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38、崇拝と禁句と利き酒

 

「お前のことは実はずっと仲間を使って追わせていた」

「えっ……」


 え、何それストーカーじゃん。怖いんだけど……。


「いやまさか、あの借金を返せることがあるなんてな? しかもこの短期間に……さすが、ジオルグ。俺が見込んだだけあって()()()()()


 というか、もともと裏切ってきたのはこいつのはずで、普通、未練があるのは俺の方だと思うんだが、むしろこいつの方が俺に未練たらたらな気がするのは気のせいだろうか?


「いや、まるでお前は俺を高く評価しているように聞こえるんだけど……俺に愛想をつかしたから他の仲間と共謀して裏切ったんだろう?」


 それにローハイドは、まるで俺が何にもわかっていないのをあざ笑うように高笑いした。


「ほーんとに、お前って鈍いよ? それとも自分より弱い他人に興味がないのか!? 俺は今も昔もお前を高く買っている。……いや、むしろ崇拝すらしているぜ?」


 いや、何言ってんのお前……?


「……本人には見えないもんな、その鬼神のごとき狂気の戦いっぷり……側にいるだけで全身にべったりと貼りつく恐怖と興奮。圧倒的な強さに、いつの時代も男ってやつは恋焦がれるもの……だから俺は早々に敗北を認め、お前の側でその強さを近くで眺めることを望んだ。それなのに…………仲間になった途端お前ほどつっっまらない男は見たことがない!! おそろしい才能と実力を有しながら、小市民に納まろうとする。小さな決まり事さえ真面目に守る。さらに小言も多いし、幼年学校なのか?? で、世話をしていた子守りの仕事がダメになって、より腑抜けに拍車がかかった…………その当時の俺の煮えくり返ったハラワタをお前に見せてやりたいぜ!?」


 ええ!? じゃあ単に期待外れの俺への嫌がらせのためにわざわざあんなドロドロの裏切り劇を繰り広げたっていうの??


「わからん!! 悪いがそれは単なる買い被りだ……俺は俺の分を自分が一番よくわかっている。期待外れかもしれないが、それがもともとの俺の素なんだよ!」


「はあッ? ふざけんなよ? 崇拝されるなら崇拝されるだけの気概を持てよこのタコ!! 偶像(アイドル)がトイレ行かないように、お前も常にお強い姿だけ見せて、こっちを見下せ!?」


 んな、むちゃくちゃな!! 馬鹿か!?


「まあ、せっかく久々に会ったんだしさ、喧嘩なんてつまらないことはやめてゲームをしようぜ?」


「いや何を突然……ゲーム?」


「ああ、とりあえず三回戦だ」


「俺はゲームをしに来たんじゃない。宝玉さえ返してもらえればあとは用事はねーよ」


「いいだろう? ゲーム一回勝つごとに、宝玉を一個返してやるよ」


 いや、だからその宝玉はもともと俺のだっつーの!!


「……そうすれば、お嬢様から貰ったお小遣いも無駄遣いせずに済むだろ?」


 ………………なに?


「いやーーー!! 綺麗になったよなあああ、びっくりしたぜ。今十六歳だっけ? 食べ頃、抱き時じゃん! 公爵家のご令嬢なんて普通は深窓に潜っててお目にかかれないが、噂だと一人でふらふらふらふら出かけるのも珍しくないそうじゃないか? やっぱりどんな人間様も堅苦しいのはお嫌なものなのかねぇ?」


「お前…………あいつのことまで何を調べてるんだよ……?」


「……俺の後ろのさるお国が欲しがってるんだよね。そのお嬢様を。……そりゃそうだよな? かのロナ公爵家のご令嬢をローゼナタリアが守り切れず拉致されたとなれば動機は十分。中ではロナと王家との決裂。外からは戦争を仕掛ける口実になると思わないか……?」


「……………………それ以上言ってみろ、今ここでお前を……………………殺すぞ………?」


「あああああああっっ、いいねええ! 見てみろよ俺の部下がお前の雰囲気にビビッて腰抜かしてる……!! 普段一切外に出ない殺気が出ると、本当にお前は怪物じみてる……。たった一人の殺気で、このフロア全部にプレッシャーをかけるなんて、常人にはひっくり返ったって真似できないぞ!?」


「俺の弟子に…………指一本近付くな…………!」


「……ああ、ゲームは受けて立つなら、喜んでどんな約束もするぜ? 俺はお前と遊びたいだけだからな?」


「……何をするんだよ?」


 ローハイドは俺の返事に喜びでキラキラとした目でうんうんと頷く。きっしょいなこいつ!!

