4、【アナザーストーリー】生死の境にて ※挿絵あり
壱年前。ローゼナタリア連合王国王宮内ーー。
カツカツカツカツカツカツカツ。
ごとん。
「すみません。行儀見習いのアルティミスティアです。今日の新聞を読ませて頂いてもよろしいでしょうか?」
アニエスが一段高いカウンターの中で仕事に従事する、王宮図書館第一本館の司書官に声をかける。
「ああ、本日もやはり来られましたね? ちょっと待っていてください!」
そう言い、司書官は奥から当然のようにある鍵をとってきた。
毎日、繰り返されているそのことがすっかり当たり前になっているからだ。
「はい、おまたせしました。新聞室の鍵でございます」
「ありがとう存じます!」
「それにしてもローゼナタリアで発行される地方含め、全紙の新聞を三年近くも毎日毎日、確認するだなんて……さすがは王宮宮廷行儀見習いというか。実にその心根は感心いたしますね!?」
「そんな、大層なものでは決して……」
「いえいえ、妃殿下や高級女性官吏を目指されるなら、やはりこれくらい国内に関心が高くて、国の行政に明るくなくてはと思いますよ!」
「はい、……そうなのかもしれないですね……」
アニエスはそんな賛辞に、いつも曖昧に笑顔で返事をする。
何故なら、本当にそういうものではないからだ。
アニエスは新聞室に入ると、三十はある紙面を片っ端からチェックし始める。
見る記事は決まっていた。死亡欄……いわゆるお悔やみ記事だ。その記事を見逃しの無いように、二度は必ず見る。
「……無い」
見覚えのある名前が無いことに心底ほっとする一方。相手が名前を変えていないことを、心より祈る毎日。
続いて各地の事件、事故、行方不明者の記事に目を通す。こんな時、アニエスは自分が速読ができることに心から感謝せずにはいられなかった。
でなければこんな膨大な数の記事を、アニエスが行儀見習いの習い事やお役目や、勤めの合間に全部見るだなんてことは絶対に不可能に違いない。
そして、それらの記事にも何か気にかかるような記述はなかった。
悪いことが無いかわりに得られる情報は今回も何もない。
本人たちのプライバシーは度外視されているが、本名や住所が記載されるローゼナタリアの過激な報道姿勢に、アニエスはここ数年、誰よりも感謝していた。
(旅券は元研究室に残してあった。役所に手続きがあれば連絡が私にくるよう手は打ってある……。不法入国や亡命でもしないかぎり、海外に行く可能性は低いけれど、それだって絶対ではない……)
まるで、大海原で小さな失くし物を探すような頼りなさ。
それでも、何もしないよりはマシなはずだと、アニエスは自分に言い聞かせ、ただ一人のその相手を探し続けた。
興信所はとっくの昔に何社にも渡って使っているが、とんだ役立たずに終わっている。
しかし、自分がここまでしても相手の何も掴めないのは、自分よりはるか大きな力がそれを覆い尽くしているからだというのを、アニエスはとっくの昔にわかっていた。
(そうだわ。手を下したのはおそらく……)
「どうかお願い……。お願いだから、生きていてください……!」
アニエスは震える声で懇願する。
自分に出来ることならなんでもするから、だから、どうか!! と……。
アニエスは新聞を丁寧に直し、もとの場所に戻した。
明日もまた、ここに来ることになるだろう。
これからも続くのだ。
彼の生か死を確認する、その時までは………。
ロリアニエス12歳頃の図、竜との契約済み。




