10章 明かされる真実と記憶 6話
「出来るのか⁉」
ジェイルは幽界の地から隔離された虚無の世界から一体どうやって抜けだせるのか? と思わず驚く。
「ああ。だがそのためには信仰が必要だ。神に信仰する心を持ちながら祈り続ければ、虚無の世界の脱出の扉が開かれる」
オキディスの瞳は雲一つも無い真剣な眼差しだった。
ジェイルは自分以上に虚無の世界に精通しているオキディスの言葉を疑う事なく信じた。そもそも幽界の地は常識から逸脱した世界。何が起きても、何が出来ても不思議じゃない。
「正直、俺には自信がないぞ」
だがジェイルは神を信じていない。スザクがあの素っ頓狂な様子だと信仰が持てないのは尚更だった。
「祈る相手は神の代行ではない。この虚無の世界そのものだ。虚無の世界は自然が作り上げた物だ。現世で宇宙やあらゆる星々が誕生したと同時に地獄と天使界が誕生した。しかし実際にはそれらを作り上げたのは神ではなく自然だと言う話だ。そして現世と幽界の地が誕生した後、自然の神が天使界の神を誕生させたと言われている」
オキディスの話を聞いたジェイルはブルンデとの会話を思い出した。
神は神によって選ばれた、と似た言葉。
「じゃあ自然の神は幽界の地と現世を司る、正真正銘の神って事か?」
「そうだ。自然は無垢な心と信仰を身に付けた人間の声に応え、その者に必要な道を示すとも言われている。だからその扉は私が開く。私の新たな道を君に譲ろう」
理解出来たと思った途端またオキディスは主旨の伝わりにくい言葉を口にする。
「どういう事だ?」
「とにかくこれ以上説明している時間がない。生身になっている分、私の信仰が聞き届けられるか、時間が勝負の鍵だ」
オキディスはそう言うと、虚無の世界の地に膝をつき正座をすると、両手を組み瞳を瞑る。
そして、今までの行いと過ちを口にし、是正するため懺悔を始めた。
生身の身体であるが故に、食事を取らなければ餓死してしまう。その前にオキディスが信仰心を身に付け自然の神にその声を届けなければならない。
「おい! オキディス!」
ジェイルが叫んでも、微動だにしないオキディス。
ジェイルはその場で深いため息を吐き、オキディスから少し離れ、仕方なく胡坐をかく。
あれから四時間が経過していた。
ジェイルは仰向けで寝たり、横向けで寝たりと、とにかく暇をしていた。
オキディスの方をたまに一瞥するが、一向に変わる気配は無い。
更に四時間が経過する。
ジェイルは口渇し空腹になっていた。まだか、まだか、と深いため息が止まらない。
そして、そこから二日が経過した。
「うっ、うぅぅ‥‥‥」
ジェイルの頬は窶れ、うつ伏せになりながら口渇と空腹で限界だった。
飢餓した状態。
呻き声を出し続けるジェイル。
意識が途切れそうになるのを歯を食いしばり堪えようとするが、もう駄目なのではないか? とも考えてしまう。
朦朧とする意識の中で脳裏でイメージするのは昔、家族と共に食事をしていた光景だった。
四角いテーブルの上に並ぶ、キッシュ、ナポリタン、クリームシチューなどの母親の手料理。
想像するだけで料理の香りが今にでも漂って来そうにも思える。
しかし、熟考する程、あの家庭は偽りだった、と悲嘆な思いになってしまうジェイル。
そうやっている内に、ふと青白い光がジェイルの少し離れた所から輝き始めた。
一体何だ? と朧気な瞳でその青白い光が輝いている場所を見てみると、オキディスが祈っている少し離れた正面で、その青白い光は開いた門の形をして輝いていた。
開いている門の先はただ暗いだけだった。
奇妙な現象にジェイルは驚きながら、立ち上がり、ふらふらとした足取りでオキディスの元へ歩き出す。
「もしかして上手くいったのか?」
ジェイルがオキディスにそう問いかけてもオキディスは一切反応しない。
正座しながら瞳を瞑り両手を組んだままだった。
「おい、オキディス?」
ジェイルは不安な表情でオキディスの横から肩を軽く叩くと、オキディスはゆっくりと後ろに倒れてしまった。
「オキディス!」
ジェイルは慌ててオキディスに近寄り、後から両肩を支え、ゆっくりと上体を起こす。
そこでジェイルが目にしたオキディスの顔は酷く痩せ、九十代に見える程、皺だらけになり老化ていた。
「なん‥‥‥とか、門は開いた。さあ‥‥‥行くんだ。早くしないと門が‥‥‥閉じてしまう」
渇いて萎んだ唇をパクパクさせながら必死に言葉を伝えようとするオキディス。




