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父親の不在
ギィと音を立ててヴェルダンの家の扉が開かれる。
……当然、中は誰もいない。
「親父ー、帰ったぞー。いないのかー?」
返事はない。それが意味するところを知っているヴェルダンは、落胆しながら自室へと歩いた。
ホー、ホー。
どこかで梟が鳴いている。ベッドの上で横になっているヴェルダンは、眠る気はさらさらなかった。母親を偲ぶなら、父親とともに……と考えていた少年は、いつまでたってもあらわれる気配のない肉親に苛立ちを募らせていた。
(母さん。今年は俺ひとりになりそうだよ……)
写真立てを手に取って、中身を見る。白黒の写真だ。長髪の美しい女性が、笑顔でこちらに手を振っている。ヴェルダンの母親、ラーレン・スタールだ。
写真立てからそっと写真を抜き取って、それを額に当てた。こうすると、母親が自分の頭を撫でてくれるような気がするのだ。
目から一筋の涙を伝わらせて、ヴェルダンはつぶやいた。
母さん、と。
普段、強気なヴェルダンが滅多に見せない、心の弱さだ。