 マジぶっ殺してやりたいよ!!


「ジオルグは確か酒が好きだろう?」


「ああ……それがどうかしたか?」


「まずは手始めはスマートに遊ぼうぜ。ここはあくまで紳士の憩いの場だからな? さてここに五種類の酒がある。どれも名のある名酒だ。これで利き酒しよう?」


 そう言い、ローハイドは五つの酒瓶を出した。その酒の栓を抜き五つのグラスに注ぎ入れる。


「飲んでみろ。どれも間違いなく一級品だぞ?」


 俺は、五つのグラスを慎重に空けた。


「………………ああ、確かにな。どれも上手い酒だ」

「じゃあ、次は目隠しして、飲んでもらおうか?」


 そう言い、助手の半裸メイドが俺に目隠しをする。あ、あの……胸が当たりそうなんですが……。

 俺は、素直に目隠しの状態で五つのグラスを順に飲み干した。


 うん……なるほど、なるほど。


 ……そういうことか。


「おやおや、一個ずつ確かめなくていいのかな? じゃあ、わかったら、どれが何番目に飲んだ酒か言ってみてくれ!!」


 そう言われ、俺はグイッと目隠しを下げた。


「おいおいおいおいおい……いきなりルールを無視するんですか?」


 俺は、そんなローハイドの言葉こそ無視し、二階にも存在するバーカウンターへとスタスタと歩いて行く。

 バーテンダーに声をかけ、俺は順に指をさした。


「……悪いが、それとそれとそれとそれと、そしてそれ、ボトルごとくれ。会計はあの舞台にいる金髪入れ墨のクソ野郎に付けてくれ!」


「え、あ、あの……はい」


 俺は、酒瓶を受け取り戻ると、ローハイドのテーブルの前にそのままドドンと置いた。


「……わざわざ全部の酒瓶の中身を入れ替えての利き酒だって……? ずいぶんな遣り口だな。オイ?」


 それに対し、ローハイドも周りも、全員が目を丸くして感嘆の声を上げる。


「……!! さっすがだなあジオルグ!? この歓迎のゲームを一発クリアしたお客様は当店でお前が初だよ!?」


 どれも飲んだことのある酒だったのは実に運が良かった……。

 一口飲み違和感を覚え、二瓶目で確信した。


 飲んだことのないものだったら、思い込みからあの瓶の中から選んでいただろうが、無類の酒好きが、まさかこんなところで役に立つとは思わなかったよ?


「ではでは、商品の進呈だあ!」


 半裸のメイドがローハイドから宝玉を受け取り、赤いクッションに乗せて俺のもとへと持ってくる。 


 うっ、目の前にすると本当に目のやり場が……俺は視線を横に手を伸ばした。すると「やんっ!」という声がした。な、なんと、メイドさんの大事なところに俺の手がかすってしまったようだ。


「ご、ごご、ごめん!!」


 俺が慌てて謝るとメイドさんは怒らずに、にっこりとほほ笑み、わざと俺の手の甲に裸の胸を擦りつけてから、クッションに乗せていた宝玉を俺の手にやさしく握らせて行ってしまった。


 ……ふああああっ!? ……あ、ありがとうございます!


「おいおい、サービスが過ぎるぞ?」


 ローハイドがそれをニヤニヤと下品な顔で見ていたことに気付き、俺はハッとしてゴホンっと咳払いをした。


「さっそく、ワンゲーム取ったところで、次のゲームに進みますか?」


 こいつはどんな卑怯な手段を使うかわからない。

 しかし、相手が懐を全開にして歓迎している今、これはまたとないチャンスだろう。


 俺は、覚悟を決め、大きく息を吐く。


「ああ、次のゲームは何だ?」




 そう、毒を食らわば皿までだ。

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