第三十四話 折れた決心
話の流れから、今回は短くなりました。
作業場をふらふらと出てから、神様の館の応接間に向かった瑠璃はノックもせずに入ると、三人掛けのソファに横たわった。
スカートの裾が捲れあがり、足に冷たい風を感じるが直す気力はなかった。
(女の人と抱き合ってた)
慶二郎、つまり圭祐に恋人がいるかもしれない、と考えたことは何度もあった。
そのため、今まで命日に瑠璃が地上に降りることはなかった。
慶二郎の見た目が変わっていたとしても、誰かと過ごす姿を見るのは耐えられない、と分かっていたからだ。
しかし、今日は慶二郎ではなく、「圭祐」が女性と抱き合っていたことに大きなダメージを受けた。
(声は聞こえなかったけど、とても親しそうだった)
大正時代に亡くなった瑠璃にとって『抱擁』の意味はとても大きい。
西洋式のダンスでも、あそこまで密着することはない。
「瑠璃? なんて恰好をしてるの」
会議から帰ってきたのか、正装をしている神様が瑠璃を見るなり、呆れた声を出した。
「今日は瑠璃の命日だろう? 初めて地上に降りて疲れちゃった?」
「……うん、疲れた。ねぇ、神様」
抑揚のない声で瑠璃が呼ぶと、「なに?」と優しい声が返ってくる。
「私、やっぱり試験受けない」
「どうして?」
心配そうに神様が瑠璃の顔を覗き込んだ。
「やめるの」
ただそう言うだけの瑠璃の頭を、神様は静かに撫で続けた。
お読みくださり、ありがとうございました。
ラストは変わりません。
しかし、途中でかなり改稿および加筆修正しながら進んできたので、辻褄が合うようにラスト直前を練り直し中です。
愛想を尽かさずに、お付き合いいただけましたら幸いです。
どうぞよろしくお願いいたしますm(_ _)m