1.営業は行きたくありません
いくら仕事が出来ない俺でも、流石にそれなりに動いてみた。
部下である神宮寺と共に、倉庫、ともい、新しい職場であるレンタルオフィスへと移動。恐る恐る中を覗いてみれば、一部を改装したと言っていた通り、それなりに綺麗に片付けられていた。
片付けられてはいたのだが、俺たち用のデスクが2台、隅の方にポツンと置かれているだけで、他には何もなかった。
そう。本当に、何も無かったのだ。
「神宮寺君。ここで合ってるよね?」
不安に駆られ神宮寺に声をかけると、興味の無さそうな無愛想な声が返ってきた。
「合ってるんじゃないですか」
「そうだよねぇ。合ってるよねぇ。でも、何もないよ。どうするの、コレ?」
「さぁ? 僕は、ただのヒラなんで。運営方針は部長が決めてください」
「え? ああ。うん。そうか。そうだよね」
素っ気無い神宮寺の言葉にドギマギとしながらも、俺は、とりあえずの仕事を頭に思い描く。
レンタルオフィスと言うくらいなのだから、誰かにこのスペースを借りてもらわなくては始まらない。つまり、借り手を探さなくてはならない。
「えっと、じゃあ、営業にでも行く?」
「営業ですか? あまり行きたくないですね」
運営方針を決めろと言ったくせに、神宮寺は、俺の提案を鼻の頭に皺を寄せて一蹴する。
「嫌って、キミねぇ。まずは、借り手を見つけないと。そのためには、営業をするしかないじゃないか」
上司らしく神宮寺を諭してみたが、あまり彼の心には響いていないようだ。
「借り手を見つけなくてはいけないという意見には賛成しますが、そのための営業とは具体的にはどうするのですか? まさか、道端で声掛けでもするのですか? そんな非効率なこと、僕はしたくありませんね」
馬鹿にしたような態度で、肩を竦めた神宮寺に少し腹が立った。
「じゃあキミは、どうやって人を呼ぶのが良いと思うのか、意見を出してよ」
「まぁ一般的に考えて、人を呼び込むためには、広告じゃないですか?」
「広告?」
当たり前な事を聞くなと言わんばかりに、神宮寺は大きなため息を漏らした。
「僕はシステム管理部にいたくらいですから、デジタルにはそれなりに強いと自負しています。デジタル広告で良ければ、僕でもお力になれますが?」
「神宮司君、キミ、できる人だね」
そしてデジタル広告で集客することを決めた我ら新事業推進部。しかし諄い様だが、現在のレンタルオフィスの稼働率は0%。社長の決めた期限まであと1ヶ月。俺は今焦っている。