51、【閑話】師匠と弟子。初めての出会い ※あとがきにオマケ追加しました。
「ああ〜もう……最悪か……」
この日、俺は一人で呑みに来ていた。
……いいや、一人で来たくて来たわけじゃない。もともとは二人で来る予定だったんだ。
なら、何故に一人かと言うと……彼女に振られたからだ。
うん、しかもついさっき。
う、う、おかげで食べるもの、飲むもの皆全部しょっぱいぃ!
せっかくショーを観ながら食事が出来る……そんな素敵なお店を予約したのにぃ……!
目の前には二人分の小洒落た料理。
しかも所々に、二人用のハートのストローが刺さったドリンクだったり……散りばめた薔薇の花びらだったり……果ては『お付き合い六ヶ月ラブラブ記念! これからも、ず〜っと二人は一緒だよ♡』なーんて言葉が料理プレートやケーキに書かれている。
何だ……生き地獄か?
くっそぉ、それもこれも……。
「ははは……まーた振られちゃったな〜。……でもさ、俺もいい加減こーんな程度で傷ついたりしないんだけどな〜? ――ま、せっかく予約したんだし……ショーで綺麗なお姉さんでも眺めながら……一杯飲んで……帰ってクソして寝るか! はっはっは!」
と、自分の精神状態をショックによるハイテンションで舐めてかかり……強がって席によいしょと着いたのが運の尽き。
いざ席に着いてみたら、最高潮にラブラブだった頃のノリで出された料理の数々が待ち受けていた。
ああ、そうさ。
見た瞬間、俺はトイレに行って盛大にゲロを吐いたよ! いいや、吐くよな? こんなんっ!?
もはや過去の自分に背中からぶっ刺されたも同じだぞ!
クソがーッ!!?
……しかもまた間が悪いのが、ショーがメインのこの店は一度入ったら最後。
予約した二時間の間は出られないという地獄仕様となっている!
うん、浴びた……浴びるように酒を飲んだ。
お願いしますアルコールさん……どうか俺の記憶を全部無かったことにして下さい……お願いします! シクシクシク、と願って……。
すでに空いたグラスが閉店間際のパブのカウンターのようにズラリと並んでいるが、知ったこっちゃない。
「…………」
そうやって荒れに荒れまくったテーブルに突っ伏していると、何か……何だかビーッと……やたら熱を帯びた力強い視線を感じるような……?
酒でぼやけた頭で見れば、そこにいるのは……えーと……コロボックル?
「あのー……」
あ、あれ、このコロボックルしゃべるぞ!?
「え、え〜……コロボックルじゃありません! 人間の子どもです! それよりも……貴方は錬金術師のジオルグ・アルマ様でお間違いないでしょうか?」
「…………」
「あの〜……聞こえてますか……もしもーし?」
「お嬢ちゃん……ここは成人以外は立ち入り禁止のはずだよ?」
それにこのコロボックル……改め金髪のガキんちょは一瞬あたふたしてからしばらく黙り、ハッと閃いたような表情で口を開いた。
「あ、私、このお店の子供なんですよ!?」
「うん、そうか……嘘が下手だね、君」
何で悪酔いしながら、見ず知らずのガキにまで絡まれているんだ、俺は?
「あの……つかぬことをお聞きしますが、よろしいですか?」
「はあ…………何でございましょうか?」
「ジオルグ様にお弟子さんはすでにいらっしゃいますか?」
は? 弟子?
「いいや、……いないけど」
「え! 新聞に載っているくらい有名なのに!?」
「……あのな……他の攻略パーティーに誘われることはあっても、普通は冒険稼業に弟子入りなんてする奴はいない。……ましてや貧乏くじの“錬金術師”なんか尚更――」
そこで金髪のガキがぴんっと手を挙げる。
「だったら……私が立候補するので弟子にして下さい! ……私、あなたに弟子入りしたくて、はるばるここへ来たんです!」
「はあ〜?」
何言ってんださっきからこの子供は……!?
「親御さんが心配するから駄目! ほ〜らもうお家に帰りなさい!」
すると子供が鞄から一つの封筒を取り出した。
生意気にも蝋で封がしてあるじゃないか。
「ご安心下さい。そう言われるだろうと事前に母から弟子入り許可の“証文”を貰っています。……これがあれば法的な拘束力があり……“ホゴ”にすれば母であろうと裁判で争うことが可能です!」
「は……さい……反故?」
一瞬で酔いがさめる。
は? な、何じゃそりゃ!? なんつー非常識なっ!!
