取りだし、軽量スプーンに茶葉を入れそれをティーカップの上に置いたストレーナーに入れる。


 丁度、沸いたお湯をティーポットに入れ、そこからストレーナーに入れた茶葉の上から注ぐ。


 全ての動作がプロ顔負けのものだった。


 香り高い高貴な匂いを鼻で嗅ぎながら、未だナヌアを警戒していたジェイル。


 最後に薄く切ったレモンを三回程くぐらした。


 無言のまま時が流れ、出来上がったレモンティー二つをジェイルのいるテーブルの上に運んでくるナヌア。


 「さあ、飲みたまえ」


 置かれたレモンティーは濃く見えるはずなのに、ティーカップの底まで透き通って見える程、鮮やかだった。


 鼻腔をくすぐるレモンティーの豊潤な匂いに抗えず、ジェイルは誘惑にでも負けたかのように、疑いもせず、ティーカップを手に取り、口で(すす)る。


 飲んでみると濃厚なレモンシロップの甘みと、茶葉の自然の甘さと程よい三味と苦味が、口一杯に広がる。


 今までに飲んだどのレモンティーとも比較にならないその旨さに恍惚な表情を浮かばせるジェイル。


 いつの間にか心は落ち着き、ナヌアの言う通り心にゆとりが持てた気がした。


 「落ち着いたかね?」


 「ああ、美味いな」


 素直に感想を言うジェイルにユエルは微笑む。


 「ではそろそろ対話といこうか。ジェイル君。君は自分が殺された事を実感しているかね?」


 ナヌアの言葉にジェイルは目を大きく開き、自分が殺されたビジョンが(せん)(めい)に脳裏を過る。


 頭が困惑し思考が不安定になっていくジェイルは、その場で俯き、目を大きく開いたまま、過呼吸になっていく。


 「落ち着きたまえジェイル君。レモンティーを飲むんだ」


 ナヌアのその言葉が何とか耳に入ったジェイルは慌ててレモンティーを飲み、(ふか)(しん)()(きゅう)をした。


 それを心配そうに見るナヌア。


 「そうだ。俺は殺されたんだ」


 動揺した表情でそう呟くジェイル。


 「ジェイル君。少し外を見てきたまえ」


 ジェイルはナヌアに目線を向けると、ナヌアは手をドアの方に向ける。


 そこでジェイルは自分が殺され今現在どこにいるのか? と確認したい気持ちを持ち始め、ナヌアの言葉通り椅子から立ち上がりドアの方へと向かった。


 不安な気持ちでそのドアを開けた。


 開けてみると、そこは原生林のような神秘的な森だった。


 丸太小屋を囲うように樹木(きき)(おい)(しげ)っていて、近くには太陽で照らされキラキラと輝く清流もある。


 少し離れた所で、鹿(しか)やシマウマの親子が仲良くじゃれ合っていた。


 小さい滝もあり、その流れる滝から六色の虹が浮かび上がっていた。


 見ているだけで心が癒されるような景観(けいかん)


 自然に満たされたような心地い風と匂いがジェイルの心の(もや)を晴らしてくれるようだった。


 「ここは、現世と幽界(ゆうかい)の地とは別の(かく)()された世界。自然界とでも言っておこうか。私はここでしか生きる事が許されない者だ」


 ナヌアはレモンティーの入ったティーカップを手にしながら、ジェイルの後ろでそう語る。


 「死んだ後に、天国や地獄以外にも行ける所があるんだな」


 森を呆然と見渡しながらジェイルはそう言う。


 「いや、本来ここは招く客はいても招かれざる客は来ない、安住の世界だ。最もここに招き入れた者は君で二人目だ」


 (にわ)かには信じられない話を耳にしたジェイルは、ナヌアの方に振り向き、何者なのか? と再び(いぶか)しい目を向ける。


 「招き入れたって事はあんた俺に何の用があるんだ? 自慢じゃないが俺は取柄も無いどころか哀れ人間、代表見たいな底辺にいる人間だぞ」


 ジェイルは両手を広げ開き直ったかのように自慢げに語る。


 「やはり()(ちょう)は己の価値を下げ、同時に好感と憐憫を他者に抱かせる。実に人間味がある素晴らしい人種だ。それがあるからこそ、君はもっと自信を持っていいはずだ。だからあえて言わせてもらおうか。自分をあまり卑下するものではないと」


 嫌味で言ったはずのジェイルに対し、ナヌアは微笑みながら(けな)しているのか、慰めているのか分からない持論を口にする。


 それに対しジェイルは()い返す(こと)()が思いつかず、顰めっ面にする事しか出来なかった。


 「まあ、君を招き入れた事については、テーブルの上で話すとしよう。入ってきたまえ」


 ナヌアはそう言うとレモンティーを(すす)り、テーブルに向かう。


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