案内
グックルガムに導かれて、エイルたちは玄関ホールに立っていた。
「ちょっと、待ってて」
と言うと、グックルガムは一階の部屋の奥へと姿を消してしまった。独り残されたエイルは、懐から火刑のマッチを取り出して、ギベリィの言葉を思い出していた。
――それを使って、グックルガムをぶっ殺してこい!
エイルは激しく首を横に振って、馬車の魔女の言葉を振り払った。
そんなことはできない! グックルガムはきっと、良い魔女だ! ギベリィみたいな意地悪な魔女と違って――。
からから、と箱の中のマッチが転がる音が虚しく響いた。
火刑のマッチを懐にしまったところで、グックルガムが戻ってきた。
「ごめんなさい! 待たせちゃって! 来客用のスリッパを持ってきたの! お客さんなんて、久しぶりだから!」
見れば、すでに彼女はスリッパを履いている。
可愛らしく笑うグックルガムに、エイルは同調した。
――この子の笑顔を守ってあげたい……。
そんな考えが、エイルの頭の中に浮かんだ。
エイルは靴を脱いで、スリッパに履き替えた。足が軽い! そんな小さな変化でも、エイルは敏感に反応し、感動していた。
「さあ、ついてきて」
グックルガムの案内で、エイルは階段を上り、三階の廊下を歩いている。ふたりは、使われていない客室の中へ入った。少年は、すぐに驚愕することとなる。
「うわあ……!」
いつの間に霧が晴れたのだろう。眼前に広がるミルキーブルーの湖は、一瞬、海と錯覚するほどに広く、どこまでも続いていた。波ひとつ立たずに、そこに鎮座している湖は、静けさの中に壮言さを感じさせる。
「ね? いい眺めでしょ? 気に入っているのよ、わたしも」
言うと、スライド式の窓を開けて、部屋の中に新鮮な空気を取り入れた。
「ここがエイルの部屋。好きに使ってもらって構わないわ」
グックルガムがエイルの顔をじっと見つめる。
「それじゃあ、わたしはあなたのお顔を治す準備をしてくるわね」
期待して待っていてね、と愛の魔女は微笑んで言った。