ま……とはいえ俺の答えは最初から一択だ。変わりはしない。
「だけど俺は弟子をとらないんだよ。悪いな」
「え、え、でも……ジオルグ様にも決して悪いお話ではないんですよ!? だからどうか、せめて詳しい内容だけでも!!」
「…………」
「お願いします! お願いします! お願いします! お願いします!!」
ガキが、見事な土下座で頭を床に打ちつける勢いで下げまくる。
ああ〜。……どうしよう。こういった手合いのやつって基本しつこいんだよな。
経験者は語る……って、ろくな経験をしていないな俺は。
何かいい手立てはっと――。
だが、そこで天の助けとばかりに、ステージからアナウンスがかかった。
『ではここで飛び入りゲストをご案内!! ご自身のご自慢の技を披露して……賞金をゲットしてみませんか!?』
……おっ?
これはなんてお誂向きの……丁度いい虫除けじゃあないか!?
俺はしめた! と笑った。
「――お嬢ちゃん。……さっきのアナウンスを聞いただろう? そんなにど〜しても俺に話を聞いてほしいなら……今言っていた、飛び入りステージで客を沸かせてごらん――どうだ出来るか?」
「え……」
「上手くいったら詳しい話を聞いてあげよう。……ただし、それで失敗したら二度と俺に関わらないと約束してくれ!」
「…………」
一瞬の沈黙。だが――。
「わかりました。弟子入りの第一関門というやつですね!? なら、私の熱意。どうか見ていてください!」
そう言って一目散に走っていき、本当にぴょんぴょんとジャンプして……飛び入り参加を表明してしまった!
おいおい……って、マジッ!?
「あらあら……お嬢ちゃ〜ん、どこから入ってきたのかな〜?」
ステージのお姉さんも困惑気味だ。
しかし、やたら肝が据わっているそのガキンチョは、そんなの構わずどこ吹く風――。
「ステージに上げて〜! ダメだったら裏からすぐに出ていきますから……だから、お願い!」
するとステージ裏からヒョイと責任者が顔を出した。
「……いいんじゃない? 子供や動物は舞台ウケするし……他に参加者もいないみたいだ」
「えええ〜マスター……でも、オーナーに知られたら後ですっごい怒られますよ!?」
「いやいや、子ねずみの一匹くらい多目に見てくれるでしょ〜?」
そんなやり取りに客側もからかい混じりに面白がりはじめる。
「何だ何だ、トラブルか!? ……いいぞ~やってみろ。頑張れ、がんばれー!」
「ははは、まるで犬が店に入ってきたみたいで、こりゃ和むなー!」
いやいや、店側も何故か参加させる流れになっているし……好意的なヤジまで飛んでる。
どうなってんだいったい!?
「ところで……どんなことをするか大まかに教えてもらえるかな? 舞台装置も使えるよ!」
「…………」
するとガキはマスターをチョイチョイと呼び寄せ、その耳にこしょしょと耳打ちした。
「……え!?」
それにまるで驚愕するようにマスターが目を見開く。
「……急ですが、音楽のアドリブをお願いします!」
ペコリとマスターにお辞儀し、多少、マスター主導の打ち合わせの準備の間を置いてから、いよいよ飛び入り参加のショーは始まった。
結果は――。
「ぴゅうぅうーー! ぴぅうーぃぃっ!」
鳴り響く観客の指笛。
「アンコール、アンコールッ」
「はーははは、ひひひはは、や、やべーぞ、この舞台っっ!?」
笑いすぎて席から転げる大人。
鳴り止まない拍手と熱気!
そんな店中の熱狂をBGMに……賞金を手にこっちへ走ってくる一人の子供。
「ただいまー!」
「………………へ……はっ?」
そんで一人混乱し固まる俺。
ど、どうなってんだコレッ!?
いや、確かにショーは……なんか……凄かった。
それはいったいどう始まったかというと――。
まず、シルクハットにサイズの合わない燕尾服とステッキ。
そんな格好でタップダンスをこのガキは始めた。
リズミカルなスナップの効いた音、軽やかな足取り。
で、やがてその足を大きく持ち上げはじめ……一人ラインダンスをする。
と……なんと元々ちゃっちい安物ステッキが、ポッキリと折れたではないか!?
そんなトラブルに気付き……あたふたと折れた箇所を折れたと知られぬよう……腕力で必死にくっつけながら誤魔化す子供。
いや、っていうか誤魔化すための口笛、クソ下手くそすぎないか!? 喘息のひばりかと思ったわ!?
「え……へへ〜、へへ……!」
じゃない!
ステッキも何度もすべって離れてグニャグニャするし……。
へっぴり腰と百面相がおかしすぎる!!
クセが強すぎるだろ。
なのに……まあ〜それが妙にクセになってくる……とうかジワジワ腹にくる。
おかげで、この当たりで吹き出した者が続出しだした。
だけど、そのステッキすら手を勢いよく上げた瞬間、誤ってとおーく後ろへ投げて失くすという……。
どうしようもなくて、今度は泣き笑いでパントマイムショーをはじめた。
ていうかパントマイム……イヤイヤイヤ完成度高いな、何でだよおい!?
で、このまま終盤かと思ったら、何故か最後にマジックショーが始まっていた……。
うん、でも、そのタネがもれなくボロボロにバレていく。
タネでスッ転び、道具をぶちまけ、危うくボヤ騒ぎになるというドミノ倒しに被害が拡大する……あの……大惨事じゃない??
だが、客はその滑稽さとあり得なさに、ウケにウケている。
で、油断していた最後の最後の手品の大技にチャレンジという流れに――。
どうせ失敗するだろう……そう誰もが思っていた。
なのになんと、みごとに大成功をおさめたではないか!?
で、それはいいとして。
……何だ……その、鼻の下をのばした上に、最大限に顎をしゃくらせたドヤ顔は……!?
非常にイライラする――。
だがスッと一度、真顔に戻り、もう一度そのしゃくれドヤ顔を嬉しそうにされたら……もう……もう、駄目だった。
はい、悔しいですが……俺も笑いましたよ。
笑いました。クッソ大爆笑。
というか本当に……何者なんだよ、こいつは〜!?
「えっへへ〜最初、習った部分の得意なものだけ繋げようと考えてたら……途中で失敗しちゃって! 『ならもういいやっ』てつい開き直っちゃいました!!」
……だとしたら生まれながらのエンタメのセンスとアドリブ力。胆力が君、エグ過ぎない?
「ではでは改めまして……」
そう言ってガキは俺の前にサッと起立する。
「私はアニエス・ロナ・チャイルズ・アルティミスティア、八歳です。本日、錬金術師ジオルグ・アルマ様に弟子入り志願に参りました!!」
そう、ニカッと歯が抜けた顔で笑う。
「…………」
なんつー毒気を抜く笑顔。
実に奇妙な出会い。
まさかこんなガキと、その後トンデモナイ腐れ縁になるとはその時は露知らず……。
俺はただだだ胡散臭そうに……だけど憎みきれずに得体のしれない子供を見つめた。
それが俺とこの一番弟子……アニエスとの最初の出会いだった。
【閑話あとがきオマケ】
「そうか……悪いけどやっぱり興味無いわ〜」
あのあとアニエスが必死に俺にプレゼンしたが、俺はそれを聞いてなお、シッシッと追い払うように手を払った。
「え、え!? 魅力的なお話ではありませんでしたか!?」
それにアニエスは慌てる。
「確かに不安定な仕事で……弟子入りの見返りとして、安定した月々の月謝にその他もろもろは魅力的だ。だけど……証拠も確証もないだろう?」
正直、今日、目の前にいる子供にそんな金があるようには見えない。――ましてや誰もが知る超名門ロナ家を名乗るなんて怪しすぎる。
「うう〜、だっていつもの格好で夜の街をうろつくと目立つかなって……? まさかのストリートキッズの格好で来たのが仇になってしまいました……」
いやまあ、ストリートキッズにしてはだいぶ清潔感があるが……。それに断る理由はそれだけじゃない。
「そもそも俺は子供の相手なんかしたことがない。何を話していいかも、駄目かもわからないし……遊びもわからん……教職の資格を取ったのも本当に食い扶持に困った時のためであって……」
「え!? 教職の資格もお持ちなんですか? ……こ、これは朗報、使えます! メモメモ……」
俺の言葉尻を拾って、実際にメモを取るアニエス。
「いや、だからやらねーよ!? 子供は好きじゃないんだ」
「じゃあ何がお好きなんですか?」
「……二十代の男が好きなものかな」
面倒なので適当なことを言っておこう。
「なるほど……ギャンブルと、女性とお酒か!」
「どんな教育受けてるの君!?」
まあ、でも六、七割は合ってるな!?
「じゃあ、私が将来スーパーハイエンド爆美女のGカップになると誓うので……この通り、お願いします!」
「それこそどこにその保証が……じゃあ君のお母さんのかなり胸が大きいのかな?」
そう言われアニエスは暫くきょとーんとして、すぐにキリッと眉をつり上げた。
「黙秘権を行使します!」
「ダメだこりゃ……」
こうして夜は更けていった。
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《あとがきのあとがき》
思わぬ流れ弾をくらうディアナに合掌。




